12_地下②
(やっと、入れた……)
私は、階段を降りて地下室に入る。
ずっと小さいサイズでいた私は、魔法を解除して普通の大きさに戻る。
暗闇の中を灯りを持ちながら進んでいると、そのうち開けた場所に出た。
書斎のような空間の中に、大きな机がある。
その上に、古びた本がいくつか置いてあった。
「……あった!」
私は呟く。
この本は魔道書だ。中身を見ると、闇魔術の数々の指南が書かれていた。
(師匠の言った通りだ。この本には実践的な闇魔術が多く書かれてる……!
この手の魔術は読んですぐに使いこなせるものじゃない。
でも、時間をかければ私でも使えるようになるはず。
この本を持ち帰って練習しよう。
あと、隠れている闇魔術師も探して、闇魔術を広めるようにしよう。
実践的な闇魔術を使える人が沢山いれば、魔獣討伐なんかで国に貢献出来る。かつて王家を追い出された件も許してもらえるようになるかも。
本の他に何か無いか、見逃さないようにしなきゃ)
今回地下室から本を持ち帰って王城を後にしたら、もう私は転移魔法は使わない予定だ。何度も侵入したら捕まる可能性の方が高いからである。
地下室に来るのはこれきりにしたい。
でも、ここにはかつて闇魔術師が残したものが色々あるようだ。有用なものがあればそれも持ち帰りたかった。
「……ん?」
部屋の中に、古びた箱があった。
箱には鍵が掛かっている。
が、地下室の扉と同じ魔法でロックを解除することが出来た。
「何だろう。鍵を掛けてるということは、大事なものなの……?」
中にあったのは、杖だった。
保存状態を保つ魔法が掛かっているようで、私が触れると跳ね返されるような感覚がある。
(師匠が言ってたな。昔の時代は魔法の威力を強めるために杖を使っていたって。杖に必要な材質が取れなくなったから、今はもう使われなくなったって言ってたけど。
杖の形は魔術師の属性ごとに決めていた、って言ってたな。
でも、この杖の形は……)
師匠に聞いていたものと違う。
闇魔術師の杖には、月のマークが刻印されていると聞いていた。
この杖には、太陽のマークが刻印されている。
(これは、聖魔術師の杖の形の筈だ。どうして聖魔術師の杖がここに隠されているの? ……杖の状態は……)
私は、じっと杖を観察した。
魔法を使った後は、痕跡が残る。闇魔術師はそれを観察することが得意なのだと師匠が言っていた。
この杖には、魔法の痕跡が残っている。
それも、私が知っているものが……。
(この杖には……服従の魔法を使った痕が残っている?)
そして、杖の他に、箱の中には紙があった。
『闇魔術師の汚名を雪いで欲しい』と書いてある。
聖魔術師が服従の魔法を使った杖が、闇魔術師の隠し部屋にあるということは……。
(闇魔術師が反乱を起こしたから、王家に追われる立場になったのよね。
でも、その反乱が、誰かに操られてやったことだとしたら……。
闇魔術師が城からいなくなってから、聖魔術師の勢力が強くなった。それから考えると……)
「――ああ、良かった。やっと地下室に入れた」
「……!?」
後ろから声がして、私は反射的に振り返る。
そこには、以前に城の中で会った魔術師――セレスティアがいた。
「あなた、今日は小さいサイズじゃないのね。残念。あれくらいのサイズなら、踏み潰してしまえば簡単に終わったのに……」
「……な、なにを言ってるんですか? どうしてあなたがここに……」
セレスティアの様子がおかしい。今まで見た彼女とは態度が違って――敵を目の前にしているような、挑発的な態度を取っている。
私は動揺しつつも、セレスティアにまつわることを一つ一つ思い返す。
――彼女は、王城のイベントで他の聖魔術師と一緒に客をもてなしていた。
聖魔術師、か……。
「……かつて王家に勤めていたのは闇魔術師を陥れたのは聖魔術師だった。あなたはその関係でここに来た……そういうことですか?」
私がそう言うと、セレスティアは息をつき、地下室の扉をちらりと見やった。
「前にあなたの演技に乗ったのは、あなたにここの扉を開けて貰いたかったからよ。闇魔術師が残した手がかりがどうしても見つからないから、それを処分したかったの……」
そして、セレスティアは薄く笑う。
以前に城の中で会ったときの穏やかな笑いとは違う、酷薄な笑みだ。
「闇魔術師は、私達の仲間からすれば邪魔な存在だった。だから私の祖先が追い出してくれた。でも、闇魔術師の残党はまだまだ散り散りになって残っている。
……魔法の痕跡から、あなたが闇魔術を使ったことがあるのはわかっていた。あなたが国に捕まるならそれでも良かった。捕まらずにあなたが地下室に行くなら……丁度いいから、私が全部処分してしまおうって思ってたの」
「処分って……」
「ここには有用な本が隠されているようね。でも全部処分します。昔の杖も全部。ああ、あとは――あなたね。あなたを含めてここを始末すれば、闇魔術師が昔みたいに栄えることはなくなる……」
そう呟いたセレスティアの周りを、禍々しい渦が巻く。
彼女は、私に攻撃魔法を使おうとしている……。
地下室に入るまでに諸々の魔法を使ったため、魔力を消耗している。
私は今、セレスティアに対応出来るような魔法を使える状況に無かった。
(せめて、ここの魔導書と、杖の証拠だけでもどこかに転移出来れば……、
だめ。そんな猶予はない。やられる……!)