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主任と私  作者: まあく
46/60

46.二人で昼食準備

「お好み焼きを作るのか」

「はい」


 並んだ食材を見て主任が言い当てた。

 まあ、ボールの隣の”お好み焼き粉”を見れば、誰でも分かるとは思うが。


「キャンプ場で食べるのは初めてだな」

「学生時代のキャンプでよく作ったんです。結構簡単なんですよ」


 キャベツを刻みながら私が言う。

 学生の時はお金がなかったので、いろいろな食材を使うバーベキューは贅沢メニューだった。材料が安くてボリュームのあるお好み焼きは、当時のレギュラーメニューだ。

 私はキャベツがたくさん入っているのが好きなので、刻んだキャベツはボールに山盛りになった。

 キャベツの次はネギ。根を切り落として皮を剥き、細かく刻んでいく。

 この頃から私はプレッシャーを感じ始めていた。さっきから、一言も発することなく、主任が私の動きをじっと見ている。


「あの、そんなに見られると、少し恥ずかしいのですが」


 耐えられなくなって、小さな声で私が言った。


「あ、ごめん」


 慌てて主任が私から離れる。

 そして、恥ずかしそうに、謎の言葉を呟いた。


「なんか、いいなって思って」


 私の手が止まった。


 それってどういう意味?


 何だか余計恥ずかしくなってしまった。


「えっと、もう一つのボールで粉を溶いてもらってもいいですか」

「お、おう」


 主任がまた隣に並ぶ。

 その横顔をちらりと見て、私は手を動かし始めた。

 このあと刻んだネギの大きさが不揃いになってしまったのは、決して私のせいではない。急に切れなくなった包丁が悪いのだ。




 サイトに戻ると、ちょうどオセロの決着がついたところだった。


「私、絶対に強くなって戻ってきますから!」

「いつでも待っているぞ!」


 熱血マンガみたいなやり取りをしてから、志保が残念そうにオセロを片付ける。二人の対戦は、ポジティブくんの全勝で終わったようだ。

 オセロのかわりにカセットコンロが置かれ、ボールに盛られた具材が周りに並ぶ。それを見てポジティブくんの目が輝いた。


「お好み焼きだ。ばんざーい!」


 子供みたいなはしゃぎようだ。

 ポジティブくんがいるだけで、とても場が盛り上がる。この人と一緒に仕事をするのは考えてしまうが、一緒に遊びに行くのはありかもしれない。

 全員がテーブルについたところで私が言った。


「一度に焼けるのは一種類です。豚玉、チーズ、シーフードがありますが、どれから召し上がりますか?」


 途端。


「豚玉で!」

「シーフードで!」


 志保とポジティブくんが同時に声を上げた。

 目を合わせた二人が、そのまま睨み合う。互いに引く気はないようだ。


「オセロで勝ったんだから、ここは私に譲ってください」

「オセロで勝ったからこそ、ここは僕に権利がある」


 主任が呆れ顔で見ているが、口は挟まないらしい。

 何だか面白そうなので、私もそのまま眺めることにした。


「豚玉こそがお好み焼きの王道です。最初はやっぱり豚玉でしょう」

「僕はシーフードが大好きだ。僕は、好きなものを最初に食べたい」


 志保が理屈で攻める。

 ポジティブくんが好みを主張する。


「可愛い後輩の願いを聞き入れてはもらえないんですか」

「笹山さんは確かに可愛いけど、それとこれとは話が別」


 ものすごい平行線。

 これはさすがに埒が明かないと思った時。


「じゃあ、最初は豚玉シーフードミックスにしよう」


 そう言いながら、主任が具材を混ぜ始めた。


「えー!」

「そんなー!」


 悲しそうな二人の前で、私も食べたことのないお好み焼きが焼かれていく。


「さあ、出来たぞ!」


 切り分けて二人に差し出す主任は、いたずらっ子みたいな顔をしていた。




 お腹がいっぱいになった私たちは、食休みを兼ねてジェンガで遊ぶことにした。木製のブロックを組み上げ、それを一本ずつ抜いて上に載せていくというあれだ。

 持ってきたのは主任。何となく主任らしいなと思った。

 ここでも志保とポジティブくんの対決が熱かったが、一番勝ったのは主任だった。


「持ち主として、ここは負けられないからな」


 得意げに言って胸を張る。

 どうやら営業マンには負けず嫌いが多いらしい。


「じゃあ、予定通り滝を見に行くか」


 主任がジェンガを片付け始めた。

 悔しそうな二人も、諦めてそれを手伝っていた。


 ここから歩いて一時間のところに滝がある。車では行けない場所なので、”訪れる人の少ない秘境パワースポット”と自治体のホームページに書いてあった。計画を練っている時に私がそれを言ったら、三人とも行きたいと言い出したのだ。


「パワースポット、楽しみですね!」

「秘境探検、燃えるよね!」


 志保とポジティブくんが元気よく歩き出す。

 その後ろ姿を笑い合って、主任と私も歩き出した。


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