表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

初期練習作(短編)

星々の夜

怖くありません。

 重い沈黙が場を支配している。

生徒が一人、不慮の事故によって死亡したからだ。

先生方によく質問に来る、素直な生徒だった。

涙を流している先生もいる。

「原因を追究すべきでしょうか」

いじめかもしれないと思ってのことだ。

しかし、担任の先生には心当たりがなかった。

生徒達には注意書きのプリントを配り、

後はお祭りの日など、生徒が夜間出歩きそうな時に、

先生方が交代で見張りをすることになった。

明日の朝礼では、悲しいお知らせをすることになりそうだ。


 日が暮れ始めた。

生徒はもうほとんど校内に残っていない。

学校の裏山に、ぼうっと光る白い人影がある。

若い女性が二人居るように見える。

二人とも、手には巾着袋を持ち、和服を着ている。

巾着からはうすく光る糸が何本も伸び、

着物の生地もその糸から出来ているようだ。

「八重ちゃん、お腹空いた」

「理恵、食事したばかりでしょう」

年下に見える方が駄々を捏ねている。

八重と呼ばれた女は、理恵をなだめつつ、

山のふもとで自転車に乗っていた男の子を指差した。

「あれでいいんじゃない?」

「嫌よ。もっと大人が良い」

ぶんぶんと首を振る。

「私、ずっとあの男の先生が好きなんだ」

指差す先には、四十歳前後の化学の先生が、

学校の窓ガラスに映っている。

「いいじゃない。お似合いよ」

二人はクスクス笑って暗闇に消えていった。


 数日後、地元の伝統的な祭りがあり、

先生方が見回りをすることになった。

今回は古株の女の先生と、若い男性の組み合わせだ。

実は先日、秘かにカップルになっていた。

公言はしていないが、組み合わせを決める際に、

気を遣われたのかもしれない。

お互いに目配せをして、小さく笑う。

今日は楽しい見回りになりそうである。

その夜は何事も無く終了し、

二人ともそれぞれの家に戻った。


 次の夜、女の先生の方は衰弱を感じるようになった。

だんだんと体力が減っている気がする。

何物かに吸い取られているみたいだ。

何かの病気かもしれない。

彼女は恐怖したが、主治医に相談し、

彼に不安を慰めてもらう以外には、

どうすることもできなかった。


 「あのおばさん、やるわね」

八重が呆れている。

手には巾着袋から伸びる細い糸が握られ、

それは女の先生の魂につながっている。

徐々に生命力を吸い取っているようだ。

力と共に、様々な思い出や体験が流れ込んで来る。

八重はうすく笑った。

中々良い経験、してるじゃないの。

特に最近は、彼と一緒で幸せみたいね。

八重は、生命力で輝く糸に口付けた。

隣で理恵が仏頂面で眺めている。

あの化学の先生の魂が手に入らないからだ。

彼は夜に出歩かず、全く隙が無さそうだ。

仕方がないので、彼に接触した他の魂で我慢している。

そうすれば、彼に関する思い出を一応楽しむことが出来る。


 私たちは夜の精霊の一種で、人間のような

地を這う生き物を養分として得ている。

でも、彼らのほうが、ずっと幸せそうだわ。

あんなに弱くて寿命の短い生き物なのに。

私たちの心の中は、夜の闇のように何も無い。

だからきらきら光る魂を狙って食べに行く。

貴方の幸せな時間を。生命と共に。

私たちは、見ていることしかできないのだから。

限られた時間を存分に生きる人間の魂が、

其々の幸福を紡ぎ出しているところを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読後に不思議な感覚になるお話でした。 ファンタジーホラーというには少し現実的であり、 SFホラーというにはまた少し幻想的でもある。 面白い趣の作品だなと思いました。
2015/07/17 07:26 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ