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バイクのある人生 ――50歳で再びライダーに――

作者: 森の ゆう
掲載日:2025/12/07

鍵をひねると、低く唸るエンジン音が胸の奥に響いた。

若い頃、当たり前のように跨っていたあの感覚が、一気に身体に戻ってくる。

「もう若くないし危ないよ」

周囲の声は、正直に言えばもっともだった。

五十歳。体力も反射神経も、確実に昔とは違う。

仕事に家庭、責任も山ほど増えた。バイクは、いつの間にか“卒業した遊び”になっていた。

それでも――。

ふと立ち寄った中古バイク屋で、一台のバイクと目が合った瞬間、胸の奥にしまっていた何かが、音を立てて動き出した。

跨った瞬間、思い出す。

風の匂い、エンジンの熱、夜の国道、コンビニの明かり、自販機の缶コーヒー。

あの頃の自分は、何も持っていなかった。でも、不思議と何でもできる気がしていた。

再びハンドルを握った今の自分は、若くはない。

だが、その代わりに “失う怖さ” と “守るもの” を知っている。

スピードを競う気はもうない。

派手な技もいらない。

ただ、少し遠回りをして帰りたくなる夜があるだけだ。

信号待ちで、ミラーに映る自分の姿を見る。

ヘルメットの中で、思わず笑ってしまう。

「……やっぱり、好きなんだな」

バイクは人生を変える道具ではない。

だが、人生に“風”を取り戻してくれる。

五十歳で再びライダーになるという選択は、若作りでも逃避でもない。

それは、忘れていた自分を迎えにいく旅だ。

アクセルを少しだけ開ける。

風が胸を押す。

人生は、まだ走れる。

バイクのある人生は、これからだ。

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