世界で2番目に古いお仕事(?)をすることになりました
世界で最も古い職業、世界で二番目に古い職業は、いわゆる諸説あります、としか、言いようが無いのが現実ですが。
この小説の当事者の間の想いとしては、こうなのだ、と平に緩く見て下さい。
(それこそ以前に、小説でも客観的かつ精確な描写をするのが当然だ。
できないのなら、ネット小説家として完全失格、「小説家になろう」から速やかに退会しろ、と警告されたので、予防線を張らせて貰います)
「メンデス伍長殿、カテリーナ・メンデス大尉が実の姉で、更に姉が男女を通じて我がユダヤ人部隊どころか、(英仏日等の)連合軍内でも屈指のエース(撃墜王)というのは本当なのですか」
「本当だが、どうかしたのか」
「いえ、伍長殿も兵から下士官に累進して、受勲されている程ですから有能なのは間違いないですが、その姉が、其処までの優秀な方とは知りませんでした」
「まあ、普通は考えないだろうな」
私、カルロ・メンデスは、部下の新兵とそんな会話を交わした。
更に思わず、物思いに私は耽らざるを得なかった。
自分も姉も、本来から言えば軍人になりたくなかったのだ。
更に言えば、姉にしてみれば、止むを得ずになった職業と言っても過言では無かった。
姉は、その時点では軍人では無かった、補助部隊に志願しただけのつもりだった。
自分の母や姉妹は、第一次世界大戦終結に伴って起きたオスマン帝国内の混乱から逃れる為に上海に移住していたのだが、その上海さえも日中間の戦争の最前線になったことから、日本の横須賀へ、と他の上海在住のユダヤ人と共に逃れる羽目になったのだ。
(更に言えば、私の父は、着の身着のままと言って良い状況で逃れるのを躊躇い、資産を確保しようとした為に、命を失う事態に至ったのだ)
とはいえ、日本の横須賀の地も、自分達にとっては安住の地とは言い難かった。
日本政府は、様々に日本在住のユダヤ人に対して、満州等の日本本土外に出て行って欲しい、との態度を暗に示していた。
更には、その一環として、英国政府と協働して、英国が編制するユダヤ人部隊に志願すれば、英領パレスチナへの永住権を保障するという飴を、自分達に蒔いたのだ。
そして、このことは、姉に重大な決意をさせることになった。
「私、英国が編制するユダヤ人部隊に志願する」
姉は、私や母にいきなり宣言をした。
「大丈夫、私は女性だから、ユダヤ人部隊の一員になっても、補助部隊に入るだけだから。それに、私が英領パレスチナの永住権を取得できれば、お母さんや弟妹と一緒に英領パレスチナで永住できるわ。確かに英領パレスチナは、乳と蜜の流れる地、カナンとは現実には言い難いけれど、でも、私達ユダヤ人が安心して住める土地に何れは為る、と考えるから。だから、私はユダヤ人部隊に志願するわ」
そう姉は付け加えて言った。
実際にその通りの筈だったのだ。
1939年9月の第二次世界大戦勃発に伴って、英国政府が、自国の外人部隊として、世界からユダヤ人を募った上で部隊を編制することを発表したが。
その時点では、女性は補助部隊の一員で、前線では戦わず、後方部隊の一員の筈だったのだ。
だが、現実にどんなことが起きたのか、と言えば。
姉を始めとする一部の女性は、補助部隊ではなく、最前線で戦わされる事態が起きたのだ。
そして、それを知った自分も、姉が最前線で戦っているのに、男の自分が、と考えたことから。
自分も、英国が編制するユダヤ人部隊に志願することにしたのだ。
だが、頭脳等が優れていた姉に比較して、劣っていた自分は。
(姉から、何で貴方が軍人になろう、と考えたの、と男の意地でなるな、と罵倒された程だ)
姉は戦闘機乗りになって、更に士官にまで任官(大尉にまで昇進してもいる)したのに対して、自分は歩兵で、兵から叩き上げた末に伍長に何とかなった次第だ。
(これでも、元軍人等という経歴が無いのに、受勲等の幸運があったとはいえ、1年余りで兵から伍長という下士官の末席に座らせて貰える程に昇進できたことからすれば、十二分に早い出世なのだが。
姉が、自分と同様に軍人では無かったのに、促成士官養成課程に合格して、士官に任官して、2年も経たない内に大尉になっては、どうにも見劣りする昇進としか、言いようが無い)
そして、先日、姉に逢った際に、姉はしみじみと自分に零した。
「世界で最も古い職業が何か、知っている?」
「知らないけど、何なの」
「売春婦だって。古代社会では神聖娼婦といって、一部の神殿では巫女が売春をしていたとか。だから、世界で最も古い職業は、売春婦だと言われているらしいわ」
「へえ、知らなかったな」
「では、二番目に古い職業は?」
「一番古い職業を知らない自分に、分かる訳が無いよ」
「色々と言われるけど、有力説の一つが、傭兵だって。それを聞いた時に想ったの、日本に逃れた際に、最悪の場合、売春婦にならないといけないかも、と考えたけど、幸いなことにそれはしなくて済んだ。でも、結果的に傭兵に、自分はなったのか。世界で最も古い職業に就かなくて済んだけど、世界で二番目に古い職業に、自分は就いたんだなって」
「そうか、結果的に姉弟で世界で二番目に古い職業に就いてしまったんだね」
自分と姉は会話をして、お互いに物思いに耽った。
故郷を失った者達が、どうやって生きていくか。
文字通りに体を売って生きるしかないではないか。
女の場合は売春で、男の場合は傭兵で生きていくのが、歴史的によくあることだった。
(一部の男は男娼で生きて、一部の女も傭兵になって生きた例がない訳では無いが)
そう言ったことを考えれば、世界で一番古い職業が売春婦で、世界で二番目に古い職業が傭兵と言われてもおかしくないのか。
そして、ある意味では、共に自分の心の一部を殺さないとやっていけない仕事でもある。
生きる為、金の為に必要と割り切って、本来から言えば、共に耐えられない、赦されないことを仕事としてせねばならないのだ。
仕事の中で心身を共に傷めてしまい、年老いて、仕事から引退した後、色々な意味で社会の中で生きていけなくなった者が、それなりにいるのも無理はない気がする。
人を殺すな、という十戒の一つを破って、それこそ自分がこれまでに食べたパンの数を数えられないように、何人の敵兵を殺傷したのか、自分は数えられなくなってしまった。
それを言えば、姉の方が深刻だろうが。
自分は其処まで考えてしまい、姉も色々と想うところがあるのだろう、それ以上はそのことに触れず、当たり障りのない近況の会話を交わした末、姉と自分は別れたのだ。
本当にこの仕事を、何時か辞めたいモノだ。
自分は改めて考えてしまった。
御感想等をお待ちしています。




