第7話 あくまでフェミニストだよ
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「制圧完了しました!」
今オレの前にはリューナさんと外套を被った人たちが跪いている。
その数五人。
たった五人で一つの奴隷商を潰してしまえるとは恐れ入った。
あ、ちなみに奴隷商の親分はリューナさんのハイヒールに踏みつけられて伸びている。
もう、オレは気にしないことにした。
なんか組織のボス的な感じのキャラで乗り切ろう。
「うん。よくやった」
「っは! もったいなきお言葉!!」
そういえばリューナさんたちは嬉しそうな顔でこちらを見てくる。
「奴隷たちだが……」
ちらりと檻の中を見ればびくつく人たち。
そりゃあ怖いよね。ごめんね。
勝手に連れてこられた上に、今までひどい目に遭ってきているだろう。
奴隷など初めて見たが、やはり気分が良いものじゃない。
解放できるのならしてあげたほうがよさそうだ。
「解放してやれ。望むのならば与えよ」
「っは! 仰せの通りに!!」
こういうのは雰囲気とテンションだ。
解放云々は言葉の通り、後者の発言は保護してやれ的な意味合いだ。
リューナさんたちは分かってくれたのだろう。
テキパキと奴隷たちの檻へ向かっていった。
「あ、あの……」
「ん?」
控えめな声が聞こえてきた。
振り向けばもふもふ白耳少女。
そういえばこの子だけはずっと檻の外にいたんだった。
その首にはまだ首輪が付いている。
「リューナさん」
「はい」
リューナさんは素早く動くと鍵を胸元から取り出し少女の首輪を取っ払った。
少女は涙ぐみ、その場に崩れてしまう。
安心したのだろう。
奴隷商の中で安心というのも変な話だが。
「あ、っありがとう……ありがとうございますですよ!!」
オレは少女の肩に手を置く。
良かったね、という意味を込めて。
「そういえば、君、名前は?」
名前を呼ぼうにも知らないことに気が付く。
「あ……あたし、クローネですよ。十一歳」
「そう。クローネちゃんね。もう捕まっちゃいけないよ。さあ、早くおかえり」
前を向けば、檻の中にいた奴隷たちが次々と階段を登っていくのが見える。
クローネちゃんも早く皆と合流してここを抜けたほうがいい。
そう思ってクローネちゃんの背中を押すが、彼女は動こうとしなかった。
それどころかオレの服を掴んで離さない。
不安なのだろう。
十一歳の少女がこんなところにいて平気なはずがない。
クローネちゃんの頭を撫でてやる。
「大丈夫、このお姉さんたちについていけば保護してくれるよ」
オレは安心させてやるように微笑みながらそう話しかける。
クローネちゃんは数秒潤んだ瞳でオレを見ていたが、やがて意を決したように目に力を入れた。
「あ、あの。あたしも仲間に入れてくださいですよ!!」
「え?」
聞きまちがいだろうか。
仲間に入れてくれと言われた気がするが。
ついに耳までいかれてしまったようだ。
「えーと?」
固まるオレにクローネちゃんはさらに言い募る。
「あ、あたしホワイトウルフの獣人族だから治癒能力あるですよ。それに狼は強い群れに入ることが誉なのですよ! だから入れてほしいのですよ!!」
オレはどう反応していいか分からずに彼女を見る。
癖のあるウルフカットの栗色の髪に金の瞳を持つ少女。
その目は獣人族だからか、狼の特色を色濃く反映している。
まだ幼さの残る顔立ちながら、このまま大きくなればさぞかし美女になるだろうと簡単に予測できる可愛らしい顔だった。
……胸は全くないが。
でも、これはこれでありでは?
オレの中のフェミニストが立ち上がった。
違うよ? ロリコンではないよ?
あくまでフェミニストだよ。
というか獣人族はわかるけど、ホワイトウルフは聞いたことがないな。
ただの白い狼か?
「ヴォン様、ホワイトウルフの獣人は数いる獣人族の中でも希少種に当たります。彼らは固有スキルで治癒能力を持っており、その力は欠損部位をも治すことができると言われていますわ」
そんな疑問が顔に出ていたようでリューナさんが説明をしてくれた。
って、希少種!?
しかも相当すごい治癒能力を持ってるんだ。
オレは納得した。
なるほど、だから貴族向けの奴隷商にいたんだな。
そりゃあ欠けた所が治るなら皆欲しがるわ。
意図せずそんなすごい子を助けてしまったオレ、ナイスでは?
今日ばかりは自分のまきこまれ体質に感謝したい。
「組織に入ってもらって損はないかと」
リューナさんは続ける。
ふむ。まあ確かにいても損にはならないとは思うが、こんな小さい子に苦労させたくはないなぁ。
「やだですよ! あたしはこの人と一緒にいたいのですよ!!」
オレの思考を遮るようにクローネちゃんが声を上げた。
彼女はオレにぎゅうっとしがみ付いてくる。
いやあ。モテる男はつらいねぇ!
オレはデレた。
だって可愛いんだもの。
「なっ!? ちょっちょっと! ヴォン様から離れなさい!!」
リューナさんが慌てたようにクローネちゃんをはがしにかかる。
「いやですよー!! つれて行ってくれるっていうまで離れないのですよー!!」
タイプの違う二人の美女がオレを取り合うというなんとも美味しい展開に、オレは舞い上がった。
こんなにモテたことがあっただろうか。
いや、ない。
恐らく今世のヴォンのビジュアルがいいことも影響しているだろう。
設定した人、ありがとう。
ただ、そろそろ離してほしい。
クローネちゃん、力強すぎ。
骨がさっきからミシミシと言っているのだ。
「ぐ、ぐへぇ。ちょっと二人とも、いったん落ち着いてよ!」
オレの為に争わないで!!
一度は行ってみたい言葉だな。
もし余裕があれば言っていた。
だが今はそんな冗談を言っている余裕はない。
二人はオレの腕に巻き付き離れようとしない。
というかリューナさん、君はしがみ付かなくてもいいだろうに。
わがままボディが無遠慮に押し付けられるとドギマギしてしまう。
「つれてってですよ~!!」
「ずるいです! 私の時は連れて行ってくれなかったのに、この子だけずるいです!! この子を連れていくのなら私も連れて行ってくださいませ!!」
「わ、分かったから!! いったん離してぇ! う、うでがぁあ!!」
オレの魂の叫びが哀れに響いた。
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