来とる :約2500文字 :コメディー :会話劇
とある劇場にて――。
「どーもお!」
「はい、どーも」
「パンチングマシーン八号です」
「よろしくお願いします」
「いやあ、世の中には『これっておかしくない?』ってことが、たくさんありますよねえ。普段は当たり前だと思って流してるけど、よく考えてみたら、『どうして誰も疑問に思わないの?』ってことが」
「まあねえ。気になることはありますよ。まあ、何か理由があるんだろうなって勝手に納得して、口にすることもありませんけどねえ」
「ボク、前々から『これだけは絶対におかしい』って思っていることがあるんですよ」
「お、なになに」
「浮気して何が悪いのー?」
「思うなや」
「いやいや、だって全然悪くないじゃないですか。なんで浮気したら悪いって、みんな当たり前みたいな顔して言うんですか?」
「悪でしかないやろ。なんか理屈でもあるんか?」
「あるよ。千はある」
「多すぎて逆にうさん臭いわ。浮気なんか人として最低の行為やで。まあ、一応聞いたるけ――」
「だよなあ!」
「うわ、びっくりした。急になんやねん、お前」
「浮気なんか最低や!」
「いやいや、なんや急に……。さっきまでゴリゴリの浮気肯定派やったやろ」
「アカン。来とる……」
「来とる? 誰がや」
「奥さん」
「はあ? 奥さんってお前の? それがどしたん」
「そら、まずいやろ。奥さんの目の前で浮気肯定すんのは」
「アホか。んなもん漫才やがな。フィクションやし、割り切って楽しんでもらったらええやん」
「いやいや、そんな浮気みたいには割り切れんのよ」
「浮気のつもりで言うてへんわ」
「実はな、最近ちょっと奥さんに浮気疑われてんのよ。んな状況で高らかに浮気宣言してみ? あとでえらい剣幕で詰められるわ」
「けど、実際は浮気しとらんのやろ?」
「当然や。神に誓ってしてへん」
「ほならなんも問題ないやろ……。まあ、ええわ。ほな、立場代えたらええ。おれが浮気肯定派に回るから、お前は否定しとけ」
「おお、あんがとなあ」
「まったく……えー、せやな! 浮気は最高や! 人を愛することの何が悪いねん!」
「お前、そんなん堂々言うたらアカンって。浮気なんかゴミカスの…………」
「……どないしたんや、お前。台本頭に入っとるやろ。おれのセリフを言うたらええんや」
「無理や」
「忘れたんか……。ほな、もうええから適当に否定だけしとけ。おれが話広げるから」
「来とる」
「ああ? 奥さんがな。さっき聞いたわ」
「ちゃう、浮気相手」
「いや、浮気しとんのかい」
「浮気相手の目の前で浮気否定したらまずいって。フラれてまうわ。おれ、絶対別れたないねん!」
「奥さんのときより熱量すごない?」
「どないしたらええんや……。浮気肯定派になるか、でも奥さんもおるし、でも浮気相手もおるし、もうもうもうもう……」
「ふらふらすな、みっともない。ほな、もうお前は聞き役でええ。おれが全部喋るわ。ほんま世話焼かせよってアホが……」
「それは無理や」
「なんでや。黙って立っとるだけでええんやぞ。アホにもできるわ」
「オカンが来とる」
「オカンも!? ……いや、そら別にええがな」
「アカン。あとで絶対『なんでもっと喋らなかったの?』って怒られる」
「授業参観か」
「『もっと自分はできる人なんだってところをアピールしないと駄目でしょ』って」
「授業参観かて」
「『人の成果を奪ってでも前に出なさい』って」
「場違いやな。もう無視しとけ、そんな母親」
「うちのオカンはそういう人やねん……ああ、どないしたらええんや……」
「ああ、ほなもうあれや。話、変えるか! えー、この前ねえ、財布を拾ったんですけど」
「アカンってその話は!」
「なんでやねん!」
「警察が来とる」
「えっ、警察……って、どこにもおらんぞ。私服か? けど、お前なんでそんなんわかるんや」
「浮気相手が警察官なんや」
「アカンやないかい。警察官が浮気なんかしたら、もう犯罪やぞ」
「浮気は犯罪ではない。あくまで個人や家庭の問題だ」
「なに急に強気になっとんねん。屁理屈こねくり回しよって。ああもう、ほなあれや。モノマネでもするか! それやったら角も立てへんやろ! 新総理のモノマネや!」
「アカン」
「なんでやねん……。警察官がおるからか? モノマネくらい気にせえへんやろ」
「総理大臣が来とる」
「はあ!? 現役の総理大臣がおれらのライブなんかに、わざわざ来るわけないやろ!」
「オカンや」
「オカンが!? ……あ、ほんまや。めっちゃ手ぇ振って、はしゃいどる。どんだけ親バカなんや」
「おい、政権批判か」
「ちゃうわアホ。てか、お前総理の息子なんかい」
「せや。せやから過激な話はやめてくれ」
「浮気の話先に振ってきたん、お前やけどな」
「ははっ、浮気なんか大したことあらへんやろ。議員も続けられるし」
「その基準でいったら、世の中の大抵のこと大した問題やのうなるやろ。てか、お前なんで芸人なんかやっとるんや。政界に進んだらええがな。最強のコネあるんやから」
「それはできひん」
「なんでや。なんぼアホでも現役総理の息子やったら議員くらい楽勝でなれるやろ」
「自分の力で当選したいんや!」
「なる気はあるんやな。そこは『芸人として人を笑わせたい』とか言うてほしかったわ」
「議員になって大笑いしたい!」
「あんまええイメージせんな」
「というわけで、わたくし今度の選挙に立候補いたしますので、皆さんどうぞよろしくお願いします」
「ここで選挙運動すな! しかもまだ選挙期間前やろ!」
「ちゃうちゃう。これは選挙運動やのうて政治活動や。表現の自由で認められとんねん。そういうわけですから、さあ皆さん! わたくしに清き一票を!」
「投票呼びかけたらアウトやろ」
「勝ってしまえばこっちのもんや。あとはうやむやになるってオカンも言うてたわ。さあさあ、わたくしに一票を! 清くなくても大歓迎です! カルト宗教団体の皆さんもぜひ! あ、そんな団体は知りませんけどね! 表向きには!」
「いや、お前には無理や無理。もうあきらめえ」
「なんか意地悪やなあ……。最初からできひんって決めつけんといてほしいわ。これから必死でやろうとしとるおれに対して、すんごい意地悪」
「やかましいわ。そのねっとりした言い方やめろ。お前、喋るたんびに失言しそうやし、なんか問題起こしても絶対責任取らんタイプやろ。お前には絶対無理や。根本的に政治家には向いてへん」
「せやから、お前がおれの秘書になって、台本を全部書いてくれ。演説も答弁も、おれはそれをただ読むことに徹するから」
「おー……やっぱ、素質はありそうやな」




