表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

9_嘘①

 

 私は今日、王城へ来ている。



 転移魔法で来たのではない。物理的に移動してきた。

 以前王城の中を探索したときに、平民も自由に城に入れるイベントがあるという情報を得たからだ。

 イベント開催記念で、王城近くまで格安で行ける交通手段があって助かった。



 普段は城に勤めている人間が民衆に向けてセレモニーを行い、身近な存在だと感じてもらう。加えて、将来に王家のもとへ勤めたいという希望があれば、仕事の質問に答えて将来への展望としてもらう。そういうイベントらしい。



 つまり、私でも見咎められずに会場内に入ることが出来るのだ。

 故に、今の私は小さいサイズになっていない。



(前はなすすべなくアレキサンダーに運ばれちゃったけど、流石にこのサイズなら運ばれないでしょう。ふふん)



 ルーファスの部屋に転移するのではなく直接徒歩で王城に来たのは、ルーファスの部屋を経由せずに地下室を目指した方が成功確率が上がるだろうと踏んだからだ。


 城の人間は私が歩いていても気が付かない人が多かったから、ルーファスにさえ会わず、そしてアレキサンダーの妨害を突破出来れば、地下室へ無事たどり着けるのではないかと思ったのだ。



 私の狙い自体は間違ってないように思う。

 だけど……。



(駄目だ……王城内部の入り口は常に誰かが見張ってる。隙がない)



 イベントのチラシには平民にも王城を解放すると書いてあったものの、どうやらそれは外の敷地まで、ということらしい。

 隙を見て小型化して入ることは出来ないかと伺ってみたけど、しっかり警護されているようだ。



 私は肩を落とし、城の建物から離れて庭の方へと向かった。



 今回の王城のイベントには、様々な人が来ている。



 平民の、本当に祭りの見学に来たような様子の親子に加えて、貴族学校の学生や、騎士や魔術師もいる。

 王家に勤めている人間に話を聞くチャンスだから、既に働いている人達も来ているみたいだ。


 仲間同士で来ているのか、和気藹々と話している人が多かった。



(帰ろうと思えば、転移魔法ですぐに自宅まで帰れるけど、せっかくここまで来たんだからなにか参考になる情報が欲しいな。うーん……何かあるかな……)



 庭の方に行くと、私はあることに気付いた。

 青空の下にテーブルが用意され、そしてビュッフェ方式で食事が準備されている。

 そろそろ食事時なので、王家側が歓待のために用意したようだ。


 私と同じように、イベントに来た客たちが遠巻きに食事を見つめている。



(あれは、テリーヌってやつかしら。あれは、キッシュ。師匠と街に行ったとき、人気のお店で売ってたけど、買う余裕は無かったなぁ)



「ご来場の皆様、こちらは前菜となります。この後にメインとなるメニューもお持ちしますので、その前にお楽しみ下さい」



(これが前菜かあ。私からしてみれば全部メインで戦えるメニューに見えるけどな)



 叶うものならば、全部自宅に持ち帰って保存食にしたい。食卓が豪華になる。

 塩や砂糖に漬ければ何ヶ月も保って、何ヶ月もご馳走が食べられるかも。

 ああ、テーブルに調味料の瓶もある。この調味料も、私の家のものとは比べものにならないくらい美味しいんだろうな……。



(何から食べようかな。お肉もお魚も美味しいだろうけど、こういう場所での野菜ってきっとみずみずしくてとっても美味しいはず……! 今のうちに、沢山栄養を取って……、……ん?)



 私は、料理の並んだテーブルを見つめる。


 王城の使用人たちは忙しそうで、食事の配膳や客への対応に追われているようだった。



 そんな使用人に指示をしている人のうち、一際ひと目を引きそうな男性がいる。


 すらりと背が高くて、まだ若くて、髪が赤くて……。


 …………。



(ルーファスだ……)



 私はじわっと嫌な汗をかく。

 今日のルーファスは外で働いていたのか。私としては、今日こそ部屋の中でゆっくりして欲しかった。



(……でも、今日はルーファスに見つかる可能性は低いわよね。


 私がこれまでルーファスと会うときは、いつも小さくなっていた。


 今の私は普通の身長……他の客に紛れるくらいのサイズだから、私がイベントの客の中にいるとはわからないはず)



 そう考えると、今日はゆっくり王城の周りを調べることが出来そうだ。




(それにしても、私が小さくなってるからルーファスに威圧感を感じるのかもと思ったけど、ルーファスってこうして見ても背が高めなのね。…………。あれっ)



 ルーファスの方を見ていると、いつの間にか使用人とのやり取りが途切れて彼一人になっていることに気付いた。




 その彼がこちらをじっと見ている。




 遠くにいるルーファスはぱくぱくと口を開く。




「メ」「ル」「ナ」と言っている口の形だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ