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7_ポケット①

 

 今日も私は王城に転移する。


 今までルーファスに会わないように様々な作戦を練ってきたが、どれも上手くいかなかった。

 なので、私は『数撃ちゃ当たる作戦』に出ることにした。

 何度もルーファスの部屋に転移すれば、そのうち一度はルーファスがいない時があるだろう、という作戦である。



 仮にルーファスがいる時に転移してしまっても、それはそれで問題ない。


 今は物珍しいのか、私が転移する度にルーファスは私に構いに来る。

 だが、何度も何度も転移することで、私が来ても「無」になり、放置してくれるようになるだろう――私はそう踏んでいた。




 ++++


「――あっ」



 ルーファスの部屋に転移した私は瞬きをした。



 机の上もベッドも整頓されている。

 部屋の中には――誰もいない。



「やったぁ……!」



 私は喜びの声を出す。今まで色々あったけど、諦めなくて良かった。


 ――でも、これがゴールじゃない。


 私は気を引き締めつつ、ルーファスの部屋のドアに向かう。

 今の小さくなった私では、ドアノブには届かない。でも……


「――動いて」



 そう呟き、魔力をドアノブに集中させる。ドアノブはキイ、と動き、それに連動してドアも開いた。

 ドアの開いた隙間から私は抜け出る。



(廊下だ……)



 ドアの先に廊下があるなんて当たり前のことだけど、私はここまでたどり着けたことに感極まっていた。

 私はずっとルーファスの部屋に足止めされて、その先に行けなかったのだから。



 でも、私の目標は地下室まで行くことだ。

 王城のどこに地下室があるのかもわからない。

 それを探すために、誰にも見つからずに王城を探索しなければいけない。



「廊下の絨毯の色はワインレッドね……。よし」


 私は物陰に隠れて、ローブの中から赤いものを選び、羽織るようにした。



 王城に転移するとき、私はローブをいつも何枚か携帯している。保護色を利用して見つけづらくする為だ。

 黒猫が黒の布に完全に溶け込んでしまうように、背景色と同じ色のものはすぐには見つけられない。

 そして、王城の人間は私のように小さくなったサイズの人間がいると認識していない。床を注視すれば流石にわかるだろうけど、城を移動する時にそこまでする人は中々いないだろう。




(ふう……)



 狙い通り、私は王城の中を誰にも見つからずに歩いている。


 廊下を歩く中で、張り出された書類やチラシから、王城で何が行われるかの情報も手に入れた。次に王城に来る機会があれば役に立ちそうだ。



(まあ、私としては、今回地下室を見つけられればもうここに来ることは無いんだけどね)



 当初、師匠に地下室へ近道出来る場所へ転移出来る魔道具を貰った。

 それは現代ではルーファスの部屋に繋がっている。闇魔術師が王城を追われてから長い時間が経ったため、転移先がずれたようだ。



 だが、私はそれとは別に、地下室の場所の特徴を教えて貰っていた。保険として師匠が残してくれたのだ。



(日当たりがいい場所だから、室内で観葉植物が育てられている部屋がある。そこの出入り口から数歩行ったところに隠し部屋がある、と……)



 王城の中で日当たりがいい場所というのは、おそらくそうそう変わらない筈だ。

 この部屋を見つけられれば地下室にもたどり着けるはず……。



 だから、城の中に地図が無いか探して回っているんだけど。


(中々無いわね……)


 小さいサイズで歩き回っていることもあって、中々骨が折れる。私は少しの時間立ち止まって息を整えることにした。


 やっと廊下まで出られたのだ。この機会を無駄にする訳には――。




「――あら?」


(ひっ)



 曲がり角を曲がった先に、人がいる。


 淡い水色の瞳。クリーム色の柔らかそうな髪の上に、ベールを纏っている。身体には白を基調としたローブを身につけている。


 その格好から、恐らく魔術師として働いているのだろう。

 表情は柔和で、穏やかそうな女性がそこにいた。



(ここには誰もいないと思ってくれますように。 通り過ぎてくれますように。お願い……)



 私はそう祈りながら、動きを止めてみる。


「あらら……」


 が、彼女は私に気付いたようだ。


 ベールを被った女性はしゃがみ込み、私のローブを指でつついた。


「ひっ……」


「あら、喋った。ごめんなさい、いきなり触るのは不躾だったわね」



 女性は目線を下げて、床にいる私と視線を合わせて話す。



(得体の知れない私に対しても丁寧に対応してくれるなんて、優しい人だわ。私としては放っておいてもらった方が良かったけど……)


 この女性を放って、走って行ってしまいたい。

 でも、地下室がすぐ見つかるとは限らないし、怪しまれたらこの女性に警備の人に密告されてしまうかもしれない……。


 私は、意を決して賭けに出ることにした。



「あー、聞いてください。いいですか。私は小人のノームです」


「えっ?」


「人の子も絵本で見たことがあるのではないですか。小人の姿で自然の力を持っていて、見つけた人には幸運を与えるという」


「はい! 見たことがあるわ。 伝承上の存在だと思っていたけど、本当にいたのね……!」



 流石に怪しまれるかなと思ったけど、ベールの女性はきらきらと目を輝かせている。どうやら信じてくれているみたいだ。綺麗な女性は心の中まで綺麗なのかもしれない。



「……あれ。でも、ノームはお年を召した姿だと聞いていたわ。あなたはどうやら違うようだけど……」


「最近のノームは伝統的なイメージとは異なる者も沢山いるのです。私も間違いなくノームなのです」


「そうなのね……ノームにも色々な事情があるのね!」


(やっぱり、彼女は私の言うことを信じてくれている。これはチャンスかもしれない……!畳みかけなきゃ!)


「あー、ノームとしては、自然に近い場所に行きたいのです。という訳で……観葉植物のある部屋を教えてくれないでしょうか」


「観葉植物?」


「この城の中に、日当たりが良くて植物がある場所があればそこに行きたいです。そして、そこまで連れて行ったら私を一人にして下さい。ノームにも一人になりたい時はあるのです。そこまでしてくれたらあなたに大いなる幸運を授けましょう」


「なるほど……! その部屋の心当たりはあるわ。任せて!」


「あっあと、ノームは人に見られると力を少しずつ失っていくので、城の他の人には見つからないように気を付けてくださいね」



 ++++


(うまくいった……)



 ベールを被った女性は私を観葉植物の部屋まで運び、そして去って行った。



 今の私は観葉植物の部屋の隅っこにいる。ここはあまり人の入らない部屋のようで、私は一人で考えごとをすることが出来た。



(ここまで来たら、もう少しだわ。……地下室へ向かおう)



 私はそう決めた。


 先程女性に見つけられてしまったのを除けば、今のところ私は城の人間に気付かれていない。そして、城の中の人通りも少ないようだ。


 今ならば一人で地下室までたどり着けるはず。


 そっと扉を魔法で開ける。廊下には誰もいなかった。


(えっと……『気配を探す』魔法は……)



 私は、師匠から教えてもらった闇属性の魔法の準備をする。


 師匠の簡単な説明だと、闇魔術は「有るもの」を「無いもの」にするのが得意なのだという。


 闇魔術師に部屋の入り口を隠されると、簡単には見つけられない。


 ただし、同じ闇魔術師ならば比較的容易に探し当てることが出来る。


(あった――!)


 廊下の一見何も無い場所、そこに隠し扉がある。



 あそこが地下室への入り口だ。


 入り口を隠しているのに加えて、魔法で扉には鍵が掛けられている。

 だけど、私は師匠から解き方を教えて貰っているから、鍵を開けられる!



(急ごう……!)


 私は走り出した。

 今までは慎重に歩いてきたけど、逸る気持ちを抑えられなくて――。



 そんな私の視界に、ぬっと影がさす。



「……ん?」



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