表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

二日目-4

 いい話で終わりそうなところで申し訳ないが、問題は何も解決していない。

「結局のところ、吉人君の容疑が強くなってないか?」

 今までの調査で、逆に『犯行の動機』ばかり集まっている。警察の疑いにも納得してしまうが、これでは当初の目的が果たされないのではないか。それを指摘すると、竜衛と鱗音が顔を見合わせる。

 二人の不思議そうな表情の意味が解らず、俺は眉を寄せた。

「私もあり得るとは思ってるよ?」

「は?」

「ここまできたら確定でいいと思うぞ~。」

「はぁ!?」

 さも当然のように言われて、思わず立ち上がってしまう。その拍子に椅子が倒れて、大きな音を立てた。養護教諭から注意の声が飛んできて、慌てて座り直す。

 この数秒で、どうにか冷静さを取り戻した。

「……おい、前提がひっくり返ったぞ?」

「いやいや。無罪にして欲しいとは言ったけど、無罪を証明してほしいとは言ってないよ。」

「そーそー。タツはちょっと先入観に囚われがちだな。」

「はぁあ!!?」

 言われて、吉人君を紹介された日の会話を思い返す。完全に覚えているワケではないので、鱗音の言葉の端々をひねり出すのに苦労した。


────吉人くんが警察に疑われてて困ってるの!

────デートの時間が減る一方!

────このまま国家権力に貴重な青春の時間を奪われて黙ってられるかーっ!

────早急に吉人くんをちゃっちゃと無罪にして、さっさと終わらせたいの!


 いや、ほぼ言ってるようなもんだろ。

 あまりのことで何も言えない俺を、兄妹がケラケラと笑う。正直、ぶん殴らせて欲しい。

「よっぽど吉人君のこと気に入ったんだね~。」

「リュウはわかってたのかよ?!」

「そりゃーな。てっきりタツもわかってると思ってた。」

「わかるか!!」

 話の流れから、吉人君以外に真犯人がいると思うだろ。俺は正常な考え方をしていたと主張できる。

「…………リュウは最初から、どういうつもりだったんだよ。」

「警察より先にヨッシーが犯人の証拠を押さえて、隠滅するつもりだったよ。欲を言えば、誰かに罪を擦り付けられたら最高だな。」

 そんなことを画策しながら「高校生探偵になっちまうか?」などとほざいたのか、この兄は。完全に詐欺にあった気分である。こちらが怒りを通り越して呆れている間に、竜衛は鱗音へ向き直った。

「染井戸は転校したんだって?」

「うん。つい最近……春休み直前に、二年生から違う学校に行くって。」

「タイミング的におかしいところは無ぇな。」

「私と吉人君とのトラブルがどーのこーのって噂もあるにはあるけど、ホントのところはわかんないなぁ。」

「そりゃそうだ。」

 鱗音の知っていることは、今ので全部だろう。竜衛は両腕を組むと、いかにも「悩んでいます」と言わんばかりに唸る。乗り掛かった舟だ、俺も今更降りる気は無い。しかし、まだ警察が見つけていない証拠とは一体『何』なのか想像もつかない。それを吉人君が『どこ』に隠しているのかも。

「…………久しぶりに、親父にオネダリでもするか。」

 不意に出てきた竜衛の言葉に、俺は義父の職業を思い出す。

「吉人君の事件を迷宮入りにでもすんのか?左遷組がそこまで手を出せるとは思えねぇけど。」

「流石にそこまで期待しちゃいねぇって。調べものだよ、シ・ラ・ベ・モ・ノ。」

「何を調べて貰う?」

「染井戸が転校になった詳細と、厩戸一家全員の処方箋。」

「転校の経緯はわかるが、処方箋?」

 唐突に出てきた単語に首を傾げるも、竜衛は答えることなくスマホを取り出した。そして、素早い手つきで何やら操作し始める。鱗音も話についていけないらしく、ポカンと口を開いていた。

「今から親父に連絡すんの?」

「おう。あんまりモタモタしてられなくなったからな。」

「何?」

「恋敵と家族を退けたら、残る女も始末するだろ。今回の件で、だいぶ早まりそうだ。」

 カツカツと、爪が画面にぶつかる音。

 表情では見せないが、どうやら竜衛なりに焦っているらしい。


「ヨッシーが単独で志野崎を殺す前に、ケリをつけるぞ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ