113 戦乱のドワーフ王国
今回は魔物が地下から出てくることも考えられる為、馬での移動はせず、徒歩で移動することが決まった。
俺達はドワーフ王国の使者と合わせて七人のパーティーを組み、ロックフォードから出発することになった。
「ルシエル様、今からドワーフ王国へ急いで向かったとしても、それ程状況に変わりはないと思われる。その前に食事を摂ってからの方が良いでしょう」
「確かにそうか」
ライオネルからの助言で、俺達はその場で夕食を食べることにした。
ドワーフ王国から来た二人は文句を言いかけた。
しかし、グランドさんが同調したことで、それを口を出すことはなかった。
ただ二人は食事に一切手を付けなかった。
「暗いな。やはりロックフォ-ドとは違うか」
「ルシエル殿、明かりを照らせば魔物が引き寄せられてくると思うが仕方あるまいよ。ライトを使ってくだされ」
グランドさん達とドワーフ王国からの使者は、夜目というスキルを所持していた。夜目は暗闇でもある程度の視界を確保出来るスキルであるとグランドさんが教えてくれた。
これは暗いところで育つと取得出来るスキルらしく、大半のドワーフが所持しているらしい。
「今宵は月明かりがありませんので、ケフィンの通ってきたルートを辿れば問題はありますまい」
「そうですね。ライト一つあれば、迷わずに行けると思います」
「ケフィン、道案内は頼む」
「はっ」
まるで五人で進んでいるかの如く、俺達はフェイクの町を抜けた。
地震は土龍が解放されてから止まったので、いきなり地面に穴が空いてということにはならなかった。
ケティとケフィンのコンビが魔物を発見したりしながら、速いペースのまま倒していく。
俺はドワーフ王国の使者二人に対して不信感があった。
道案内を率先して引き受けるわけでもなく、戦闘に加わることもしない。
その上、それを当たり前だと思っている節があることに、イラつきさえ覚えるのであった。
それから暫らく歩くとケフィンが声を上げた。
「着きました。ここから入れるようになっています」
「ここからは我等が案内致す」
「付いて来られよ」
グライオスとアレスレイと名乗った二人のドワーフが率先して前を歩き出した。
俺はそこで立ち止まり、グランドさんを見た。
「……言いたいことは分かる。大変申し訳ないのじゃが、今だけは許してくれ」
グランドさんは小声でこちらに訴えかけてくるので、仕方なくゆっくり深呼吸し、不満を飲み込んで二人の後を追った。
ドワーフ王国へと続く洞穴の高さは二メートル前後で、精霊達と出会った時に通った道と似ていた。
「やはりこの高さだと大剣では難しそうですね」
「ドワーフ王国に着いて防衛をする時に、そこで戦うことがあったら大剣を思う存分使ってくれ。その他は短槍になるしれないが…」
「……今回の出番は仕方がないので、ケティとケフィンに任せて、私はルシエル様をお守りしますか……」
「そこはもう少し、気合を入れてくれ」
あからさまにがっかりするライオネルに俺は苦笑するしかなかった。
何かある場合は必ず俺をガードしてくれているのに、戦いを渇望するその戦闘狂のブレない気持ちを、少しだけ俺も見習おうと思った。
曲がりくねった道を歩き、二又に分かれた道を迷いなく進んで行くが、そこで魔物が出ると足が止まる。
俺がグランドさんを見ると額に手を置いていた。
「ケティ頼む。ケフィンは道案内を」
「お待ちください。我等が案内を務めます」
「だったら、魔物をさっさと倒して向かってください。あなた方が出張って来たのは何のためですか?」
「「…………」」
「グランドさん……いいですよね?」
「ああ」
「行くニャ」
ケティが地を蹴り、壁を蹴り、蟻の魔物を屠る。
ケフィンはそれを通り過ぎ、道案内を開始する。
「もらっていくか」
俺は魔石を回収しながら、それに続いた。
その後、数回の戦闘はあったが、完全に彼らはそれを見ているだけの置物に過ぎなかった。
「ここを曲がればドワーフの国です」
ケフィンがそうこちらに告げた瞬間、アレスレイが一人で走りだした。
全員それについて声を失った。が、グランドさんを見ると察しがついた。
「……もしかして、あなた達は……」
俺がそこまで言うと、洞窟内に叫び声が響き渡った。
ケティとケフィンが弾けるようにアレスレイの曲がった道へと急行する。
それを見た俺達も向かうと、蟻に肩を噛まれたアレスレイの姿があった。
蟻の魔物はケティの攻撃により直ぐ肉の塊へと変わった。
「どうだ?」
「怪我は負っていますが、命に別状はありません」
「はぁ~。リカバー、ヒール」
俺は詠唱破棄してケフィンにアレスレイを担ぐように命じた。
それから間も無くして俺達はドワーフ王国へ到着した。
「さてと、戦闘になっているみたいだけど、ライオネルは防衛に動いてくれ」
「はっ」
俺は炎の大剣とヘッドライトをライオネルへ渡すとライオネルの顔は一気に笑顔になった。
「ケティは俺の援護に周り、先に負傷者の救出と回復」
「ニャ」
ケティも戦闘があるエリアに俺と向かうことを知って笑顔がこぼれる。
「ケフィンは二人の使者を王の元へ送り届け、グランド殿はケフィンが私の従者であることを王に説明しておいてください」
「はっ」
「……承知した」
ケフィンは頷き、グランドさんは頭を垂れた。
グランドさんも損な役回りだと思いながら、俺達は移動を開始した。
ライオネルはドワーフ達と魔物が戦っているところに名乗りを上げながら、戦闘に加わっていった。
「我こそは、聖シュルール教会S級治癒士ルシエル様が家臣、ライオネル。ドワーフの方々に助太刀致す」
炎の大剣を振るうと、数匹の蟻の魔物が燃えながら、吹っ飛んでいった。
「ライオネル、楽しそうだな」
「イエニスの時から戦闘がしたいって言っていたニャ」
「取り敢えず、怪我人を探すか」
「……いたニャ。怪我をした兵をあそこに運んでいるニャ」
「こんなに薄暗いのに良く見えるな」
「猫獣人も夜目のスキルを持っているものが多いニャ」
俺はケティを追ってドワーフ兵が運び込まれいるとケティに言われた建物へ直行した。
建物の中は明るくなっていて、多くの怪我人がいることが分かった。
誰もこちらを見てはいないし、興味もないといった感じだったが、ちょうど良いと思った。
「私はドラン殿の主で聖シュルール教会のS級治癒士をしているルシエルと言う。ドラン殿がどうしてもと頼むので、貴殿らの治療をしに来た。一番の重傷者は何処だ?」
俺がそう告げるとドワーフ達は一斉にこちらを向いた。
その何人かには怒気が見え隠れしていたが、治療が先と判断したのか、俺を呼ぶ声が掛かる。
「こいつが一番の重傷者だ」
俺が駆け寄ると、そこには肩や脇腹、足からも出血している死に掛けのドワーフがいた。
「さすがドワーフ。屈強を謳うだけはある。ハイヒール」
俺は詠唱破棄で、ハイヒールをかけると抉れていた肩などが盛り上がり綺麗に回復していった。
「血を流しすぎだが、しっかりと食事を摂れば直ぐに動けるだろう」
それを見ていたドワーフ達が目を丸くして息を呑んだのが分かった。
俺は彼らが暴走する前に直ぐに口を開く。
「俺の半径三メートル以内に重傷者を入れてくれ。それから動けるものは自分で入ってくれ。全員を治す。もしこのことを感謝するなら、ドランにしてくれ。さあ次の重傷者はどこだ?」
計三度のエリアハイヒールで、建物にいたドワーフ達は再び武器を持ったので、エリアバリアをかけて見送った。
「誰か他に怪我人がいるところに案内してくれ」
「……俺が案内しよう」
それは一番先に重傷者を教えたドワーフだった。
「頼む。救える命があるなら、救うのが俺の仕事だ」
「警戒は任せるニャ」
建物から出るとドワーフは直ぐに口を開いた。
「……ドランさんは元気なのか?」
「ああ。元気になって色々な物を作ってもらっている」
俺がそう言うとドワーフは振り返りこちらに掴み掛かかろうとした。
しかし掴み掛かる前にケティの細剣がドワーフの首に突きつけられる。
「くそが……ドランさんは腕を失ったのに……」
「ドランの両腕なら、ちゃんと直したぞ。ポーラも楽しそうに毎日魔道具を開発しているぞ」
俺が笑って告げるとドワーフは、一瞬呆けてから、自分の顔を殴り、こちらを睨みながら口を開く。
「ドランさんに加えて、ポーラちゃんまで毒牙にかけ「てませんから。それに二人はもう奴隷ではありませんよ」なっ?!」
「本当ニャ。今、グランド殿がドワーフ王のところに行っているから、あとで、聞いてみるといいニャ」
「グ、グランド様だと?!な、 何と失礼致しました」
「謝るのは後にして、苦しんでいる怪我人を先に助けたいんだけど?」
「こちらです」
急に甲斐甲斐しくなり、案内もスムーズになったドワーフに俺とケティは目を合わせて笑うと、彼を追いかけていく。
そこから案内された数件の建物で怪我人達を回復させていった。
漸く建物から怪我人がいなくなると、案内してくれたドワーフが口を開いた。
「申し遅れてしまい、大変申し訳有りませんでした。私はここの防衛を指揮しておりましたランドルと申します」
「はい、お願いします。じゃあ、次は戦闘区域に行きますよ」
「まだ行かれるのですか? 王がお待ちなのでは?」
「……王がどうであれ、前線が一番危険なのだから、まずは怪我人を治療することが優先だ」
「…か…畏まりました」
どんどん態度が変わっていくランドルさんは、きっと仲間思いの良い人なんだろうな。
俺は彼に従い、戦闘が苦戦しているところから、回って回復して行こうとすると、どの前線も押し返しているとケティから報告が入った。
「回復したドワーフ達が加わって、完全に形勢逆転したニャ。しかもあそこはライオネル様が……」
その先は言わなくても理解した……いや、させられてしまった。
「がっはっは。足らんぞ、もっとだ、もっと掛かってまいれ」
ライオネルの高笑いが聞こえ、そうなのだろうと判断したのだ。
「あそこの回復は最後にして……回復し終わったら、王のところへの案内を頼んでも?」
「はい。お任せください」
俺はこうして全ての部隊に回復魔法とエリアバリアをかけて回り、ライオネルと合流した。
俺の護衛に戻る時には結構発散出来たと笑うライオネルがいた。
そんなライオネルを無視して、浄化魔法で蟻の臭いと焼け焦げた臭いを取り払ってから、前線のドワーフ達に話しかける。
「……皆さんは、私の従者のように無理せずに頑張ってください。ランドル殿、案内をお願いします」
「え、あ、はい。こちらです」
蟻の魔物の死体が山積みになっていることに、かなり驚いてしまったランドルさんだったが、俺の一言で覚醒し、ドワーフ王の待つ建物へと案内を開始してくれたのだった。
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