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初期練習作(短編)

星々の夜

掲載日:2015/07/16

怖くありません。

 重い沈黙が場を支配している。

生徒が一人、不慮の事故によって死亡したからだ。

先生方によく質問に来る、素直な生徒だった。

涙を流している先生もいる。

「原因を追究すべきでしょうか」

いじめかもしれないと思ってのことだ。

しかし、担任の先生には心当たりがなかった。

生徒達には注意書きのプリントを配り、

後はお祭りの日など、生徒が夜間出歩きそうな時に、

先生方が交代で見張りをすることになった。

明日の朝礼では、悲しいお知らせをすることになりそうだ。


 日が暮れ始めた。

生徒はもうほとんど校内に残っていない。

学校の裏山に、ぼうっと光る白い人影がある。

若い女性が二人居るように見える。

二人とも、手には巾着袋を持ち、和服を着ている。

巾着からはうすく光る糸が何本も伸び、

着物の生地もその糸から出来ているようだ。

「八重ちゃん、お腹空いた」

「理恵、食事したばかりでしょう」

年下に見える方が駄々を捏ねている。

八重と呼ばれた女は、理恵をなだめつつ、

山のふもとで自転車に乗っていた男の子を指差した。

「あれでいいんじゃない?」

「嫌よ。もっと大人が良い」

ぶんぶんと首を振る。

「私、ずっとあの男の先生が好きなんだ」

指差す先には、四十歳前後の化学の先生が、

学校の窓ガラスに映っている。

「いいじゃない。お似合いよ」

二人はクスクス笑って暗闇に消えていった。


 数日後、地元の伝統的な祭りがあり、

先生方が見回りをすることになった。

今回は古株の女の先生と、若い男性の組み合わせだ。

実は先日、秘かにカップルになっていた。

公言はしていないが、組み合わせを決める際に、

気を遣われたのかもしれない。

お互いに目配せをして、小さく笑う。

今日は楽しい見回りになりそうである。

その夜は何事も無く終了し、

二人ともそれぞれの家に戻った。


 次の夜、女の先生の方は衰弱を感じるようになった。

だんだんと体力が減っている気がする。

何物かに吸い取られているみたいだ。

何かの病気かもしれない。

彼女は恐怖したが、主治医に相談し、

彼に不安を慰めてもらう以外には、

どうすることもできなかった。


 「あのおばさん、やるわね」

八重が呆れている。

手には巾着袋から伸びる細い糸が握られ、

それは女の先生の魂につながっている。

徐々に生命力を吸い取っているようだ。

力と共に、様々な思い出や体験が流れ込んで来る。

八重はうすく笑った。

中々良い経験、してるじゃないの。

特に最近は、彼と一緒で幸せみたいね。

八重は、生命力で輝く糸に口付けた。

隣で理恵が仏頂面で眺めている。

あの化学の先生の魂が手に入らないからだ。

彼は夜に出歩かず、全く隙が無さそうだ。

仕方がないので、彼に接触した他の魂で我慢している。

そうすれば、彼に関する思い出を一応楽しむことが出来る。


 私たちは夜の精霊の一種で、人間のような

地を這う生き物を養分として得ている。

でも、彼らのほうが、ずっと幸せそうだわ。

あんなに弱くて寿命の短い生き物なのに。

私たちの心の中は、夜の闇のように何も無い。

だからきらきら光る魂を狙って食べに行く。

貴方の幸せな時間を。生命と共に。

私たちは、見ていることしかできないのだから。

限られた時間を存分に生きる人間の魂が、

其々の幸福を紡ぎ出しているところを。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読後に不思議な感覚になるお話でした。 ファンタジーホラーというには少し現実的であり、 SFホラーというにはまた少し幻想的でもある。 面白い趣の作品だなと思いました。
2015/07/17 07:26 退会済み
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