アランの夢
ローラがフィーミアに起こされた時刻、いつもならとっくに起きているはずのアランはまだ眠りについていた。
あぁ、またこの夢か……。
アランの呼吸が緊張で浅くなる。
辺りが薄暗く周りがよく見えない。
喉が異様に渇き、白薔薇の甘い香りが漂って来た。
嫌だ……この先は……。
靄がかかったような、仄暗い場所。
アランは重苦しい気持ちでそう思う。
目の前に誰かいる。
アイツだ。
悍ましく、残酷で身体が竦むような恐怖の存在。
『その身体を返せよ』
よく知った声が耳元で凄む。
『俺の身体を……返せ』
今すぐ逃げ出したいのに、金縛りに遭ったように、身体が言う事を聞かない。
『……たいだろう?お前も。本能の赴くままに』
誘惑するような艶っぽい声に、激しく動揺する。どこからか、白薔薇の甘い香りが漂い、酷く喉が……渇く。
目の前の男が、触れるほどの距離まで近づいてくる。総毛立つほど嫌だが動けない。
助けて! と言う声さえ出ず、涙だけが出た。
首筋のあたりまで近づき、男は口を開けた。暗がりの中でも異様に鋭い犬歯だけがハッキリと見えた。
首筋に刃のような犬歯を突き立てられ、痛みに震えた。血が吸い上げられる感覚があり、痛みと共に言いようのない快楽を感じる。
やめてくれ!
声にならない声で必死に抵抗するが、男は意に介さず、血を飲み続ける。
『いい気分だろう?』
最悪だ!いい加減にしろ!
『偽善者め!人の皮を被った化け物が今更何を言っている?お前はこの快楽を知ってるはずだが。ずっと溺れてきただろ?』
やめろ!僕はそんな事をしていない!していないんだ!
アランは目を覚ました。心臓がバクバク鳴り、滝のような汗をかいていた。
恐る恐る首筋に手をやり、少しほっとする。
あれは、夢だ。
自分に言い聞かせる。
あれは、俺じゃない。
必死に自分に言い聞かせる。
夢の中で見る悍ましい男は、いつも自分なのだ。
アランは起きたばかりなのに、鉛のような身体をなんとか起こした。
シャワーを浴びよう。
そうしなければ、気持ちを切り替えられそうにないとアランはベッドから出た。




