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恋愛短編

後悔がなくなるまで

作者: 二藍

[幸せだと伝えたい]


白と黒の世界。君の周りだけがやけに華やかだ。

みんな涙を流している。

嗚咽を我慢している。

だけど僕は昨日君に送らなかったメッセージのことばかり考えている。

昨日の深夜、君に送ろうとして送れなかったメッセージだ。



不思議な体験をしたことがある。

大雨の日、傘をさして歩いていると死んだはずの彼女が隣を歩いてくれるのだ。

何も話さないし、たまに僕を見てすらいない。

そんな彼女の左手にはいつでもスマホが握られていた。


とある大雨の日。

周りの音が聞こえない程の大粒の雨が傘に当たる。雨が演奏会を開いている傘。

一人で歩く僕の隣に彼女が気づけば歩いていた。


いつのまにか隣に歩いていた彼女。

周りの音が聞こえない騒音、傘の下僕と君の世界に入ったかのような不思議な空間だった。


それから彼女は決まって大雨の日に傘に入ってきてくれるようになった。

毎日違う服だけど、手に握っているスマホをしっかり握っている。


晴れた日に傘をさして試したことがあるが、彼女は隣に歩いていなかった。

霧雨でも、にわか雨でも彼女は現れない。大雨の日、それも周りの音が聞こえなくなる日限定。


勿論初めの頃は驚いたさ。

だけど、彼女が霊なら成仏できない理由があるのだろう。

それなら僕はその時までおもいっきり楽しむだけだ、と思った。

どうもポジティブな人間のようだ。

死んだ人に会える そんな素敵な経験を無碍にする程馬鹿じゃない。

僕は彼女を傘に入れることにした。


彼女は一切の返事をしない。

だから僕が一方的に話している状態だ。

楽しかったこと、辛かったこと。

どんだけ話しても返事を返してくれる事はなかった。だからウケているのか滑っているのは、イマイチ分からない。


だけど、時々微笑んでこちらを見ている彼女は本当に美しかった。


それから僕は雨の日の遊園地、動物園…そのほかにも沢山の場所に行った。雨の日の遊園地と動物園は空いていたし、海は荒れに荒れていた。

君と行くと約束していた場所に行った。

だけど、彼女は一点を見つめるばかりで成仏しはしない。そんな彼女の横顔はどんどん暗くなっていく。

「愛していた」でも駄目。

「君といれてよかった」でも駄目。

今まで言えなかった言葉

ただ悲しそうな瞳をこちらに向けてくるばかり。

そんな生活が一年続けた頃だった。


「でさ〜、こたつと脚立って響きが可愛いよね?」

「………」

相変わらずの沈黙。

相変わらずの大雨。


“ねェ、君は幸せだった?”

ふと脳裏に浮かんだ言葉だ。

何の意味もない言葉。

今まで聞いてこなかった。聞いてしまったら、全てが終わるような気がしていたから。

僕は幸せにしてきたつもりだった。告白してからずっと、ずっと。

だけど、彼女は幸せだっただろうか?

世界の音が止まったように静かになる。

耳に入るのは自分の鼓動の音だけ。

音をだけそうとする唇が震える。


いやまて、僕は彼女の成仏を願っていた。なのに終わってしまうとは、どういう事だろう? もう彼女との関係は終わっている。

君が死んだ時、僕は諦めた筈だ。

君が死ぬ前、あのメッセージを送る時に…。

なのに、僕は、僕は…………あぁ、そうか。

君が死んだあの日から、遺影に入った君の顔を見た時から、僕は君に、君を……、


「ねェ、幸せだった?」

ポロッと出た言葉。

確かめたかったんだ。君は幸せだったか。僕といて後悔しなかったか。


彼女は目を見開いた後、笑ってコクリと頷いた。ふわっと笑った顔が目に染みる。

告白をした時と同じ笑顔。

目に涙が溜まる。流れた一筋の涙。

よかった、その気持ちでいっぱいだった。

掴めないはずの手に指を伸ばす。その手に触れる前に、後ろから光が差した。


その笑顔が合図となるように太陽が顔を出したのだ。空には清々しいほどの快晴。

先程までの雨はどこにいったのか、聞きたくなる程の大きな、飛べてしまそうな青空。

思わず傘をなぜ飛ばしてしまうくらい大きな青空だった。

「綺麗だ……」

そう言い、振り向いた先には彼女はいなかった。



そうだ、雨は止んだ。

雨を止んだら彼女はいなくなる。いつもの事。

僕は濡れた左肩を優しく撫で、歩き出した。


君が死んだ日から僕は君を求めていたんだ。

君が後悔しなかったか知りたかったんだ。


それから彼女が傘に入ってくる事は無くなった。

僕の傘の下はまた一人に戻った。


まだ彼女とのメッセージボックスには、

『僕といて後悔しない?』

なんて女々しいメッセージが残っている。

読んで頂きありがとうございます。

反応して頂けると活動の励みになるので気軽にしていってください。

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