第5話 備えあれば嬉しいな
数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!
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「ああ、すまないね。つい懐かしくていろいろしゃべってしまった」
「いえ、お気になさらず」
オレは優雅に微笑んで見せる。
「はは、しっかりとしたご子息だ。……それで、冒険者登録をしたいんだったかね」
「あ、ハイ。生活していくにもお金が必要なので」
「そうか。それで君のジョブはなにかね?」
ジョブとは冒険者の得意分野を表す職業のことで、RPGでは定番の肩書きのようなものだ。
回復が得意なら「僧侶」に、剣術が得意なら「剣士」といった具合になる。
「はい、召鬼道士です!」
シィン静まり返るギルド内。
まるで言っちゃいけないことでも言った時の空気だ。
え? オレまさか何かまずいこと言ったか?
少し考える。
ゲーム内ではヴォンは確かに召鬼道士で死者の王で……。
……あ。ああああああああああ!!!!
そういえば召鬼道士っていうのはタブーの職業なんだったぁああ!!!
ゲーム内では過去に数人「召鬼道士」がいたとされているが、いずれも大量虐殺を行った悪逆非道の人間でひどく非難される存在だった。
「僧侶」の上位職は通常「賢者」で回復魔法を得意とする貴重な存在だが、ごくごく一部の人間のみが「道士」と呼ばれる死に深くかかわる職業になることがある。
その中でも「召鬼道士」は死者を蘇らせ使役できる恐ろしい存在。
過去には召鬼道士一人に一つの大国が滅ぼされたこともあるという。
世界が世界なら、「ネクロマンサー」とも呼べる存在である。
いずれにしても、こんなあけすけに口にしていいジョブではない。
ししししししししまったぁあああ!!!!!
ごごごご、ごまかすにはどどどどどうすべ!?
オレはパニックだ。
「「「「ぶっ」」」」
「ぶっ」?
一人でプチパニックを起こしていると、いたるところで噴き出す音が聞こえた。
周りを見れば冒険者たちが思い思いに大笑いしていた。
前を向けばリンダルさんやリズさんも笑っている。
「あははは。本の読みすぎかな? 悪役が格好良く見えちゃうときってあるよね」
「だめだよぉそんな職業になっちゃ。それは怖ぁい人たちのことだからねぇ?」
この状況から推察するに、どうやら冗談だと思われたようだ。
確かに、見た目十歳程度の子供が持てるようなジョブではない。
たたた、助かった!!!
逆にありがてぇ!!
「あ、ははは。す、すみません。つい」
オレはそのまま流れに身を任せて冗談だったという体を装った。
次からは気を付けねば。
それはそうとして、ジョブか……。
「召鬼道士」というのは隠しておかなければならないとなると、他のジョブが必要だ。
ううん。ほかにできること……。
あ、そうだ。
オレは魔法はとある理由から使えないのだが、その代わり神通力と呼べる力が使える。
物を浮かせたり、身体能力を上げたりというものだ。
いわゆる超能力と言えばわかりやすいかもしれない。
その力は「召鬼道士」になる途中で手に入れたものだが、神通力で矢を射れば百発百中の弓使いに、身体能力の強化などを使えば剣士や槍使いのような接近戦も可能だ。
ならばここはありふれたジョブが良いだろう。
ならば……。
「あの、『弓使い(アーチャー)』です」
「『弓使い(アーチャー)』ね。わかりました。武器は持っているのかな?」
「あ、いえ。お金をためてから買おうと思ってます」
「そうかい。ならしばらくは薬草採取など簡単な依頼からこなしていくといいだろう。幸いにも薬草なんかはいつでも使われるからね」
薬草はどんなRPGでも序盤に必ず出てくる回復アイテムだ。
「僧侶」や「ヒーラー」などの回復要員がいないパーティーや個人の冒険者、さらには商人や旅人など、街の外に出る仕事の者達がよく使うアイテムの為、どれだけあっても需要は消えないらしい。
なるほど。ならばしばらくは薬草採取で金を稼いで、そのついでに神通力の訓練でもしようか。
ジョブを偽る必要がある以上、神通力を使う頻度が上がるだろうし。
「備えあれば患いなし」というし。
いやオレ風に言えば「備えあれば嬉しいな」だ。
オレは自分で考えておきながら何言ってんだかと笑ってしまう。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや。なんでもないです」
リンダルさんは不思議そうな顔をしながらも話を続けた。
「? そうですか。ではこれで登録は完了です。来ている依頼は掲示板にも張り出してありますし、この受付でも確認できます。基本的に掲示板にはDランク以下の依頼しか載せておりませんので、安心してお選びくださいね」
ランクはギルドにある依頼をいくつかこなすことで上がっていくもので、オレはまだ登録したばかりだからEランク。
目安として、掲示板の依頼を三,四個こなせばDランクに上がるそうだ。
こういうところはゲームと全く同じようで助かる。
『ストモン』をやりこんでいたオレはもちろんランクSSSと呼ばれる最高ランクまで上り詰めていた。
ジョブは「弓使い」の上位職である「狩人」。
称号が「那須与一」だった。
つまりオレは前世でなじみのあるジョブに就いたのである。
これなら勝手も知っているからすぐになれるだろう。
それにしても……。
オレは改めてゲームの中にいるのだと実感してなんだかワクワクしてしまう。
きょろきょろと見回していたらリンダルさんに笑われてしまった。
「ははは。物珍しいだろう? ゆっくり見て決めるといい」
「すみません。ありがとうございます!」
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