試作品
以前書いたのを試作品として出してみました!
プロローグ
できすぎた話しではある。私に彼女ができるなんて。
夜に飾られた月に照らされ、かさかさと音をたてて手のひらを擦り合わせる。吐いた息は白く踊り寒空が私を睨む。
私はしがない物書きだ。ペンと紙そして最低限の飲水と食料があれば海の上でだって生活できる。女性など、私の人生において必要ないはずだった……
下駄の音が私の隣で待ち遠しそうに音色をかなでている。
足音は私だけで十分だ。ここには私しかいない。そう何度も頼りなく怯えた自分の心に呟く。
「寒いですね」彼女は雪のような言葉を私に投げかける。
え、と戸惑い、そうですね、と慣れない笑顔を見せると私の笑顔を見透かしたかのように程よく赤くそまった口元に手をあてふふっと笑った。
その笑顔に操られたように私は口を動かす。
「美智子さん、恥ずかしながら私は経験乏しくこういう場合どうすればいいのかわかりません……」
彼女の透き通った肌は私には眩しすぎたのだろう。顔をみると深い瞳に吸い込まれそうでとてもじゃないがまともに話せない。
「どうすればいいかは…… 私にもわかりませんが、このままじゃいけませんか?」
いけない、困らせてしまった、と私は覚悟を決め彼女の方を向く。
「いえ、そんなことありません。ただ私はあなたが退屈していないか不安で怖いのです」
「とんでもない。私はいまとても幸せです」
「美智子さん……」私はそのまま彼女の肩にてを伸ばした。緊張で震える手が彼女に伝わり笑われるかもしれない。
言おう。決心はついた。「美智子さん、僕と……」
「お兄ちゃん夕飯!!」
聞き間違いだろうか。
「お兄ちゃん??」
直後頬に鋭い痛みが走り目を覚ますと、妹が目の前にいた。その光景にうんざりと起き上がる。
足元には古本屋でかった官能小説が落ちている。時代物だ。
「おい、今いいとこだったんだぞ?」
おたまを片手に青春ラブコメのように登場する妹に言い放つ。
「知らない、ご飯たべて。それとその気持ちわるもの捨ててよね」
まるでおぞましいものでも見るかのような冷たい視線を俺の足元にむけている。
「俺の部屋に何置こうと俺の勝手だろ。それに気持ち悪いってなんだよ! これも立派な文学だろ」
「はい、はい、そんなのばっかみてるからお兄ちゃんモテないんだよ」
「わかってないな、俺がモテないんじゃなくて世の中の女に見る目がないんだよ…… ところで今日の飯なに?」
「にくじゃが」と即答する。
肉じゃがが今日で三日目であることを俺は忘れていない。
「いくら作れるレパートリーが乏しいからって肉じゃが多すぎだろ。唐揚げとかハンバーグとか男ウケを狙った料理が作れないのか?」
「はぁ?!、なにその言い草、男ウケって別にお兄ちゃんにウケたくないし、そんなにいうなら自分でつくれ」
愚痴をこぼす俺に妹はムキになって右手にもってるおたまを向けた。
「わかった、わかったからおたまについた肉じゃがの残骸が飛ぶから振り回すなよ」
「早く下降りてきてよね」
捨て台詞のようにそう言い放つと妹は部屋から出て行った。
官能小説に目を向け「俺はいつになったら美智子さんのような彼女ができるんだ」とため息を吐き部屋を出た。
第一話
耳を澄まし神経を集中させる。
やっぱりそうだ、と山中茂は突如声を張り上げる。そして「数学の森内!」とさらにワンオクターブ声を高くした。
緊迫とまではいかないが、受験真っ只中の多少ピリついた空気の中、そんな空気をものともせずに山内はそう叫んだ。
気の置けないといったら言い過ぎかもしれないが、少なくとも学校ではいつも一緒にいて、比較的落ち着く友達数人の間でくだらない遊びが流行っていた。
チャイムが鳴り、授業をしに来る教師の足音を見抜きどの教師か当てるという遊びだ。
もちろんこの遊びを行うにあたりルールが存在する。
まず、科目事で来る教師がわかるため時間割りを把握しないこと、この遊びに参加している者以外に目を向けないこと、そして明らかな特徴のある教師の足音は選考外にすること。
これは俺達受験生にとって自殺行為ともいえる遊びだろう。
このくだらない遊びには、茂の他にもニッキーと呼ばれている友達も参加している。
ニッキーは一見優等生に見えるが、俺達の間では全然そんなことはない。むしろ異端児として俺と茂はニッキーを見ている。
自信に満ちた茂の発言にニッキーは異議をとなえる。
「違うよ、この幸の薄い足音は担任の吉野だって。ほらあいつ最近フラれたって言ってたじゃん」と薄い理論の推理を披露し、ふんっと機関車のようの鼻息を出す。
「おい俊平、お前は誰予想すんだよ?」
「そうだな…… 迷うけど、俺も吉野……かな?」ニッキーの希薄な理論になぜか俺も乗った。
ガラガラと教師の扉が開き、ボサボサの髪を見た瞬間僕は勝利を諦めた。重たそうな眼鏡をかけ、やる気のない声で「はじめるぞお」と語尾を伸ばしながら森内が入ってくる。
「よっしゃ!また当たった!言ったろ? 森内は微妙に1歩1歩の間が長いんだよ」
また山内の一人勝ちか、とニッキーは不満げに呟くと肩を落とし落胆する。続けて「今日はなんだっけ?」と憂鬱そうに山内に問いかけた。
「弁当に入ってる主役のおかずか、俺の好きなお好み焼きパンだろ? 俊平もだからな?」と目をギラつかせる。
「わかってるよ。にしてもよく足音だけでわかるな」
「君たち2人は修行をしたまえ。私のような天才が輝く重要な要素として君たちのような凡人の涙ぐましい努力が必要不可欠なのだから」
「天才? だれが?」とニッキーが怪訝な顔をした。もちろん俺も似たような顔で茂を見ている。
「天才だろ? 足音だけで当てるんだから! なんていうんだっけ、ほら、あったろ? 音を聞いただけでわかるやつ」
俺とニッキーは茂の自慢に辟易としながらも、会話を続ける。
「超能力?」というと、「違う!」と即答し、ニッキーが「絶対音感か?」というと「それだ!」といって満足気に自分の席に戻っていった。
山内は森内に睨まれながらも気にせず座ると、俺とニッキーの方を振り向き、どんなもんだ、といわんばかりの癪にさわる笑顔をみせた。
前の席に座っているニッキーに思った事を素直に口にだした。
「おい、ニッキー、絶対音感ってどんな音でも聴いただけで音階がわかるってやつじゃなかった?」
「そうだよ、いやそれより森内睨んでるからその話は後にしてくれない?」とさらっと答える
「そうだよって、茂のは絶対音感じゃないでしょ。歌も下手なのに」
「あの自慢話しを早く終わらせるにはあれがいいんだよ。茂って特別とか天賦の才みたいなのに憧れてるから。要は単純だから通用する手を使っただけだよ」
「な、なるほど……」と納得しながらも冷静に毒をはき対処するニッキーに少し恐怖を感じた。
ニッキーは茂を認めようとしないが、俺はこの足音ゲームの茂の強さを多少なりとも評価していた。




