4話.私のために怒ってくれる人
「ちょ、ちょっと待ってください! 私と付き合うって、一体何の話ですか?」
そんな話は初耳だとパルマが慌てていると、食事が運ばれてきた。
ルルはこれに目を輝かせ、喉を鳴らしている。
「ああ、すみません。何かおかしなことを言いましたか?」
「おかしいも何も、そんな話は一度も……!」
「え、ですがハニエルとルルさんが今後も会うためには、僕とパルマさんも会わないといけませんよね」
どんな理屈だと、パルマは頭を抱える。
まさか、シュナクもハニエルと同じように、色恋にはとてもポジティブな思考回路をしているとは。
「ふふっ。この人は何を言っているんだって顔をしていますね。では、ルルさんに聞いてみましょう」
「私?」
シュナクはまるでこの展開を予期していたようで、焼きたてのパンにかぶりつこうとしているルルに質問した。
「ルルさんは、これからハニエルと定期的に会うことになりますが、二人きりで平気ですか?」
「……あ! そっか。そうなる、よね」
ルルはこの時になってようやく、ハニエルと自分の二人の問題であって、パルマとシュナクは関係ないことに気づいた。
「ふ、二人きりは……ちょっと。べ、別に怖いわけじゃないわよ? でも、そう! 気分が乗らないわ!」
「そんな――。パルマ様、どうか哀れな私のために、ルルさんと共にいられる時間を作ってはいただけませんか」
ハニエルは困った顔をして、パルマに懇願してくる。
パルマは何故かこれが嘘臭く見えたが、ハニエルがこんな演技をする理由がないと思いとどまった。
ハニエルとしては、本音を言えばルルと二人きりで会いたいはず。
しかし、ルルがそれを嫌がるならと、彼女の妥協案を飲もうとしている彼は、最大限ルルを尊重しようとしているからこそだ。
パルマも、ルルが嫌がっているのに二人きりで会わせようとは思わない。
折角彼女がやる気を出しているのに、それを水の泡にするようなことはしたくない。
「私も二人が顔合わせするところに行くことは、異存ありません。ですが、お付き合いの話は脈絡がなさ過ぎて……。何より、私には婚約者がいますから、そういった話は少し軽率ではないかと」
なんて言ってはみるものの、この後は家に帰って、婚約破棄の話をすることになる。
向こうから言いだしてきたことだし、こちらの方が身分が下なので覆すことは出来ないだろう。もっとも、覆すつもりなんてさらさらないけど。
「モンクレスト侯爵令息ですね。……本当は、こんなことを言ってはいけないのですが」
食事の手を止めたシュナクは食器を置き、口元をナプキンで軽く拭う。
それから、しっかりとパルマの目を見て言った。
「パルマさんは、エドワードのことが好きなのですか? 彼は、本当にあなたを大切にしてくれている?」
「それは……」
大事にしてもらえないだけどころか、今しがた婚約破棄まで言い渡されたばかりだと、シュナクに伝えたらどうなるだろう。
きっと、自分以上に怒ってくれるだろうということが手に取るように分かったことに、嬉しく思ってしまった。
「彼が、悪魔を悪だと言って憚らない人物であることは非常に有名です。そして、天使は神の使いだと言って、天使にだけは非常に良い顔をする人物であることも」
実の両親であるモンクレスト侯爵でさえ、その事実を知っている。
だからこそ、悪魔に好かれていることで有名なパルマの元に、婚約の打診が来たのだ。
彼女と共に過ごしていけば、エドワードの悪魔嫌いも解消されるのでは、というモンクレスト侯爵の期待は、今頃は砕かれているだろうけれど。
「すみません。出過ぎた真似をしました」
「いえ。シュナク様の仰る通り、私ではエドワード様の考えを変えることは出来ませんでしたから」
「出来なかった? 何かあったのですか?」
ちょっとした言葉の不自然さをシュナクに見抜かれ、パルマは自分の不用意さを反省した。
それから、このまま黙っていると本当に返してもらえない気がして、少し前に婚約破棄を言い渡されたことを話してしまった。




