〔與-yo〕① 高校デビュー
夕焼けに急かされているのか、早朝から男達が奏でていたけたたましいばかりの旋律はついに乱れ始めていた。絞り出す声は錆びた歯車のように耳を悩ませ、それが途切れると物悲しさが胸に広がった。
直射と反射と、さらには物質に蓄えられたあらゆる熱の四面楚歌に遭って、イイ塩梅に気持ち悪く温められた風が開け放たれた窓から逃げ込んでくる。そのたびに揺らめくカーテンの気だるそうな動きといったらない。
ぼんやりとそれを眺めていても、次第に尻切れになっていく鳴き声が、一つ、また一つと増えていくのが分かる。土の中で何年も過ごし、ようやく地上へ這い出た彼らの一生が瞬く間に終わりつつあるのだ。
そう。呆気なく、何の前触れも寄越さずに、命は突然消えてしまう。まだ七月、夏の盛りには早いのだが、どんなときも砂時計の砂はただ落ちゆくだけ。季節も温度も何も関わりがない。
死ぬものは死ぬ。死ぬ者は、死ぬ。どれだけその者を心の底から愛していようが、どれだけその者が無病息災であろうが、死は決して生きる者達の傍から離れることはない。
その真理に寄り添って、果てるまで生きていくしかないのだ。
来宮ユウミは目を閉じた。今日一日、何度こうして現実逃避を重ねてきただろう。目蓋の裏に滲み出るのは彼――古城ミチヒデの背中だ。中学生の頃に関東から越してきた彼は、その身に降りかかった不運にいつも魘されていた。
――――今から三年前の春。地元中学の二年生に上がった来宮は、新しい教室、新しいクラスメイト、新しい担任の下、その臆病な胸の鼓動をぐっと押し隠していた。
それが自分だけが侵された病でないことは彼女にもすぐに解った。ある者は友達を見つけて安堵し、ある者は新学年早々に孤独になってたまるかと積極的に誰彼構わず話しかけていた。彼女には残念なことに、そのような幸運も行動力もなかった。彼らが大多数を占める中、彼女は早速アウェーに追いやられた少数派のレッテルを貼られてしまっていた。
所詮は中学。小学生時代からの顔見知りくらいはいるし、去年同じクラスだった人もいる。しかし話したことがなかった。同じ空間で轡を並べ、一つの黒板に走る白い文字を追っていた程度の間柄でしかない。
今更そんな子達と仲良くなれるわけがない。孤独が嫌だからと、そんな保身的な理由を下地に、どの面を提げて言葉を交わせばいいのだ。
来宮は知っていた。上辺と呼ばれる仮面の恐ろしさを。それこそが巷で言われているところの、同調圧力の元凶であることを。
しかし解っていながらも、来宮は接触を求めてきた者達の仮面から目を背けることができなかった。それどころか気付いた頃には手遅れ、自分も分厚い仮面を被ってしまっていた。それがきっと、良くなかった。彼女は仮面を被るのが下手だったのだ。
担任が、お知らせがあると話頭を転じた。彼に促されて教室に入ってきた少年こそが、古城ミチヒデだった。
仏頂面で、重く据わった目は床の木目を数えているようだった。担任は黒板に彼の名前を縦に大きく書くと、父親の仕事の都合で関東から越してきたばかりだと説明した。
教壇に立たされたミチヒデ少年は決して生徒一人ひとりに目を向けず、終始足下に呟いていた。辛うじて聞こえた“よろしくお願いします”というセリフに、生徒らはまばらながらに拍手で応えた。
来宮は少し気になっていた。それは容姿が好みだったからかもしれない。しかし今思えばそれ以上に、自分の世界だけを見つめ、他者に媚びる気配一つ見せない彼の態度に、どこか羨ましさを覚えたからかもしれない。
翌日のホームルームのこと。生徒達は一年生からすっかり変わった授業内容に狼狽していた。無駄話を静まらせた担任は、委員会活動のメンバーを決めようと告げた。皆が一様にうんざりした声を上げる中、来宮の視線は左の窓際最後尾でつまらなそうに頬杖を突くミチヒデに向けられていた。
どないするんやろう。下手に推薦されたりせんやろうか。
心配の理由は昨日の放課後からあった。彼は交流を図ろうとする複数の仮面達を押し退けて、決して孤独から抜け出そうとしなかったのだ。その時、仮面達も彼は緊張しているのだと思い、明日また改めて話しかけようと退散した。
そうして今朝、ちょっとした事件が起きた。何度話しかけてもだんまりを続ける彼に業を煮やした男子生徒が彼の胸倉を掴んだのだ。当然教室が水を打ったように静まり返ったのも束の間、騒然となって担任が駆けつける事態にまで発展した。その際のミチヒデの態度には多少の恐ろしさが垣間見えた。
椅子から腰が浮くほど持ち上げられているにも拘らず、その相貌は無感情で、瞳は何一つ揺れることなく男子生徒に向けられていたのだ。
まさに抜け殻。心、ここに在らずであった。
そんな経緯から、この先皆から邪険に扱われるのではないか、損な役回りを押しつけられるのではないかと心配でならなかった。
だがそれは他山の石、あるいは“前車の覆るは後車の戒め”とでもすべきだったか。一人の女子生徒が挙手をして、ある人物の名を担任に告げた。
『学級委員は来宮ユウミさんがイイと思います』
『来宮? 何でや』
『この子は周りを冷静に見れるし、おっとりしてるから空回りせぇへんと思うんで』
当の本人は愕然として開いた口が塞がらなかった。意見を終えた女子生徒は腰を下ろす最中、来宮を一瞥した。じっとりとした眼光だった。
どうしてと彼女は思わざるを得なかった。どうしてそんな目で睨んで、どうしてそんな顔で友達とほくそ笑んでいるのだと。
しかし心当たりがないわけでもない。ほとんど受動的にしか交流を図ろうとしなかった冴えない女の高飛車なペルソナを、この女子生徒達は新学年早々に引き剥がし、地に叩きつけたかったのだ。かてて加えて、きっと転校生である彼のことを気にし過ぎたのだ。異性を異性として見てしまっていたからでもあろう。
担任が、何かを問いかけている。その息遣いから穏便に話を進めようとしているのは分かった。きっと、他に立候補者もいないし、自分もサポートするからやってくれないかというところだろう。
採決が始まると、クラスの全員が賛成に挙手をした。学校生活そのものに無関心であるような古城ミチヒデ一人を除いては。
それが男子生徒にも火を点けた。彼の胸倉を掴んだあの生徒が、ミチヒデを男子の委員に推挙したのだ。
さすがに担任は首を横に振った。イジメの始まりを予感したのであろうし、そもそも県外から転校してきたばかりで右も左も分からないのに大役を任せるわけにもいかないだろうという判断だった。いや、ミチヒデの不良のような態度も気にかかったのかもしれない。
ともかく、男子生徒の思惑は阻止された。代わりに成績優秀な生徒が自ら立候補した。その生徒の性格から、内申点が狙いだということは考えずとも分かった。
目に見えるイジメというものはなかった。担任が来宮や、彼女を委員長に推薦した女子生徒グループを時間が許す限り監視下に置いていたからだ。強いて言えば、たまに女子グループとすれ違い様に、『古城君どこ行ったんやろ~?』と嫌味を言われるくらいだった。
この程度の精神的苦痛なら耐えられた。肉体的苦痛がないだけはるかにマシだった。
特にこの頃は他県でイジメを苦にした中高生の自殺が多発していた。ネット全盛であるこの時代は、正義感や過去に同様の苦痛を強いられたことによる弱者的復讐心、もしくは他者を貶めようという暴力的な思想が相俟って、加害者の個人情報が容易に特定、流出するのは至極当然の運びとなっていた。イジメをするような人間は自尊心が高い傾向もあって、インターネット・ウェブ上のSNSやミニブログ形式の短文投稿サービスなどで大々的に自己主張しているので、第三者からは格好の餌食となっていたのだ。
そうして個人情報が漏れた加害者やその家族のその後は想像に難くないはずだ。だから賢い者は、虐めたい相手を邪険にはするが、暴力や暴言などは一切使わず、とても厭らしい手段を講じてくるのだ。
来宮が強いられたものはきっと、その中でも最も程度が低く優しいものだったに違いない。だから彼女は耐えられた。同時に、周囲を見る余裕があった。あまり深刻にならず、古城ミチヒデを気にかける余裕が、まだ。
新学年が始まってすでに半年が経っても、ミチヒデの周囲には誰も寄りつかなかった。部活動も結局選ばなかったようだし、日焼けをしていないところを見るに夏休みはどこにも遊びに出かけていないようだった。夏休み前にあった体育祭でも出場種目以外ではクラスの応援すらしておらず、人気のない校舎の端の階段からテニスコートを眺めてひっそりと時が過ぎるのを待っているようだった。
文化祭や合唱コンクールの興奮やら達成感やらがようやく冷め切った一〇月の半ば。それは中間テスト最終日の放課後だった。授業が終わると一目散に帰路へつく彼が、その日は珍しく残り、いつもの隠れ家からテニスコートを眺めていた。
テストが終わって開放的になっている軟式テニス部員が、我先にとコートへ飛び出してラリーを始めていた。土で汚れた薄茶色のゴムボールがネットを何度も飛び越していた。一方の打球が相手コートのベースライン付近に落ちるや、相手はアウトと叫んだ。
『オンラインだよ、バーカ』
『テニス、分かるん?』
突然の声にミチヒデはハッとした様子で振り返った。不思議なことに、声をかけた来宮までもが慌ててコートへ顔を背けた。互いに気まずそうにすると、躊躇ってから口を開いたのミチヒデだった。
『東京でやってた』
彼の声を久しぶりに聞いた気がした。もしかすると新学年の開始日に自己紹介して以来かもしれなかった。会話が成立したのもクラスでは来宮が初めてだったろう。
『ボールがコートに入ってたん?』
『あぁ』
彼はそう言い残すと、鞄を持って階段を下りようとした。来宮は叫ぶように問いかけた。
『いつも、いつもそんな感じやね』
『関係ないだろ』
『ずっと拗ねてるみたい』
『お前、こんな風にオレに話しかけてていいのか。またあの連中に何か言われるぞ』
『エエよ。もう慣れたから』
振り返ったミチヒデは少しだけ目を丸くして、そんな自分を恥じたのかすぐにそっぽ向いた。日陰でも光る彼の瞳が弱々しく揺れているのを来宮は見逃さなかった。
『怖くないのか。あんなのイジメみたいなもんだろ』
『嫌やけど、古城君を見とったら、ちょっと安心する』
動揺する彼の姿は歳相応で可愛らしいものだった。何も、怖くない。
『みんな、本音で何も喋ってへんやろ。私ね、ずっと違和感あってん。人見知りやから誰かと何かするのも苦手やし』
『その割によく喋るな』
『うん。せやから、古城君見てたら素の自分でいられんねん。古城君はずっと自分の感情を表に出して、壁作ってるやろ。お前らなんか興味ない、オレは腹立ってんねん……いや、ちゃうか。怒ってるんだ、みたいな』
『怒ってねぇよ』
『じゃあ、何でそんなに不機嫌なん?』
『……親父が、オレの都合も考えずに引っ越しを決めたんだよ』
それはいかにも子供のような口振りで、来宮は少し吹き出してしまった。当然ミチヒデは赤面し、眉を吊り上げていた。
『ごめん、ごめんね。もっと深刻な悩みを抱えてると思うたから、アハハ!』
『いや深刻だろうが。オレの立場になって考えてみろよ。小学校から一緒だった友達と同じ中学に上がって、卒業まで楽しくやれたらなって思っていたら、一年の終わりに親父のヤツ転勤するって言い出したんだぞ。そりゃ会社も大事かもしれないけどさ、単身赴任って手もあったはずなんだ。少なくとも中学卒業まで待ってくれてもよかったのに……』
今思えば彼女はとても大胆な行動を起こしていたに違いない。人見知りで引っ込み思案の彼女が、二人きりで男子生徒と話しているのだ。しかもそのまま校舎の隅に居座るのではなく、家路を共にしたのだ。
しかしこの行為がなければ、二人の高校生活は無かった。あるいはこの行為がミチヒデを死に追いやったとも言えるが、バタフライ効果など認められるものではない。
二人は校門を出ると、勾配のある坂を下りた。
『地元に帰りたいん?』
『今更遅い。向こうの友達から、この三ヶ月くらいメールも〈リンカ〉も一つも来ないんだ。帰ったとしても、あの頃みたいには喋れねぇよ』
『私は、友達になれるよ』
『え?』
『女じゃ不服?』
『そんなことは……。でもさ、やっぱりお前、連中に何か言われるぞ』
来宮は大丈夫だと言った。そうして浮かべた笑みには、もはやペルソナは張りついていなかった。
テレビで見る並木道は黄金の扇柄の絨毯で彩られ、身近な花壇に植えられた背の低いキンモクセイの花からは甘い香りが鼻腔をくすぐる季節になっていた。
放課後の教室には来宮とミチヒデの姿があった。他には誰もおらず、グラウンドや校舎裏のテニスコートから響く声が、冷え始めていた室内をクリアな音で駆け抜けていた。
二人は互いに同じA4用紙を手にしていた。表題は、〈進路希望調査票〉。夏休み前に提出を義務付けられたものとほとんど同じ内容である。
『来宮はどこにするんだ』
『ヤマ高』
『隣の?』
『そう』
彼女らが通う中学校は急勾配の坂道の中腹にある。道を隔てたちょうど真向かいに、彼女が希望する公立高校はある。
『古城君は?』
『土地勘がないからどこがイイとか分からないんだ。ヤマ高は偏差値高いのか』
『それほどでもないで。よく言っても中の上くらいちゃうかな』
『それなら来宮はもっと上を目指せるだろ。この前のテストも成績上位だったし』
『通いやすいやん。私、みんなと違って遠い学校に興味ないし』
ミチヒデは用紙に目を戻し、頭を掻いた。来宮はもう中学以降、このクラスの人間とは関わりたくないと強く願っているのだろうと彼は察した。
彼女が強い女に見えた。一見すると逃げているように思えるが、こうして頑なだった転校生の心を開き、課せられた仕事を文句一つ口にせず全うしている彼女が、とても立派に思えた。
これまで見てきた女性を鑑みるに、彼女は世俗から意識が離れているように思えたのだ。
『お前ってさ、いかにもお嬢様って感じだよな』
『何それ。普通の家の子やで』
『だとしたらご両親の教育が良いのか』
彼女は首を横に振り、『アカンものはアカンっていう普通の親やで。何でって私が聞いたら辞書を引いたような答えを返すだけの、普通の』
『それが、教育が良いってことだよ』
『そうなん?』
『そうだよ。少なくともオレの親や、オレが見てきた友達の親は違う。子供の疑問は軽くあしらうし、満足に正しい答えを返せるだけの教養がないんだ。オレの親も、来宮の親も、ダメなものはダメって同じ言葉を使うけど、その意味はまるで違う』
来宮は彼の前の席を拝借して腰かけている。ジッと彼を見つめ、『まだ、お父さんのことを根に持ってるん?』と問いかけた。ミチヒデはゆっくりと視線を外すと、夕暮れに羽ばたくカラスの群れを窓越しに眺めた。
『いや、もう何も。普通に話ができるくらいの仲には戻ったよ』
『良かった……』
『お前のお蔭だよ』
『え?』
『あのさ、来宮。迷惑じゃなかったらさ……』
来宮は瞠目した。動悸が一つ大きく打ち鳴らされて、その反動でそっと後ろに身を引いた。彼の唇が言葉を紡ぐ。彼女はそれが鼓膜を通じて脳に届くまでの刹那、人生で最も胸がときめいているのを全身で感じていた。
『オレもお前と同じ高校を目指したい。そこでやり直してみたいんだ』
『へ?』
『まぁ、アレだ。俗に言う、“高校デビュー”ってやつだ』
『高校……デビュー、ですか』
深くうな垂れる彼女の額は彼の机の縁に深く沈みこんだ。唐変木な彼は慌てて、『な、何だよ。お前だってそうしたいと思ってるだろ』と問い質した。
片手で顔を覆う来宮は、素直にうなずいた。彼の言っていることは正解だった。また一からやり直せるならどれだけ喜ばしいかと。
『じゃあ、一緒にしよっか。高校デビュー』
それはモラトリアムで交わされた小さな約束だった。失敗を糧に、成功を手にするための大切な契りだった――――。
「できたのかな、“高校デビュー”」
来宮ユウミは夜の帳が下りる様子をあの日の空と重ねている。ベッドの上で膝を抱える彼女の目元は赤く腫れている。
中学三年生に上がった彼女達はまた同じクラスになると、放課後は同じ塾に通うか図書室で勉強するようになった。真剣に教科書や参考書と向き合う彼女らの姿はさながら難関高校を目指しているようだった。その甲斐あって翌年の受験は余裕をもって合格することができた。教師らは勿体ないと渋面を湛えていたが、二人にとってはこれ以上ない満足な結果だった。
四月。紺色だった制服は黒のブレザーに変わった。通学距離はほとんど変わらなかったが、中学時代にできなかった自転車の使用が認められているので通学時間は大幅に短縮された。
二人は心機一転、高校生活をスタートした。同門の生徒は二人以外には同じクラスになったことのない数人だけだったので、それまで表に出さなかった本当の自分を出してもやっかみのような噂は流れなかった。
彼らが行なった“高校デビュー”は大したものではない。金髪にするわけでも身体のそこかしこにピアスを開けるわけでも、ましてや肩で風を切ったり、背伸びをして大人ぶったりするわけでもなかった。ごく普通の学生として、ごく普通の人間として、強いて言えば中学時代よりもいくらか明るく、誠実さを胸に秘めた、そんな少年少女へ成長しただけだ。
もうペルソナは被らなかったし、不用意に壁を作ることもしなかった。
人をよく見て、心から向き合えそうな友達を作るようにした。部活を始め、やがて親友と呼ぶに相応しい相棒と巡り合うことができた。
順風満帆。きっと、これ以外の言葉はそぐわないだろう。
ただ一つ上手くいかないことがあった。それは思春期を迎えた彼らに立ちはだかった。
二人は心の底から気付いてしまったのだ。生涯をかけて愛すべき者の存在に。
「意気地なし。唐変木……」
あれだけ望んだ新しい環境が彼らの最たる障害となっていた。いつしか二人は疎遠になり、言葉を交わすこともほとんどなくなっていった。
もっと話したいことがあったのに。伝えたい想いがあったのに。
来宮は固く目を閉じ、うな垂れた。脳裏に浮かぶ彼の姿がまたぞろ万華鏡のように現れて、彼と交わした言葉の数々を想い起こさせた。
おもむろに彼女は立ち上がった。クローゼットを開けた彼女の顔は決意に満ちていた。
枯れ果てた蝉の声は、降りだした雨にかき消されていた。