回想-1
俺達が“事実”を知ったのは、中学生の頃。
キッカケは、俺が『母子手帳』を発見してしまったこと。母が、竜衛を生んだ時の母子手帳。連鎖的に、自分が生まれた時の母子手帳が無い事に気付いてしまった。第三者からすれば「それぞれ違う日に誕生祝いをされていた時点で気付け」と言われるだろう。無論、幼稚園児の頃に質問した。
「同じ日に一緒に祝っちゃったら特別感が薄れるでしょう?私はちゃんと一人に一回ずつ、特別なお祝いをしたいの。」
あまりにも堂々と、さも当然とばかりに言い切られた。自信満々に説明されてしまえば、幼い俺は「そういうものか」と思う他なかったのである。言い争いなら負け知らず、口の達者な母の言葉。中学に上がる頃には「おかしい」とも考えたが、母の主義が『個性的なだけ』と勝手に解釈していた。
この日までは、母の作戦勝ちだったのだろう。
母子手帳から色々と一人で考えた末、俺は竜衛に相談した。性格は悪いが、弟にとっては世界で最も信頼できる兄だから。
「俺ら、血が繋がってないのかも。」
当時の俺は、たぶん情けない顔をしていたと思う。いくら強がろうとしたところで、長年嘘を吐かれていた心の傷は深い。竜衛は俺の吐き出す言葉に、黙って耳を傾けていた。聞いているのかいないのか分からないほど静かに、相槌すら打たずに。母子手帳のこと、血が繋がってないかもしれないこと、今までの誕生祝いのこと────まとまらない言葉の羅列を吐き出し終えた時、ようやく「うーん」と唸った。
「テンプレなら、俺達が成人した時に言うつもりだった~、ってやつだな。」
俺の心境とは裏腹に、竜衛はいつも通りの軽い物言いで話す。
「どうする?」
「どうする、って?」
「俺達が追及すれば、お袋は喋ってくれると思うぞ。」
確かにそうだろうなと、俺も思った。母は口の軽い人でこそないが、息子の真剣な問いかけを有耶無耶にする人でもない。母子手帳を手に二人で詰め寄れば、ちゃんと事情を話してくれるだろう。しかし、すぐに決断はできない。血の繋がりだけが全てとまではいかなくても、血縁が強い繋がりであることに違いはない。それを考えると、簡単に「訊いてみよう」とは言えなかった。
沈黙していると、竜衛は更に続ける。
「言うだけタダと思って想像を語るが、場合によっては『産みの親が訳アリ』って可能性はデカいぞ。大方、悪いほうのワケだろうな。」
養子として引き取られた『経緯』が、単純なものとは限らない。いいや、寧ろ単純である場合のほうが少ない。どんな事情で俺が引き取られたのか、その『事情』が悪い内容である可能性を言っているのだ。
「必要以上に突っ込まなければ、詳細までお袋は語らないと思う。あの人のことだ、墓まで持っていきかねない。さて、どうする?」
もう一度、竜衛が同じ質問をしてくる。単純な「聞くか否か」から一歩進んだ、詳細に迫る質問を。
「血が繋がってないことだけ確認するか、親のことまで聞き出すか。俺はどっちでもいいぜ、お前が選べ。」
俺のことだ、俺が選ばなければならないだろう。
だから“何もかも”を聞き出すことを選んだ。