第3話 ここが理想郷
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「宿って、温泉宿!?」
目の前には広々とした部屋の奥に風呂釜が完備してある、前世でいう温泉旅館のような部屋が広がっていた。
前世でも部屋に温泉がある宿になんて泊まったことないオレは泣いた。
はわ、はわわ。
感激だ。
ここが理想郷。オレが求めていたものはこういうのだよ!
この世界に転生してから初めて風呂を見た。
夢にまで見た風呂!!
風呂だ~!!!
オレは風呂へと直行した。
「わっほほいほーい!!」
勢いよく服を脱ぎ体を洗い湯船につかる。
ああ、やはりこうだよ。
これがないと生きていけないよ。
湯船に肩までつかり固まった体を伸ばしていく。
するとガラリと扉が開く音がした。
「やはりお風呂は最高ですわよね」
「リューナさんっ!?」
オレは慌てて湯船に沈む。
何も持たずに入っていたから隠せるものがない。
リューナさんは動じた様子もなく、ずかずかと入ってくる。
もちろん何も着ていない。
暴力的なほどの大きさを誇る胸にくぎ付けになってしまったオレは、彼女が体を洗い風呂釜に入ってこようとするまでぼうっと裸体を見ていた。
脳が処理落ちを起こしたのだ。
「ヴォン様、そんなにみられるとさすがに照れてしまいますわ」
クスリと妖艶な笑みを零し、真正面にやってきた彼女の言葉にオレは我に返る。
「キャー――――!!! ごめんなさいぃぃぃ!!!!」
あらん限りの高音の悲鳴が出た。
オレは慌てて目を覆う。
もちろん指を少しだけずらして。
「うふふ、謝られなくてもよろしいのですよ? 何なら触ってみますか?」
悪戯な笑みだ。
オレで遊んでいるような、そんなサディスティックな顔をしていた。
このっ!! この子、とんでもない小悪魔じゃないか!!
「どこでもお好きなところをお好きなように」
「けけけけけっこうででです!!」
これ以上の刺激はいけない。
オレは慌てて後ろを向いた。
背後で水のはねる音がする。
――ちゃぷん、ぴちゃぴちゃ
うおおおおおおお!! オレの煩悩よ!! 死滅しろ!!!!
彼女はただ湯あみをしているだけだ!!
……って、なんで一緒に入っているんだ?
オレはそこでようやく気が付く。
一緒に風呂に入るってやばくね? 通報案件じゃね? と。
そうだ。オレが出ていけばいいのだ。
オレはそう思い勢いよく立ち上がる。
「おおおおおお邪魔しました!!」
「あら、もうよいんですの? せっかくなのだからもっとゆっくりしていけばよいのに」
「けっこうですううう!!」
そのまま脱兎のごとく風呂を後にする。
◇
「っあ~、酷い目にあった」
オレは浴室から部屋へと移動してそこで死んでいた。
刺激が強すぎてのぼせたのだ。
この世界って混浴が普通なのか?
というか風呂文化なんて上級貴族層にしかないはずなのになんでこの宿にはあるんだよ。
オレの理解の範疇を越えている。
今は何も考えられない。
そうしていると浴室の扉が開きリューナさんがゆったりとしたローブを着て出てきた。
「ヴォン様、さっぱりしましたか? っと。ああ、御髪を乾かさないといけませんよ。さあこちらへ」
促されるまま彼女の前に座ると風魔法と火魔法を組み合わせ温かい風を起こす。
へえ~。そんなこともできるんだ。
オレは素直に感動した。
オレには魔力はあるが魔法が使えない。
死者の魂の統制に全魔力を注がないといけないからだ。
そういう訳で、魔法を見る機会などなかなかない。
見せてもらえるのならば見たい。
魔法はあこがれなのだ。
というか乾かして貰っているうちに、これ子供として扱われてないかと気が付いた。
恐らく先ほどの風呂事件も子供と入るような感覚だったに違いない。
そう考えれば説明がつく。
何せ、オレの見た目は十歳程度の子供なのだから。
年齢は十三歳なのだが、どういうことか体は十歳のころから少ししか成長していない。
だから子供を相手にしているような感覚になるのだろう。
きっとそうだ。
ならば彼女の行動も仕方あるまい。
……中身は三十四のおっさんだから、だいぶ問題があるのだが。
それは知らぬが仏ということにしておこう。
「はいっ! 乾きましたよ」
「ありがとう」
髪の毛がふわふわだ。
今世で一番きれいな状態になった。
不思議なもので、急激に眠たくなってきた。
オレはその眠気に抗うことなく深い眠りに落ちていった。
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