第5話 チンピラちらちら金曜日
数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!
「いたぞ! あっちだ!!」
ほらーー! もう!!
お約束だよ!!
追手らしき男たちが数人集まりだした。
少女は怯えたようにオレの後ろに隠れる。
しまったな、彼女が気絶している間に居なくなれば良かった。
……まあ怪我をしたかもしれない人の安否を確認せずに逃げるなんてことできないんだけどさ。
男達は大通りに続く退路を閉ざすように立ちふさがりオレの後ろにいる少女へと向かってくる。
あれれ、いつの間にかオレが少女を庇っているような図になっている気がするのだが。
「そいつを差し出せ」
男の一人が口を開く。
差し出せも何も、オレ庇ってませんけど?
オレは両手を上にあげて敵意はないと示す。
「さもなくばお前も商品にするぞ」
「おい、めんどくさいしもうこんなガキ一緒に連れてこうぜ」
「顔は結構いいけどこんなガキ買うもの好きなんているかぁ?」
いつの間にか男たちの会話はオレを売るだの買うだのの話になっている。
捕まえるのは前提なようだ。
「貴族なんて奴は物好きしかいねーよ。顔が良ければ楽しむ方法はいくらでもあるだろ」
「まあ、そうだな」
「ならとっとと連れてこうぜ。もうオークション始まっちまう」
ふむ。
どうやら今から奴隷のオークションが始まる様だ。
参加者は貴族のようだし、ある程度人脈の作られた奴隷商ということか。
オレが考え込んでいると男の一人が前に出てくる。
「こんな時間にこんな場所に一人でいる方が悪いんだぜ?」
それについては言い返すことができない。
「別に居たくて居たわけじゃないよ。迷ったの」
「ははは、それなら運が悪いと思うんだな!」
オレは少女を後ろに下がらせ前へ出る。
巻き込まれたのは気に食わないけれど平然と見捨てられるような度胸も持ち合わせていない。
男達はそんなオレを見てにやにやしながら近寄ってくる。
「おいおい、女を庇う騎士気取りか?」
「ぎゃははは! こんなチビが騎士かよ!!」
「嬢ちゃんもついてないなぁ。助けを求めたのがもっとでかい奴だったらよかったのに」
カチーーーン
オレは笑顔のまま青筋を浮かべた。
そろいもそろってオレのコンプレックスを刺激しやがって。
まじ許すまじ。
「……そうでもないかもよ? 君達みたいな三下が追手でよかっただろうし」
オレは笑顔で小首をかしげながら煽る。
三下は思った通りにノっかかってきた。
「ああ? てめえ今なんつった」
「聞こえなかった? 三下って言ったんだよ」
「てめぇ! 言わせておけば!!」
三下たちは怒りのままオレへと拳を振り上げた。
だがその動きは訓練されていない素人のそれだ。
どう見てもチンピラレベル。
チンピラちらちら金曜日。なんつって。
まあともかくオレの敵ではない。
三下たちの攻撃を避けつつ一人の足を引っかけ転ばせる。
顔面から見事にコケてくれた。
ははは、ウケる。
オレは唇の端を吊り上げた。
続く一人は腕をとって壁に投げ飛ばす。
前世でいう巴投げだ。
最後の一人は転んでいた男をぐるぐると振り回して投げ飛ばしてしまいだ。
あっはっは。
オレはゲス顔をキめる。
思っていた通り、召鬼道士の力が強くなれば強くなるほど、従えている死者たちの力がオレにも使える様になる。
この怪力は彼らの力だろう。
大の大人の男を振り回したのに、感覚としては子犬を持っているような感じだった。
――ドス
倒れこむ男達のその顔から一ミリだけ外した場所にサバイバルナイフを突き立ててやれば三下たちは震えあがった。
「ねえ、少し教えてほしいんだけど」
「ヒ、ヒイ」
オレは目線を合わせる様にしゃがみ込む。
「この子の首についている首輪みたいなの何かな」
「そ、それはうちの奴隷商で使っている従属の首輪、です」
「従属の首輪?」
聞きなれない言葉に首を傾げる。
「それが付いている限りそのガキは奴隷なんです。主人には逆らえなくなる」
どうやらきちちと管理されているようだ。
「へえ。じゃあ彼女を解放するためにはどうしたらいい?」
「く、首輪を取るには所有権を奴隷商から変えないとむりだ」
「本当に?」
ナイフを近づけ頬だけ斬ると、三下は顔を青ざめて叫ぶように言い募る。
「本当だ! 無理に取ろうとすると毒が刺さるようになってるらしい!」
「毒?」
「し、神経毒だ! 刺されると数時間後には死ぬ」
「ふーん」
どうやら逃がせばそれでいいとはいかないようだ。
ずっと首に毒が当てられている状態ということだし。
「じゃあこの子はなんで無事なのかな?」
「く、首輪には手を付けずに俺たちの隙をついて逃げ出したからだ! どっちにしろ上に脱走がばれればスイッチが押されて助からねぇよ!!」
「へえ。君達から逃げ出したわけだ」
どうやら男達の上の者には逃げ出したことがばれていないようだ。
それで三下たちは慌てて捕まえに来たということか。
男達より少女の方が一枚上手なのだろう。
まあそれは今は置いておこう。
「じゃあさ、この子っていくらぐらいの見積もりなのか分かる?」
「へ?」
「だから、この子の値段だよ。いくら?」
オレは懐から硬貨の入った袋を出して中身を見せびらかす。
――ジャラジャラ
金持ちムーブ。
一度はやってみたかったことだ。
「こんだけあっても足りないかな?」
「め、滅相もない!!」
男達は慌てた様子で立ち上がる。
「まさかお客様とは思わず、大変な失礼をいたしました」
お客様ではない。
そんな趣味の悪い客になどなりたくはないが、今だけは目をつぶろう。
勇気を出して奴隷商から逃げ出した少女に免じて。
オレは真っ向から奴隷市場に関わることなどしないが、助けを求められたら助けられる人だけは助けてあげたいと思う。
だからオレに助けを求めてきたこの少女を買って自由にしてやる。
そう決めた。
まあ、行ってしまえば自己満足だ。
「君はそれでいい? 自由のためにオレに買われてくれる?」
少女は数秒無言でオレの眼をじっと見つめていたがやがて首を縦に振った。
決まりだ。オレ達は三下たちに案内をさせて奴隷商へと向かった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
「面白そう・面白かった」
「今後が気になる」
「キャラが好き」
などと思っていただけた方はぜひともブックマークや下の評価機能(★★★★★が並んでいるところ)から評価をお願いいたします!
皆様から頂いた時間や手間が作者にはとても励みになりますので是非とも!宜しくお願い致します!!




