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暗殺者

セントラル広場からローラが立ち去り、風に煽られた木々が揺れはじめた。

 澄んでいた空に雲が垂れこめる。満月の光が隠されると同時、示しあわせたように木陰から四つの闇――黒を身に纏った男たち――が這いだした。鋭い目の男がチャンスを逃した口惜しさと、命令を確かめる意味で問いかける。

「ゲッカ男爵、どうして殺らなかったんです?」

 呼ばれた男は口元に品のよい笑みを浮かべた。

「妙案を思いついたのさ。お前たちを使うより安全でよりストーリーが盛り上がる仕掛けをな」

 問いかけた男が不服そうに顔を顰めたが、鋭い目だけは爛々と光っている。 

 長年狙ってきた獲物を狩れないなど暗殺者としての自尊心が許すはずもない。男は五年という歳月をかけ、王子を殺すためだけに生きてきたといっていい。 

 今日、王子は女と逢引するために、わざわざ自分が王子だといいふらすような無防備な姿を暗殺者の目の前に晒したのだった。あの用心深い王子が自分から殺してれと願い出るような真似は二度とない――その確信があっただけに暗殺者は悔しくて仕方なかった。

 その激情は恨みに近い。

「アラン王子は民から好かれている。新王誕生の際に妙な噂が流れれば暴動が起きる可能性がある」

 男爵と呼ばれた男は不出来な部下をもったことに初めて感謝し、続ける。

「色恋沙汰を聞く趣味はないが、これは面白い情報をつかんだものだ。王子の判断は賢明だったが、時期を逸したようだな。それにしても……アラン王子の熱のあげようは見物だ」

 男たちの間に哄笑が起こったのと同時。閃光がきらめき、鋭い目の暗殺者は胴と首が別々になった。骨まで切断した切り口は切り分けた肉のように水平で、噴水のような血飛沫が吹き上がった。残された大男は珍しく恐怖を感じ、動くこともできない。太刀の突風で残り二人のマスクは切り裂かれた。

「他に王子を独断で殺したい奴はいるか?」

 下らないプライドで。いい放ち、返り血で汚れたマスクをとり去る。先ほどの月彩のようなプラチナシルバーの艶のある髪が零れ、金色の美しい双眸が二人を見やった。するともう一人の暗殺者もまた破かれた黒い布をとり去り、濁った灰色の瞳を向けた。

「貴方様が手にかけなければ、この愚か者を私が殺っていました」

 無感動な瞳で首のはなれた胴体を一瞥した後、深く頭を垂れる。俯いたため白髪が顔を覆い隠し表情が読めない。

「見ない顔だな。名はなんという」

 銀髪の男は面白そうに男を見つめた。

「クロードと申します」

「ひぇ!」

 短い悲鳴をあげた大きな影は顔を引きつらせた。

「知っているのか?」

 氷のような瞳をむけられ、大男は喉を鳴らす。

「へ、へぇ。この男はもしかすると、

仲間内で噂されている白髪のクロードかもしれやせん。なんでも冷酷無慈悲で鬼のような仕事振り。手段を選ばない残忍な奴らしいっす。パレスエリアでは有名な殺人鬼ですぜ」

 銀髪の男は話し終えた暗殺者を見つめる。

「体ばかりでかい木偶の棒が」

 身の危険を本能的に感じた大男は逃げ腰になった。

「俺の前に二度と現れるな」

 その言葉が終わるより早くクロードの大釜が大男の目を深々と貫いた。釜は男の頭蓋をつき、後頭部から先端を出している。痙攣し、絶息した男が重力でずるずると落ちてゆき、クロードは何の感慨もなく武器を引き抜く。その無造作な動きに屍体の顔面は抉られ、二つに割れた目玉から血の涙が滴たった。 

 ゲッカは呆れて首を振る。

「あなた様が顔を見たくないと仰ったものですから」 クロードは深く頭を下げた。

「イカれてる」

ゲッカはため息を吐いた。


 


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