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高レベルなイケメン? 前

 自室にて、小春は持っていた絵の具の筆をことりとおいて大きく伸びをした。目の前に広がっているのは小夏から頼まれたウェルカムボードのデザイン画だ。貰ったカタログやら資料やらを読んで悩んだ挙句、なんとか描きあげた。

 「うーん、こんなもんかな?」

 独りで呟いて、なのにちょっとだけ首をかしげた。

 数日かけて描いてきたものなのに、渾身の作だと思っていたのに、いざ出来てみるとなんだか少しだけ納得できないような。見栄えは悪くない。色合も悪くない、と思う。だけど、何かが足りない気がした。

 でも、もうそんなに時間もないし。何より、他にどんなものを作りたい、というようなデザインのアイディアもこれ以上のものは出てこない。

 (力、出し尽くした、もんね?)

 これが自分でできる精一杯だ。

 ふう、と息を吐いて座っていた椅子から立ち上がってベッドにごろりと寝転んだ。もう一度大きく伸びをして、それからはたと動きを止める。

 (そうだ。電話しなきゃ!)

 思い立ったらすぐ行動。携帯電話を操作して、友人に電話をかける。コール3回で相手が出た。

 『もしもし?』

 「もしもし、梓? 久しぶり」

 『あはは。先月もあったじゃん。どうしたの?』

 相手は高校時代の友人だ。今も仲が良くてしばしば会って遊ぶ。

 「もし、都合があえばなんだけど、梓、バイトとかできないかな? レストランなんだけど、バイトの子が怪我しちゃって2週間くらい働けなくなっちゃって」

 『うーん、難しそうかも。私も課題とバイトでいっぱいいっぱいで、ちょっと2週間は予定があかないかな』

 「そっか。ありがと。……じゃあまた遊ぼうね」

 と言って切ろうとしたら「あ!」と携帯電話の向こうから慌てたような声が聞こえる。

 『待って小春。それってかなり困ってるんだよね?』 

 「実は、かなり」

 『丁度手が空いてそうな人がいるから。頼めばやってくれると思うんだけど』

 「ホント!?」

 『多分。……聞いてみてまた連絡するね』

 しばらくして、折り返し電話があり、小春は柏木の代わりのバイトを見つけることができたのだった。


 「やー久しぶり三崎さん」

 「久しぶり黒須君。道に迷わなくて来れたんだね。良かった。……なんか、変わらないねえ」

 店の前で落ち合って、そんな挨拶をする。

 高校時代の同級生は、元から大人っぽい顔立ちだったせいかあまり変わっていなかった。陽気なノリも昔のままだ。

 「いやいや、三崎さんには及ばないよ。まんま、高校の頃の三崎さんだもん」

 あっけらかんと黒須は言う。聞きようによっては失礼だけど、彼が言うとむっとしないのが不思議だ。

 「それで? バイトってウェイターだっけ?」

 「そう。ごめんね、無理言って」

 「いえいえ。うちの彼女と仲良くしてくれてる三崎さんの頼みでしたら断れませんよ」

 「あれ? 黒須君の彼女って私の知り合いなんだ?」

 「え? 聞いてない?」

 「うん。……白雪姫、とか?」

 高校の頃の有名な美少女同級生の名前を言ったら、黒須は微妙な顔をした。

 「やめてよ気色悪い」

 「あんな美少女を気色悪いとかひどい」

 それに確か、黒須と白雪姫は高校生活の後半かなり仲良くしていた印象があったのだけど。

 まあそれにしても、自分でもちょっと意地悪かな、と思う。相手が誰か、はなんとなく想像できているのだけど、本人から正式な報告を受けていないからといってこうやってそ知らぬ顔をするのは。

 「まあ、彼女の方は後でとっちめておくとして。それで、何をすればいいの?」

 黒須は不穏な事を言った後、気分を切り替えたようにそう尋ねてきた。

 「あ。それに関しては今日柏木って人が説明してくれると思うから……中で紹介するね」

 黒須を伴って開店準備前の店のドアを押すと、カランとドアベルの音が鳴った。

 

 「お待たせしました。前菜の鶏レバーのムースキャラメルソースかけです」

 「ちょっとあんた、あのメールなによ」

 前菜を持って行ったら、さっそく聞かれた。綾音嬢だ。

 黒須は飲食バイトの経験が結構あるらしく、すぐにコツを飲み込んでくれたので柏木がいなくとも、そこまで忙しくなる事はなかったのが幸いだけど、それでもこの混雑時に無駄話はしている余裕はあまりない。

 「知りませんって、何よ」

 「いや本当に知らないんですって」

 大体なんでいつもこうやって偉そうに上から命令してくるのだろう。

 連絡先を交換してから既に小春は毎晩のように綾音からメールか電話を受けていた。昨日はさすがに精神的にも身体的にも余裕がなかったので、質問のメールに「知りません」と一言だけ返信して寝たのだ。本当に、知らなかったし。

 「知らないなら調べなさいよ」

 いつもいる柏木がいないで他の男が働いているのにもまったく注意を払っている様子はなく、メールの内容にしか興味がないらしい。周囲の女性客は新顔のイケメンウェイターに興味津々だというのに。

 「あの、今仕事中で忙しいんですけど」

 「え……? あ、ああそうよね。あんたが運ばなきゃ、ハヤシダさん、困っちゃうものね」

 名前を呼ぶ時にちょっと緊張して声が硬くなるのを微笑ましく思わないではないけれど。

 「じゃあ、そういうことで」

 小春がさっさと立ち去ろうとすると、綾音は「あ」とまだ呼び止める姿勢。

 「じゃあ、休憩時間になったらまたあそこ来なさいよ」

 「へ!?」

 「それまでにちゃんと聞き出してね」

 しっし、と手を振られるし、だらだらしている時間もあまりないないので、色々と不満は残るものの、小春は綾音の席を後にした。

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