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二日目-1

 高野さんから話を聞いた日の翌日、事態が急変した。


「おい、お前らの妹が『放火魔』だっていう噂が立ってんだけど。」


「「────あ?」」

 クラスメイトからの知らせに、俺達は教室を飛び出した。廊下を走りながら鱗音の携帯に電話をかけるが、繋がらない。漠然とした“嫌な予感”が、全身を駆け巡る。階段を飛び下りながら、中学校舎を目指す。

 噂だけならいい。

 今まで散々言った通り、鱗音は噂や陰口に振り回されるタイプじゃない。他人からどんな悪評を叩きつけられようと、平然と受け流せる精神力がある。それに吉人君という理解者もいるから、噂だけなら問題は無いのだ。

 俺と竜衛が飛び出したのは、それ以上を危惧してのこと。


「竜衛さん!辰真さん!」

 中学校舎の玄関に、焦燥した吉人君が立っていた。彼が一人でいるのを見て、嫌な予感が的中したのを確信する。

「りんちゃんがどこにもいなくて、スマホも繋がらなくて、」

「俺達もだ。変な噂が立ってるって聞いた。」

「はい、今朝になって急に────」

 吉人君いわく、クラスメイトの間で鱗音を『放火犯』とする噂が出回っていたらしい。


『厩戸邸に火をつけたのは二階堂鱗音』

『厩戸吉人はそれを庇っているだけ』

『警察は厩戸吉人を保護しようとしている』


 広がるにつれ話は盛られているようだが、概要は上記の通り。そして一緒に登校してきた筈の鱗音が、いつの間にかどこかに消えた。考えるまでもなく、妹の身に何かが起きている。

「移動中に………………見つからず、となると…………敷地内で……ドーコーするのに丁度いいのは………………────」

 ブツブツ言いながら、顎に手を当てて考え込む竜衛。その隙に俺は、青ざめている吉人君を宥めるため軽く肩を叩いた。

「吉人君は教室に戻ったほうがいい。」

「え!?そんな!」

「警察に疑われている君が普段通りにしていないのは、更に立場を悪くするのに繋がりかねない。鱗音のことは、俺達に任せろ。」

 納得いかなそうな顔はしていたが、吉人君は首を縦に振ってくれた。その背中を生徒玄関のほうへ押せば、渋々中に入っていく。

「行くぞ~。」

 吉人君が校舎に入ったタイミングで、竜衛に呼びかけられる。どうやら、居場所の検討はついたらしい。何故、他人を呼び出すのに適した場所の検討が付くのかはツッコまない。とっとと走り出した竜衛の後を、黙って追いかける。特別教室がある棟の北側、日が当たらない上に粗大ゴミ置き場と化した「いかにも」なエリアに辿り着く。

「…………ビンゴ。」

 明らかに荒れた人間の声が聞こえてきて、竜衛が嬉しそうにこぼした。声の方に向かって、走る足に力を籠める。


 そして俺達が見たのは、複数人の男子生徒に囲まれた鱗音。

 片方の頬が腫れ、髪の毛を掴まれている妹の姿だった。


「「────。」」

 瞬きの間に竜衛が跳び、髪を掴んでいた男子の顔を蹴り飛ばす。音も無く現れた“邪魔者”に、男子生徒達は固まっている。その隙に、俺は手近な奴から殴り倒していく。兄弟揃って、終始無言だった。


 ご覧の通り、俺達は『喧嘩慣れ』している。


 竜衛に至っては喧嘩大好き、戦闘狂と言って差し支えない。喧嘩は買うを通り越して万引きするタイプ。中二病真っ盛りの頃は、鱗音にちょっかいをかけた不届き者に『斬奸状』を送りつける始末。

「果たし状よりカッコイイだろ、字面が。」

 というのは中二病末期時代の竜衛の言葉、徒手空拳なのに“斬”奸状とはこれいかに。つーか()られるべき()はお前だ、とは言えず仕舞い。

 当然、兄が喧嘩を起こして弟が巻き込まれない筈もなく。身を守るためとはいえ、不本意ながら俺まで強くなってしまった。


 まあ、そんな中学時代があり。

 俺達は、俗に言う『地元じゃ負け知らず』なのである。



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