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尾道  作者: ムイシュキン
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 女の人を見失った夜が明けて、私は宿泊したホテルで朝食をとっていた。


ホテル自慢の焼き立てのパンをちぎりながら齧っていると、見覚えのある人を見かけ、思わず「あっ」と声が出た。


相手も「あっ」と口を開け、私の隣に腰をかけた。


「同じホテルだったんですね」と声をかけられた。「偶然です」と私は返す。その人は昨日一緒に公園を歩いた女の人だった。これから船で島へ帰るというので、見送ることにした。


 朝食を終え、部屋で支度をし、ホテルの出入口の前で待ち合わせをした。二人で駅前の渡し船乗り場へ向かう。


 船乗り場に到着し、岸壁から島までの近さに驚いた私は「島までかなり近いんですね」と思わず口を開いた。島に着岸した船から下船する自動車が、ここからでも目で確認できる。


「ちょっと前に脱獄犯が島から水道を泳いでこちら側に逃亡したことがあります」


「へえ、泳いで」


「船の交通が多いので絶対やめた方がいいですよ」


「大井ふ頭と青海ふ頭よりも近いと思う」


「?、なんですかそれ」


「昔の職場です。あれは湾だけど、ここみたいに岸壁が対になってる」


島のクレーンや陽光に照らされる水面を眺めながら、色々な会話をした。


 「これからどうするんですか?」と彼女は私に聞いてきた。


「しばらくここに残ります。見たい物がもう少しあるんで」


嘘を言った。私はこの街にもう用はない。


「それを見たら、またどこかへ行くの?」


「はい」


 島から折り返してきた船が乗り場に着岸した。


「じゃあ、さよなら」


そう言って彼女は船乗り場に歩いていく。そのまま船に乗るのかと思いきや、再び私の方に戻ってきて


「今度会ったら、夜行列車が走る街がどんなだったか教えて」


そう言って彼女は船の方へ消えていった。


私は出航した船が島に着岸するまで見送った。


もう二度と彼女に会うことはないだろう。


少し冷えた、一度きりの朝だった。

抜粋

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