14_靴①
王城の地下室でセレスティアとの事件が起きてから、時間が経った。
私は今、王城の部屋にルーファスと二人でいる。
私が小さくなった状態でルーファスの部屋に入ったことは何度もある。
でも、私は魔法を使っていない状態で、王城内の客人をもてなす部屋に座っている。
(ルーファスとはもう会わないと言って、彼も引き下がってくれたはず。だけど、どうしてこうなっているのかしら……)
緊張している私とは裏腹に、目の前のルーファスは落ち着いているようだった。
「メルナ。ここでは気持ちを楽にしてくつろいで欲しい。諸々の説明をするために、親交のある人間がメルナに話した方がいいだろうということで、俺が担当になったんだよね」
(人選ミスだわ……)
確かに、王家で私と交流したことがある人間はルーファスくらいしかいないだろう。
だが、私たちが親しくしているかというと、かなり語弊がある気がする……。
ルーファスは私との関係を周囲の人に既に説明したようだが、何があったか全て話した訳ではないのだろう。
でも、こうして説明を受ける機会が設けられたこと自体はありがたい。
私はルーファスの言葉を聞くことにした。
「メルナ。諸々セレスティアから話は聞いたよ。メルナとセレスティアは以前にも城の中で会った事があったと……」
「それは、はい、そうですね」
「メルナはセレスティアに自分はノームを名乗ったと……自分の言うことを聞けば幸運が訪れると言っていたと……」
「あの、もう過ぎたことなのでそこはあまり突っ込まないでいただけると……」
不意打ちで以前の演技のことを言われて、私は内心冷や汗をかく。
「セレスティアさんもそのことは内緒にしてくれれば良かったのに」
「彼女が進んで言った訳じゃない。俺から聞き出したんだ。どんなことでもいいからメルナのことを教えてくれって。数としては少なかったけど、それでも教えてもらって良かったよ」
「そ、それは……あの。王家として、私の情報を探っているということでしょうか。やっぱり怪しい人間は王城には通す訳にはいかないという……」
「そういう訳じゃないよ」
ルーファスは頭を振った。
「無論、素性がわからない人間は城に通すことは出来ない。それは君の言う通りだ。でも、君が闇魔術師を復興させるために王城に忍び込んでいたという話はもうみんな把握している。君が闇魔術師に師事していたという裏取りも取れた。だからもう大丈夫だよ」
あの後、私は王城に自分の身分を証明することになった。
師匠が教えてくれた闇魔術師の魔法に、王城に転移するために使った道具、それに師匠の師匠が闇魔術師だったことなど……。
私の持っている情報は多くなかったから、どれくらい信じて貰えるものかは自信が無かった。
が、ルーファス曰く、王家や聖魔術師達が持っている情報と照らし合わせて、私の話していることに嘘は無い――という判断になったらしい。
「闇魔術師が仲間を失ったのはかつての一部の聖魔術師……そして王家の判断のせいだ。だから、闇魔術師がまた再興出来るように、国として支援することになった。
メルナ。今回の件について、城の者たちに説明が必要だ。その為には、当事者である君がいてほしい」
「……それは、どういうことですか?」
「会合を開いて、メルナが闇魔術師であること、これから闇魔術師を集めていきたいこと、それを君が城の者に姿を見せた上で説明するんだ。
今回の件で聖魔術師には一時謹慎を要請する必要がある。そして、王家も闇魔術師に謝罪と贖罪を行うことを誓う。
が、それを周りの人間に納得してもらうためには、当事者がいた方がいいんだ」
「…………」
「メルナ。君には今度の夜会に出て貰いたい。今日はそれを伝えに来たんだ」
ルーファスの話を咀嚼して、私はおずおずと切り出す。
「すみません……欠席することは可能でしょうか……」
「メルナ。君は闇魔術師の復興のために動いていたんじゃなかったのか」
「それはそうなんですけど。なんというか……夜会に行ける服が無いというか……」
私と師匠の家にはお金が無かった。私の持っている服は、街にも森にも行けるような実用的なものくらいしか無い。
うちに貴族のパーティに出るような服は無いのだ。
普段過ごしている分には問題なくとも、貴族や王家に仕えている人間の集まりに出たら絶対に浮く。それが私の懸念事項だった。
「私はもともと、闇魔術を持ち帰ったら後は地道に魔法を練習したり、それから仲間を集めていく予定だったので、人前に出ることは想定していなかったというか……」
そう話すと、ルーファスは思案げに呟く。
「メルナの事情は概ね皆把握しているから、そう気にすることは無いと思うが……。でも、そうだな。メルナが衣装が気になるというなら、こちらで全面的に準備しよう」
「えっ。でも……」
「そもそも闇魔術師が困窮しているのは王家のせいでもある。メルナが気にすることではないよ」
衣装は王家に用意してもらい、私は顔見せ程度の時間でいいので夜会に出る――という運びになった。