46.二人で昼食準備
「お好み焼きを作るのか」
「はい」
並んだ食材を見て主任が言い当てた。
まあ、ボールの隣の”お好み焼き粉”を見れば、誰でも分かるとは思うが。
「キャンプ場で食べるのは初めてだな」
「学生時代のキャンプでよく作ったんです。結構簡単なんですよ」
キャベツを刻みながら私が言う。
学生の時はお金がなかったので、いろいろな食材を使うバーベキューは贅沢メニューだった。材料が安くてボリュームのあるお好み焼きは、当時のレギュラーメニューだ。
私はキャベツがたくさん入っているのが好きなので、刻んだキャベツはボールに山盛りになった。
キャベツの次はネギ。根を切り落として皮を剥き、細かく刻んでいく。
この頃から私はプレッシャーを感じ始めていた。さっきから、一言も発することなく、主任が私の動きをじっと見ている。
「あの、そんなに見られると、少し恥ずかしいのですが」
耐えられなくなって、小さな声で私が言った。
「あ、ごめん」
慌てて主任が私から離れる。
そして、恥ずかしそうに、謎の言葉を呟いた。
「なんか、いいなって思って」
私の手が止まった。
それってどういう意味?
何だか余計恥ずかしくなってしまった。
「えっと、もう一つのボールで粉を溶いてもらってもいいですか」
「お、おう」
主任がまた隣に並ぶ。
その横顔をちらりと見て、私は手を動かし始めた。
このあと刻んだネギの大きさが不揃いになってしまったのは、決して私のせいではない。急に切れなくなった包丁が悪いのだ。
サイトに戻ると、ちょうどオセロの決着がついたところだった。
「私、絶対に強くなって戻ってきますから!」
「いつでも待っているぞ!」
熱血マンガみたいなやり取りをしてから、志保が残念そうにオセロを片付ける。二人の対戦は、ポジティブくんの全勝で終わったようだ。
オセロのかわりにカセットコンロが置かれ、ボールに盛られた具材が周りに並ぶ。それを見てポジティブくんの目が輝いた。
「お好み焼きだ。ばんざーい!」
子供みたいなはしゃぎようだ。
ポジティブくんがいるだけで、とても場が盛り上がる。この人と一緒に仕事をするのは考えてしまうが、一緒に遊びに行くのはありかもしれない。
全員がテーブルについたところで私が言った。
「一度に焼けるのは一種類です。豚玉、チーズ、シーフードがありますが、どれから召し上がりますか?」
途端。
「豚玉で!」
「シーフードで!」
志保とポジティブくんが同時に声を上げた。
目を合わせた二人が、そのまま睨み合う。互いに引く気はないようだ。
「オセロで勝ったんだから、ここは私に譲ってください」
「オセロで勝ったからこそ、ここは僕に権利がある」
主任が呆れ顔で見ているが、口は挟まないらしい。
何だか面白そうなので、私もそのまま眺めることにした。
「豚玉こそがお好み焼きの王道です。最初はやっぱり豚玉でしょう」
「僕はシーフードが大好きだ。僕は、好きなものを最初に食べたい」
志保が理屈で攻める。
ポジティブくんが好みを主張する。
「可愛い後輩の願いを聞き入れてはもらえないんですか」
「笹山さんは確かに可愛いけど、それとこれとは話が別」
ものすごい平行線。
これはさすがに埒が明かないと思った時。
「じゃあ、最初は豚玉シーフードミックスにしよう」
そう言いながら、主任が具材を混ぜ始めた。
「えー!」
「そんなー!」
悲しそうな二人の前で、私も食べたことのないお好み焼きが焼かれていく。
「さあ、出来たぞ!」
切り分けて二人に差し出す主任は、いたずらっ子みたいな顔をしていた。
お腹がいっぱいになった私たちは、食休みを兼ねてジェンガで遊ぶことにした。木製のブロックを組み上げ、それを一本ずつ抜いて上に載せていくというあれだ。
持ってきたのは主任。何となく主任らしいなと思った。
ここでも志保とポジティブくんの対決が熱かったが、一番勝ったのは主任だった。
「持ち主として、ここは負けられないからな」
得意げに言って胸を張る。
どうやら営業マンには負けず嫌いが多いらしい。
「じゃあ、予定通り滝を見に行くか」
主任がジェンガを片付け始めた。
悔しそうな二人も、諦めてそれを手伝っていた。
ここから歩いて一時間のところに滝がある。車では行けない場所なので、”訪れる人の少ない秘境パワースポット”と自治体のホームページに書いてあった。計画を練っている時に私がそれを言ったら、三人とも行きたいと言い出したのだ。
「パワースポット、楽しみですね!」
「秘境探検、燃えるよね!」
志保とポジティブくんが元気よく歩き出す。
その後ろ姿を笑い合って、主任と私も歩き出した。




