二日目-4
いい話で終わりそうなところで申し訳ないが、問題は何も解決していない。
「結局のところ、吉人君の容疑が強くなってないか?」
今までの調査で、逆に『犯行の動機』ばかり集まっている。警察の疑いにも納得してしまうが、これでは当初の目的が果たされないのではないか。それを指摘すると、竜衛と鱗音が顔を見合わせる。
二人の不思議そうな表情の意味が解らず、俺は眉を寄せた。
「私もあり得るとは思ってるよ?」
「は?」
「ここまできたら確定でいいと思うぞ~。」
「はぁ!?」
さも当然のように言われて、思わず立ち上がってしまう。その拍子に椅子が倒れて、大きな音を立てた。養護教諭から注意の声が飛んできて、慌てて座り直す。
この数秒で、どうにか冷静さを取り戻した。
「……おい、前提がひっくり返ったぞ?」
「いやいや。無罪にして欲しいとは言ったけど、無罪を証明してほしいとは言ってないよ。」
「そーそー。タツはちょっと先入観に囚われがちだな。」
「はぁあ!!?」
言われて、吉人君を紹介された日の会話を思い返す。完全に覚えているワケではないので、鱗音の言葉の端々をひねり出すのに苦労した。
────吉人くんが警察に疑われてて困ってるの!
────デートの時間が減る一方!
────このまま国家権力に貴重な青春の時間を奪われて黙ってられるかーっ!
────早急に吉人くんをちゃっちゃと無罪にして、さっさと終わらせたいの!
いや、ほぼ言ってるようなもんだろ。
あまりのことで何も言えない俺を、兄妹がケラケラと笑う。正直、ぶん殴らせて欲しい。
「よっぽど吉人君のこと気に入ったんだね~。」
「リュウはわかってたのかよ?!」
「そりゃーな。てっきりタツもわかってると思ってた。」
「わかるか!!」
話の流れから、吉人君以外に真犯人がいると思うだろ。俺は正常な考え方をしていたと主張できる。
「…………リュウは最初から、どういうつもりだったんだよ。」
「警察より先にヨッシーが犯人の証拠を押さえて、隠滅するつもりだったよ。欲を言えば、誰かに罪を擦り付けられたら最高だな。」
そんなことを画策しながら「高校生探偵になっちまうか?」などとほざいたのか、この兄は。完全に詐欺にあった気分である。こちらが怒りを通り越して呆れている間に、竜衛は鱗音へ向き直った。
「染井戸は転校したんだって?」
「うん。つい最近……春休み直前に、二年生から違う学校に行くって。」
「タイミング的におかしいところは無ぇな。」
「私と吉人君とのトラブルがどーのこーのって噂もあるにはあるけど、ホントのところはわかんないなぁ。」
「そりゃそうだ。」
鱗音の知っていることは、今ので全部だろう。竜衛は両腕を組むと、いかにも「悩んでいます」と言わんばかりに唸る。乗り掛かった舟だ、俺も今更降りる気は無い。しかし、まだ警察が見つけていない証拠とは一体『何』なのか想像もつかない。それを吉人君が『どこ』に隠しているのかも。
「…………久しぶりに、親父にオネダリでもするか。」
不意に出てきた竜衛の言葉に、俺は義父の職業を思い出す。
「吉人君の事件を迷宮入りにでもすんのか?左遷組がそこまで手を出せるとは思えねぇけど。」
「流石にそこまで期待しちゃいねぇって。調べものだよ、シ・ラ・ベ・モ・ノ。」
「何を調べて貰う?」
「染井戸が転校になった詳細と、厩戸一家全員の処方箋。」
「転校の経緯はわかるが、処方箋?」
唐突に出てきた単語に首を傾げるも、竜衛は答えることなくスマホを取り出した。そして、素早い手つきで何やら操作し始める。鱗音も話についていけないらしく、ポカンと口を開いていた。
「今から親父に連絡すんの?」
「おう。あんまりモタモタしてられなくなったからな。」
「何?」
「恋敵と家族を退けたら、残る女も始末するだろ。今回の件で、だいぶ早まりそうだ。」
カツカツと、爪が画面にぶつかる音。
表情では見せないが、どうやら竜衛なりに焦っているらしい。
「ヨッシーが単独で志野崎を殺す前に、ケリをつけるぞ。」