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105 研究者や技術者の故郷

 研究者や技術者が集まると言われているこの町は、こぢんまりとしている感じだった。

 まさに街ではなく、町の印象が強く、全体的にこぢんまりとしていた。

 ロックフォードは街道の終着地点にあった。

 山に囲まれてポッカリと空いた場所に、この町が造られていることが分かる。


「ロックフォードって言うぐらいだからもう少し、ごつごつとしたところをイメージしていたけど、思ったよりも普通だな」

 町に着いたので、フォレノワール達は隠者の厩舎に入ってもらい、馬車を魔法袋へとしまってから、町並みをゆっくりと見渡す。


 住居はレンガやコンクリートで作られている感じで、木で作られた建物はなかった。

 又、技術者や研究者が集まっているという割には、大きな工房も目に見て分かるほどのものがなかった。


「この町はフェイクだからな。人も見渡す限りいない筈だ」

 ドランがそう言ったので、改めてロックフォードの町並みを見てみると、確かに住人が居らずゴーストタウンと化していた。


「こっち」

 ポーラが懐かしそうに先頭を歩く。

「あぶっ?! はっ?」

 ポーラがこっちを見たまま壁にぶつかりそうになったので、思わず声が出てしまったが、ポーラはそのまま壁にぶつから……ないで身体が飲み込まれていった。


「幻覚?」

「そうじゃ。光の屈折をうまく使うことで、外敵からは身を隠すために作られた魔道具の効果じゃ。ここに集うのは変わり者だらけで、色んなものに追われている者も多くてな……」

「凄いニャ」

「帝国がここを襲おうとして失敗した理由が垣間見える技術だな」

「がっはっは。これはほんの序の口に過ぎんぞ」

 自分の町が褒められて異様にテンションが上がるドランの案内で、俺達も壁の中に入っていくのだった。

 異世界版プロジェクションマッピングは、昼間でも虚実を映すかなり凄いものだった。


「この技術力があれば、何でも出来るんじゃないのか?」

 俺の呟きを聞く者はいなかった。


 壁に飲み込まれた俺達を待っていたのは……ゴーレム達だった。

「これと戦わないといけないとかは勘弁して欲しいのだが……」

「破壊したと同時に新しくゴーレムが復活するから、時間の無駄になる」

 ポーラがゴーレムの前に立って俺達を待っていた。

「早く」

 楽しそうな顔をしたポーラは、自分の家を自慢したい子供のように見えた。

「ポーラ、私達は初めてなのよ?」

 それをリシアンが窘めながら、俺達が進んで行くと、ゴーレムが動き始めて声を出した。


【ここを通りたければ 知恵を絞り問いに答えよ】

 どうやら問題を答えると通れるらしい。

 俺は少しワクワクしてきていた。

【後方から相手の腰に腕を回しクラッチしたまま 後方に反り投げ ブリッジをしたまま相手へのクラッチを離さずそのまま固めてフォールする技名を答えよ】

 はっ?

「ジャーマン スープレックス」

【道は開かれる】


「……今の問題はなんだ?」

「ここを作った創始者が、ジャンルを選択して問題を出すのだが、変なジャンルが多い。しかも無理矢理通ろうとすれば、ゴーレムが襲ってくる」

「……今のは?」

「たぶんプロレス技って問題じゃな。ポーラはゴーレムで遊ぶことが多かったから、いつの間にか覚えたんだろう」

 この世界にもプロレス技があるのか? そもそもブロド師匠に習っているときに、体術でプロレス技なんてなかったぞ。

「ちなみに間違えたら?」

「特に何もない」

「ないの?」

「先に進めばその意味が分かる。」

「……ちなみに他の問題は?」

「科学って問題で水が気体になる温度や水蒸気爆発の定義とかあるな。あとは鉱山で取れる鉱石を答えるか、数学って言って凄く難しい計算問題が出たりするぞ」

「……ここを創設したのは?」

「レインスター卿だった筈じゃ。数年間はここで暮らしていたらしくて、色々なものをここで開発していたらしい。

 自分の技術で如何しようもならない時に、ここへ技術者や研究者を集めたらしい。

 そんな色々な技術を持つ者が作ったのが、ロックフォードじゃ。

 研究者や技術者の故郷と呼ばれるようになったのは、それからだと言われている」


「……色々と、とんでもないな」

「俺から言わせれば、ルシエル様もそれに近い。その若さだから、きっとレインスター卿を超える大物になるとそんな予感もするぞ」

 ドランはそう言って笑いながら、先を歩いていく。

「……どうにかして別人に変身出来る、そんな魔道具を作ってもらおう」

 俺は新たに決意を固めて、皆の後を追うのだった。



 ゴーレムの間を通り過ぎると、大きな扉と右側に小さい扉があった。

 ポーラはそれらを無視して、正面の扉ではなく、右手の壁へ歩いていく。すると壁に手を置いた瞬間、壁が青白い光を放ち、壁が割れていく。

「これは?」

「魔力認証だ。事前に魔力登録をしていないと、ここに入るまでには相当な労力が伴う」

 ……ここまでの仕掛けには驚いたが、それだったらどうしてドランは奴隷になったんだ?

「ドラン、どうして奴隷になったんだ? そもそも奴隷商とは何処で会ったんだ?」

「……依頼は地底王国に住むドワーフ族の王からじゃった……これ以上は出来れば聞かないでくれるとありがたい」

「分かった。それにしてもドワーフが住む地底王国とかあるんだな」

「エルフにも国があるから、ドワーフも負けじと地下に王国を築いたと言われている」

「そうか。行くか」


 ポーラが開いた壁が閉じてしまう前に俺達も中に入った。



 進んだ先にはしっかりと区画分けがされた町……街が拡がっていた。


「工房だけじゃなくて、畑や牧場まであるんだな。それに太陽もあるし……」

「ここに住んでいる殆どが、工房を持っている技術者や研究者だ。

 だが、もちろん生きているんだから、腹も減る。

 畑や牧場の管理をする為の奴隷を買ってきたり、自分達の弟子に世話をさせたりと色々だ」

「それでも良く食料が賄えるな」 

「一週間に一度は、魔物肉が冒険者ギルドから運ばれて来るし、どうしてもの時は貸し借りも出来るからな。

 俺達もずっとこの町にいるわけじゃなく、弟子を探しに出ることもあれば、依頼に赴くこともある。だから生活に不便さを感じたことがないな」

「住めば都か」

「まずは工房を建てるために、誰かの弟子入りをしないといけないな」

 ドランはそう力なく笑ったが、目標はしっかりと持っているようだった。


 そしてフェイクの町と違って、少ないなりにも人通りがあり、ドランとポーラの姿を目撃すると声が掛かる。

「ドランじゃねぇか!」

「ポーラちゃんもいるぞ」

「お、おいドランの腕が生えているぞ」

「もしかしてまたドランが鍛冶をするのか?」

 そんな声が聞こえてくるが、ドランはそれらを一切無視した。

 いや、前方いる一人の男を見て固まってしまっていたのだ。

「グランドの兄貴」

「久しぶりだな、ドラン。それと一応弟弟子ではあるが、俺の方が年下なんだから兄貴は止めろと言っているだろ」

 ポーラはグランドさんに抱きついて泣いていた。

 完全に他の面子は空気と化していたが、グランドさんがポーラを離してから、ゆっくりと俺に近寄りって頭を下げた。

「ルシエル殿、この度はドランとポーラを救っていただき感謝いたします」

「頭を上げてください。ドランとポーラを見つけたことは、本当に偶然です。

 彼らが私の奴隷になったのは、ドランに能力がありそうだったからで、本当にたまたまです。

 それに私としては、これでグランドさんに幻想杖のお礼が、少しは出来たとそう思っています」

 俺がそう言うとグランドさんは、俺の肩をバシバシ叩いて笑った。

「あの時、本当に頑張って良かった」

「そうですね。じゃあ案内してもらってもいいですか?」

「ああ。皆、ついて来てくれ」


 俺達はグランドさんのあとを追って、歩いていく

 ドランは困惑顔を浮かべ、ポーラも徐々に足取りが重くなっていっているようだった。

 しかし、それが見えてくると二人は駆け出した。


「あれで元通りですか?」

「いや、そこのエルフの嬢ちゃんの部屋も増やしてあるから、前よりも広くなってはいる。まぁ形と場所は再現したけどな」

「お金をお支払いします」

「いや、これは俺に出させてくれ。ドランを奴隷にしてしまったのは、俺が居なくて無理をさせてしまったせいでもあるんだ」

 ……ドワーフ王国か。

 気になるけど、首を突っ込みすぎても駄目だろう。

「……じゃあ折半にしましょう。これからドラン達には、色々と作ってもらう予定ですから」

「……何だか楽しそうだな」

「それはドランに聞いてください。おいくらですか?」

「白金貨八枚だが、あるのか?」

「これでも稼ぎは結構あるんですよ。それにお金を使うのも食料を買う時ぐらいですし」

 俺はそう言って笑いながら、魔法袋から白金貨八枚を取り出すと、グランドさんに渡した。

「……金銭感覚が狂っている訳じゃないな」

「ええ。あ、そうだ。武器のメンテナンスとかを頼んでも?」

「ああ。任せておけ」

 俺達はこうしてドランとポーラの工房に向かうのだった。


 この時、ライオネルとケティがある決意を固めていたことに、俺は気がつかなかった。




お読みいただきありがとうございます。

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