100 黒幕と実行犯
代表者の集会場に移動を始めてから直ぐに声が掛かった。
「ちょっと先に行っててくれる?」
ガルバさんはそう言い残し消えていった。
「流石隠遁ニャ」
後ろでケティがそう評価しているが、それよりもグルガーさんと話すことを優先にした。
相変わらず熊……前世の記憶にあるツキノワグマを連想させる存在感がグルガーさんにはあった。
そのグルガーさんはニコッとしながらこちらを見ていた。どうやらハチミツの話がしたかったらしい。
「まさかハッチ族と友好関係を結んでいるとは、流石に驚いたぜ。ハチミツなんてなかなか出回る物じゃない。だからハチミツを貰った時に、もしかするとそうじゃないか? とも思っていたけど。普通はなかなか出会えない種族だからな」
「いや~彼らとの出会いはたまたまです。それにイエニスを住みやすい環境にしようと考えていたんですけど……失敗ばかりです」
「だろうな。如何に竜殺しになろうが、今のこの国は腐っているからな。なんでガルバ兄さんがイエニスを出たかを知っているか?」
「いいえ、オルガさんからは昔、神童と呼ばれていたことぐらいしか聞いていません」
「代表者でもないのに、何でもかんでもやらされて、失敗したらその責任を押し付けられる。そんな日常だったんだ。だから俺が冒険者登録した時に、二人でイエニスを出たんだ」
「……ガルバさんが諦めるって」
昔からこんな国だったのか。
「そのしわ寄せが時間を越えてルシエルを苦しめている、そうガルバ兄さんは悔やんでいたよ」
「……人を使う大変さが身に染みて分かってきたところです。ここ最近は、ずっと旅に出たいと思っていましたよ……」
前世で会社に勤めているときは専門分野以外の仕事……俺なら契約を取ってきて発注日や工事内容の指示書にまとめて、それを後は技術部に任せれば良いだけだった。
でも、今は全てのことに対して責任を取らなくちゃいけない、中小企業の社長みたいなものだ。
全ての責任が肩に重くのしかかっている。
「今回は活発化した迷宮を踏破してルシエルが竜殺しになった事で、この国の汚職を無かったことにしようとした代表者達じゃなくて、長老達が悪いのさ。ルシエルは今回祭り上げられたのさ」
「長老?」
長老達が居る……そんな話は一切聞いたことがなかった。
それに竜殺しを広めたのはジャスアン殿だったはず。
疑問を抱えた俺の表情を見てグルガーさんは簡単に説明してくれる。
「八種族会議の代表は皆若いだろ? 最高齢でも四十歳前後だ。それはどうしてか? 長老会……各種族の族長である老害が指示を出しているからだ」
「……そんな話を聞いたこともありませんけど?」
「各種族には代表者の上に代表者達を決める長老達が居るんだ。代表者達にとっては長老達に歯向かうことなど通常の場合は出来ないんだ」
「……?」
「八種族会議は八種族しかいないんだぞ? それに竜人族の老害は確か加護持ちだから、竜人族は逆らえまい」
……俺はまだまだイエニスについて、知らないことの方が多いってことだな。
「ここ数ヶ月は順調だったのに……」
俺がそう零すとグルガーさんは俺の肩を掴み囁くように今回の件について触れる。
「スラム街を一新させて、ハーフ獣人達や身寄りがない者達を優遇したことが、長老達は気に入らなかったのさ。だから今回の計画を練った」
「……それだけであんな爆発を引き起こしたんですか?」
「ああ。詳しくは後で分かると思うが、建物が倒壊してルシエルが出て来なかったことで、これ幸いと治癒士ギルドにも責任を押し付けることに決まったらしい」
「……ガルバさんってどこからそんな機密情報を拾ってくるんですか? そもそも、お二人って結構前から滞在してませんか?」
「このイエニスの街に着いたのは三日前だ」
「よくバレませんでしたね?」
「ガルバ兄さんがいたからな」
「それで集会場についたら、俺がする役割はありますか?」
「ない。ルシエルは雁字搦めになっていたイエニスに新しい風を吹かせた。邪魔をされても、イエニスを良い環境にしようと進めたんだから、少しぐらい楽してもバチは当たらないさ」
そんな話をしながら、俺達は代表者の集会場へ辿り着くとハーフ獣人達が、虎獣人を筆頭とした獣人連合に囲まれているところだった。
それを見た俺は走ろうとしたところで、グルガーさんから肩を掴まれた。
「安心しろ。誰も傷ついていないだろ? 既に冒険者ギルドの奴等には依頼を出していたからな」
良く見ればハーフ獣人達と獣人達の間に武装した部隊がいてハーフ獣人が襲わないようにバリケード作っているのが確認出来た。
そのバリケードの中にはジャスアン殿やジャイアス殿の姿まであった。
「どういうことですか?」
「もう少し近づいてみれば分かるさ」
その言葉の通り近づいていくとロープで縛られ、口を布で覆われた年老いた各種族の獣人達と、十数名の獣人達がいた。
「待たせたな。ルシエルも無事だったぜ。ルシエル、こいつらがさっき言っていた元凶だ」
グルガーさんが周りに聞こえるようにそう告げた途端、一気に騒然となった。
年老いた獣人達はウーウー唸ってはいるが、一緒に捕まっていた獣人達は大人しくしていた。
「ルシエル様、ドルスターさんを救っていただきありがとうございます。こちらもルシエル様が慕っておられるお二人に言われた通り、しっかりと仕事をさせていただきました」
「えっ? ケフィン隊に怪我は?」
「ええ、ありません」
俺はそれを聞いてグルガーさんにこのことを聞こうとすると今度はジャスアン殿とジャイアス殿が声を掛けてくる。
「流石です。龍の強き加護を受けているルシエル様が、そう簡単に死ぬわけがないと思っていました」
「ルシエル様が死んだと流布し扇動して欲しいと頼まれたときはヒヤヒヤしましたが、いつもは警戒心が人一倍強く、滅多に人前には現れない長老達が一同に会するなど、この機をおいて他にはありませんでしたから、うまくいきました」
二人は俺に安堵した表情を見せると、次に老人達を見下ろした目が鋭くなった。
俺は既にこの状況に付いていけていなかった。
それを見かねたグルガーさんが少しずつ分かるように説明を始めた。
「実は今回の作戦を立てる時に冒険者達を使ったんだ。このイエニスを立て直す最後の機会だと言ってな」
「……学校予定地や元スラム街、それに治癒士ギルドが襲われていたのは?」
「怪我人は少し出るが、これが最善の選択だったんだ」
「……でも、スラム街では死に掛けのハーフ獣人がいました……大事の前の小事という作戦、私には……もしかして火を放ったのも?」
この作戦で何をしようとしていたのかは、大体理解出来る。
ただ俺は甘いのかも知れないけど、人を傷つける作戦には賛同出来ない。
「そんな訳ないだろ。あの爆発にはこちらもかなり驚いたんだ。本当であればこうなる前に、ルシエルに会いに行こうと昨日ガルバ兄さんと話していたからな」
それを聞いてホッとする。
さすがにあんな爆発をわざと起こすなら、二人を軽蔑してしまうところだった。
そこへ軽快な声が聞こえてきた。
「やぁ、待たせてごめんね。変な技を使うから危うく逃げられるところだったよ」
ガルバさんが狸獣人を肩に抱え、脇にはロープで縛られた男が抱えられていた。
すると、さっきまでざわついていた空気が一変し、静寂が場を制した。
「……えっと、その肩でぐったりしているのは、もしかしてワラビス殿ですか? それとその人はさっき俺が助けた人の服装に似ているけど……人族?」
「酷いと思わないかい? 久しぶりにあった私の顔を見ただけで気絶するなんて……それでこっちが今回の破壊工作の実行犯だよ」
「はっ?」
何で実行犯を知っているんだ?
「ハーフ獣人族の皆はこの顔に見覚えがあるでしょ?」
ガルバさんはワラビス殿を地面に下ろすと、脇に抱えたロープで縛られた男の顔がこちらへ見えるように向けた。
「…な…ハットリじゃないか」
そうケフィンが叫んだ。
ハットリって迷宮で死んだはずのあのハットリ?
「死んだって言ってなかったか?」
俺の疑問に答えたのはケフィンではなく、ガルバさんだった。
「色々と裏で仕事をしていたみたいだよ。ここじゃなくてイリマシア帝国のだけどね」
「その人って、イエニスに恩があるんですよね?」
「元はそうみたいだね。なんでも変身したりする能力があって、それを活かして色々と情報収集をしていたみたいだよ。情報収集されたスラムの状況などを長老達に流していたらしい」
「くっくっく。裏切りは忍者の常套手段。拙者の能力を高く評価するところに移って何が悪い……でござる」
何か間違った忍者の知識を覚えた外国人みたいな感じになっているけど…………これが転生者か。
「起きたところ悪いけど、既に君の能力は使えないよ。犯罪奴隷は全能力を封じることも出来るからね」
「そんな訳がないで……あれ? 縄抜けの術が出来ない……でござる」
「ハットリ、何で俺達を裏切った?」
顔役のドルスターさんがハーフ獣人の円から抜けてハットリに問い掛けた。
「拾ってくれたことには感謝しているでござる。だが、拙者には神に選ばれた者としての責務がある」
「神だと? 主神のフレイヤ様が降臨したというのか? 世迷言を。そんな称号をお前は持っていないではないか」
「拙者が命を落としてしまったところを神に救ってもらったのだ……でござる。そんな神に選ばれた拙者が、いつまでも最低辺の暮らしをしていたら、神に申し訳が立たないでござる」
……完全に転生者なんだろうな。
一先ず神様のことは今回の事と関係ないので、置いておくとして…問題は殺人未遂の点をどう思っているかだな。
「ドルスターさん達が、あそこで作業しているのは知っていたはずだ。救出しなければ十数人は死んでいただろう。それについてはどう思っているんだ」
ハットリは俺を睨みながら答える。
「全部お主のせいでござる。帝国から来ていた間者を次々と捕まえるから、拙者が資金難に陥り、この仕事を受けないといけなくなったでござる」
ここでハットリを抱えているガルバが冷徹な目をハットリへ向け話し出す。
「うん。完全に責任転嫁だね。これから君を拷問に掛けて色々と情報を吐いてもらうから、一旦気絶しようか。ルシエル君、物体Xを彼に」
「えっ、あ、はい。ただいま」
俺は樽とコップを魔法袋から取り出して物体Xを注ぐ。
転生者だし、忍者は耐え忍ぶ者だから飲めてしまうのでは? そんなことを危惧していた。ガルバさんが命令するとハットリは物体Xを飲み出し、飲みきる直前に白目をむき泡を吹いた。
「ルシエル…原液を与えるとはさすがだな」
グルガーさんは引いていたが、俺には何のことだか分からなかった。
するとここからガルバさんの演説が始まった。
「皆さんお久しぶりです、知らない方は初めまして、そこに転がっている狼獣人族の長老グラウガの息子です。
私は昔からこのイエニスが嫌でした。
私は十五歳からイエニスの代表者会議に父の付き添いで出席をしていました。
そこで私が見たものは、代表者会議とは名ばかりの集まりで各種族がお互いの足の引っ張り合いを続ける。まともな政策を議論するような場ではなかった。
何かを提案して失敗をすれば、全責任をその種族に押し付け成功すれば権利だけを主張する、そんな薄汚い集まりだった。
これはまともな政策を考えずに、全てを賢者のせいにして追い出し、治癒士ギルドを叩き潰した祖父の時代から続く悪習でした。
現在畑の香辛料が取れているのは、賢者が世界中から種を収穫して育て方を指導し、各国でも売れるように販路を開拓したからです。
決してイエニスの代表者会議が決めたものではない」
ガルバさんは本当に代表者会議を知っていた。
「ガルバ兄さんは若いときに三度の政策を口にしたんだ。二つが成功し、一つは凄く叩かれたんだ。信じられるか? その叩かれた三つ目は長老……族長会議で潰されることが決まっていたんだ」
「代表者会議と族長会議は違うんですね?」
「ああ。さっきも話したが各族長が二年間の種族代表者を決めるんだ」
「それも知りませんでした」
「当然だ」
俺達が小声で話しているときも、ガルバさんの演説は続く。
「そこにいらっしゃる治癒士のルシエル様が、何故イエニスの長に祭り上げられることになったのか? それは代表者であったもの達の不正を隠すためのものでした。
虎獣人族のシャーザは薬師ギルドの元副ギルドマスターだったグロハラと共謀して国の情報を他国へ売り払い、多額の資金を懐に入れて、その金で長老を買収して代表になったと調べがついています。
他にも兎獣人の代表であるリリアルドが虚偽の報告で、浮いた賃金を懐に入れた等の些細なことを隠すために、S級治癒士や竜殺しの異名を持ったルシエル様を長に据えることで隠蔽しようとしたのです。
そして、ルシエル様が何も出来ずにイエニスの長の任期を終えると族長達は思っていました。
ところが彼は普通ではなかった。
まずはあの汚く臭かったスラム街を綺麗にしてみせた。
生まれてくる場所を自分では選べないと、ハーフ獣人でも差別をせずに接してきた結果、彼らが犯罪を起こしたことは一度もなかった。
次にイエニスの未来が明るくなるよう、次世代が活躍出来るために私財を投じ、学校を建設しようとしてくれている。
今日の治癒特区の破壊は、ハーフ獣人と、治癒特区を建設したルシエル様を陥れる為に仕組まれたものだということも判明しています。
イエニスに住む人々よ、これで良いのか? 獣人は恩を仇で返す卑劣な種族なのか? 違うのであれば、共にイエニスを再建していこう」
ガルバさんは今回のことで、悪しき習慣を全てフラットな状態しようとしていることが分かった。
それにしても、学校を作る話が出たときにざわついたってことは、この話を知らない人もまだいたのか。
それについてはかなりショックだ。
俺はグルガーさんに小声で話掛ける。
「ガルバさんに様付けされるのは、背中がむず痒いんですけど?」
「まぁ演説なんてのはそんなものだろう」
「気になっていたんですけど、このままガルバさんが長になったほうがうまくいくと思うんですけど?」
「一時的にはな……」
「それにしてもメラトニの冒険者ギルドは大丈夫なんですか?」
「ああ。暫らくは手助けしてやれって、ブロドに言われてな」
「師匠には感謝しかありませんね」
「任期終わったら、自分で言いに行ってやれ」
「そうですね」
二人を送ってくれたブロド師匠には本当に頭が上がらない。
「本当に大事にされていますな」
ライオネルがそう話しかけてきた。
「ああ。メラトニにいた時も、今回もいつも助けてもらっている。ライオネルも奴隷から解除したら、即、敬語で話す事にするけど?」
「かっかっか。私は今のままがいいですな」
「はぁ~、まぁ考えておいてくれ」
ライオネルはただ笑うだけだった。
ガルバさんは演説に続けて力強く宣言した。
「通常は私には彼らを裁くことはできない。
狼人族の族長を私が襲名し、族長権限で強行権を発動することをここに宣言する」
すると辺りがざわめき始める。
族長襲名?強行権?俺は内容の分からないものが出てきたので、素直にグルガーさんへ質問をした。
「ガルバさんが今宣言した族長襲名って簡単に出来るんですか? あと強行権って?」
グルガーさんは少し間をおいてから話し始めた。
「まず族長襲名だが、族長の死亡または奴隷になるような罪を犯した場合に限り、その種族内で話し合いが持たれ選出後に襲名となる」
「…ガルバさんに異議を唱えられる人なんていないから直接族長襲名が出来たんですね……」
俺の発言にニヤッとしながらグルガーさんは答えた。
「ああ。このイエニスでガルバ兄さんに面と向かって異議を唱えられるやつなんていないさ。 それから強行権だが・・・・」
グルガーさんの話によると強行権はリスクを伴うものだということだった。
強行権は族長のみが使用出来る権利で、使用した場合には以後十年の間、選任された代表者の発言権がなくなるというものだった。
またイエニスは民主主義国家であるため、強行権を発動しても各獣人族への根回しなどがなされていない場合、可決される可能性が極めて低いものであった。
俺は心配になりグルガーさんへ質問を続けた。
「今回は可決されるのでしょうか?」
グルガーさんは、またニヤッと……ニンマリと笑って答えた。
「今回、各種族の族長全てが犯罪奴隷になる行いをしたんだ。だから、今現在、族長はガルバ兄さんただ一人だ。さらに新たな族長が決まれば強行権は復活するんだから今回リスクなんて一つもないんだけどな」
グルガーさんへの質問が終わり、ガルバさんの方に顔を向けると、強行権の内容が発表され始めた。
「じゃあ俺もそろそろ行ってくるわ。それを使った料理を作るから貸してくれ」
グルガーさんはそう言って、俺から物体Xの入った樽を受け取るとガルバさんの所まで歩き出した。
二人が揃うことで、その圧力は倍増していくように感じた。
「今回の元凶となった八種族の長老達は全てを処刑し、財産も全て没収する。
現在の代表者に関しては、全てを一気に解任すると経済が破綻する可能性がある。その為、後任の手続きと引き継ぎ準備期間を設ける。
その後に取調べをして潔白なら奴隷にはしないが、全ての私財を没収とする。
当然黒なら奴隷として、一生開墾の刑に処する。」
「次に今回の爆発を引き起こした男は、全ての聴取を終えたあと、処刑するか奴隷にするかについて元スラム街の代表に決めてもらう。
ワラビスに関しては、今回その男に操られていたことも判明しているが奴隷にすることとする」
「最後に今回は多くの者が暴動を起こした、通常なら全てが犯罪奴隷となるが、ルシエル様が恩赦を願い出られた。
そのためグルガーの作った料理と賢者の飲み物を飲み干すことで恩赦を与える。選択権は皆、平等にある。
ちなみに逃げ場は無いから安心してほしい。皆が同じ条件となる」
「料理を担当するグルガーだ。天にも昇る料理と、いつまでも余韻の残る他では味わえない賢者の飲み物を食べて飲んで、新生イエニスの誕生を祝おうではないか」
グルガーさんは嬉しそうに叫んだ。
俺はそれを見ながら、ガルバさんの今回の処分は厳しいのではないか?
それともこれが妥当なのか? それをずっと自問自答していた。
人に厳しい処分をして嫌なやつに思われたくない…俺は保身に走っていただけなのだろうか?
刑務所や裁判所みたいなところがあれば……と俺は自分で人を裁くことが怖かったのだと気付いた。
色々な感情が出てきて混乱をした俺に、至る所から叫び声や泣き声が聞こえてきた。
物体Xを飲むことによる叫びではなく、各族長達を処刑することで幕引きにしようとしたガルバさんに対する怒りの声も多い。
中には親殺しといった辛辣な言葉もあった。が、ガルバさんは決定した内容を覆す事などなかった。
ガルバさんやグルガーさんが自分の父を裁くということだ。
俺は一つだけ付け加えてもらうことにした。
「刑の執行日は後日決めるってことで、宜しいですね?」
するとガルバさんは驚いた顔をして、頷いた。
「今回のあなた方は許さることのない犯罪を犯した。これから魂は天へ、身体は大地に還るのです。最後の処刑が行われる日まで、懺悔しなさい」
俺はそれだけ付け加えた。
「では、処刑期日まで各長老とその取り巻きを犯罪奴隷にする」
こうして冒険者に引っ立てられていく長老?族長?達を見ながら、このイエニスが少しでも正常になることを祈ることにした。
そして歪んだこの国で誰が誰を裁くのか、その権限が誰にあるかさえ分からなかった俺は、どれだけ上辺の情報に操られ、危うい立場だったのかを知り、そのことに恐怖するのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
何度も書いて、何度も修正して、頭から煙が出ました。
二十歳に人間を処刑する責任を背負うのは不可能だと判断しました。
これについては活動報告で書くことにします。