表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

回想-2

「母子手帳か~……うっかりしてたわ、はは。」

 どうしようもないと言いたげな母の失笑は、初めて聞く声色だった。俺達の前では決して明るさを失わなかった人が、表情を強張らせている。今まで子供の前で愚痴一つこぼしたことの無い強き母が、俺達の前で“緊張”している。けれど逸らした目をすぐに戻し、真っすぐこちらへ向き直った。

「うん、そう。竜刃さん……お父さんが親戚から引き取ったのが、辰真。本当のご両親はもう亡くなっているわ。」

「うん。そのへんも全部、誤魔化さず教えて。」

 ピクリ、母の眉が震えた。あからさまな動揺に、竜衛と目を合わせる。彼の言う通り『訳アリ』なのだろう、俺の本当の両親は。母はしばし無言になったものの、何度か呼吸を整えて覚悟を決めたようだ。

「勘付いてるなら、仕方ないか。」

 変に誤魔化すより、ハッキリ話したほうが良いと判断したのだろう。


「辰真のお父さんは放火の常習犯で、辰真が一歳になる前に死刑が執行された。」


「辰真のお母さんも夫を匿っていたことで捕まっていたけど、出所してすぐ自殺した。」


「だから、警察官である竜刃さんのところへ養子縁組の話が来た。そして、私と話し合って引き取ることを決めた。」


 母は全てを、一息で話してしまった。簡潔で淀みのない、流れるようでかつ分かりやすい説明。これ以上は追求しようのないぐらい、何一つ誤魔化さなかった。

「私が知っていることは、これで全部よ。竜刃さんなら、もっと何か知ってるかもしれないけど。」

「…………そっか。」

「何か変わった?」

「えっ」

「別に何も?なぁ?」

 質問の意味を聞き直す間もなく、竜衛が頷く。当然のように同意を求められて、困惑するしかない。

「赤ん坊の時から一緒だから、タツが居なかった頃の記憶なんて無ぇし。」

「それは、俺もそうだけど。」

「ほら、兄弟じゃないのは生物学上の話で戸籍上は兄弟だし。」

「そりゃ、まぁ。」

「じゃ、今までと同じだろ?」

 本人が喋る前に、随分と勝手を言うものだ。竜衛の言葉は正論で、確かに「その通り」としか返しようが無い。だけどそれじゃ、さっきまで戸惑っていた俺が馬鹿みたいじゃないか。何だかんだ言われて安心している自分も、単純過ぎて呆れる。

「…………あぁ、そうだな。」

 何も変わらないのは本当のことなので、結局は頷くしかなかった。


 鱗音は鱗音で、ちゃっかり俺達と母の話を盗み聞きしていた。女の勘だろうか、重要な話をしているのを察したらしい。

「驚きはしたけど、特に気にする話でもなかったなぁ。」

「は?」

「リュウ兄の言う通り、タツ兄が私のお兄ちゃんじゃなくなるワケじゃないもん。」

 まだ小学生だったはずの妹は、それしか言わなかった。ワザとらしく「宿題しなきゃ」などと言って、何事もなかったかのように自室に戻った。羨ましいほど、芯の強い妹である。

 俺も、兄と妹に倣い『何事もなかったかのように』いつも通り過ごす他なかった。そして、そのことにどうしようもなく救われた。

 実はもう一つ、母子手帳から『無視できない事実』が発覚したりしたのだが。

 それはもう少し後で、暇があったら語るとしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ