第1話 オレの中のばぶちゃんが泣き出した
数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!
4章スタートです!!
「――なに? 死者が蘇っただと?」
暗い部屋の中にしわがれた男の声が反響した。
男は豪華な服に身を包み、ゆったりとしたソファに腰を掛けていた。
その様子はまさに王様そのものだ。
今この場には男以外には姿が見えないが、確かに男は何者かと会話をしている。
「それは真のことなのだろうな」
「はい。現地では死期が近くなると現れる『死神』と呼ばれているようです」
闇から無機質な声が聞こえた。
男は酒の入ったグラスを煽ると窓の外を見上げた。
「死神……。ふむ。死神か。召鬼道士には似合いの通り名だ」
グラスに映った男の顔は欲望にまみれていた。
「……ようやく我が悲願がかなう時が来た、とそう思ってよいのだな」
男は不気味な笑みを零す。
「ようやく、世界がわが手に入る。実に楽しみだ。……その『死神』とやらを探し出せ!」
男は高らかに笑い酒を飲み干した。
◇
逃げる様にアレクと別れてから五日が経った。オレは一人で荒野を行く。
「ぜえ、はあ。まだつかないのか? サフランには」
おかしいな。オレの目測では三日程度で到着する予定だったのに。
これだけ歩いてつかないということはやはり、また迷子だろうか。
困ったぞ。こんな何にもないところでは道を聞こうにもまず人が通らないのに。
それに、五日間ずっと砂の上を歩き続けている足は既に力が入らなくなってきている。
本当にまずい。ミイラ取りがミイラになるとはいうが、このままでは死者使いがミイラになってしまう。
そんな馬鹿なことを考えるしかできなくなったオレはその場に倒れこむ。
視界がぼやけて暗くなっていく。このまま本当に死んでしまうのかもしれない。
暗くなっていく意識の端で馬車の音が聞こえた気がした。
◇
「うっ……」
涼しい風がオレの頬を撫でた。
そよそよと流れる風は仄かに果物の香りを運び、オレの鼻をくすぐる。
頬には何か柔らかな感触があり、とても居心地が良い。
これが天国なのだろうか。
オレはあのまま死んだのだろうか。
というか死者を呼び起こしてきたオレが天国なんていけるのだろうか。
ん? じゃあ違う?
オレはわずかに目を開いた。
ごちゃごちゃと多くの荷物があるのが見える。
物置きか……?
すいっと頭を動かせば、その先に景色が動いていく窓が見て取れた。
ガタゴトという音共に揺れる体。
……何かの乗り物に乗せられているようだ。
この世界には馬車があったっけか。
たぶんそんな感じだ。
っていうか本当にここどこだ!?
オレは勢いよく体を起こした。
途端に後頭部に柔らかい感触がある。
「あん。ヴォン様お目覚めで?」
色気を孕んだ艶のある声が聞こえた。
どこかで聞いたことのある声に振り返る。
「リュ、リューナさん!?」
目線の先にはダイナマイトボディを惜しげもなく強調するドレスを着た美女――リューナさんがいた。
水色の長い髪からは清涼感のある果物の香りが漂ってくる。
先ほど香ってきた芳醇な果実の香りは彼女のものなのだろう。
突然の知り合い登場に驚くオレをよそに、リューナさんは笑顔でポンポンと自分の膝を叩いている。
「もうしばらくお休みになっていた方がよろしいかと思いますわ。よろしければ先ほどの続きをいたしましょう?」
「さ、先ほどの続き……?」
リューナさんな妖艶に微笑むと自分の膝と胸を指さす。
「ヴォン様、とても気持ちよくなられていたようで」
……えっと。
オレは彼女の言葉がイマイチ分からずに首を傾げた。
そんなオレを見てリューナさんは可笑しそうに笑みを零し、オレの耳元に口を寄せる。
「私の膝枕、ご堪能いただけたようで何よりですわ。勢いよく起きられるときに私の胸に触れたのはわざとですか?」
「へあ!?」
オレは耳を押さえて飛び退く。
そんな色っぽい声を耳元でささやかないでいただきたい。
って、それどころじゃないや。
今彼女は何と言っていた?
膝枕? 胸に触れた!?
それじゃああの柔らかい感触は膝枕か!?
それに起き上がった時に後頭部に触れたのは……胸!?
何だと。
素面の時にお願いしたか……げほん。
違う違う。
いや、これはもう土下座するしかなくないか。
オレはそう考える(コンマ一秒)と華麗にバク宙をして土下座をした。
「ごめんなさーーーーーい!!」
ぴしりと揃った両手両足。
そして額は手に乗せる。
我ながら見事なバク宙土下座だと思う。
だから監獄行きだけはご勘弁を!!
オレは必死な思いで言い訳を並べる。
「無意識下だったんです! 決してやましい思いは抱いていません!」
「あの、ヴォン様?」
「おねショタ、あわよくばとか考えていません!」
「おねショタ……?」
リューナさんはぽかんとした顔をしている。
誠実に謝ること。
これがオレの処世術だった。
「ですからどうかご勘弁を!」
「えっと、私そもそも怒っていませんわ」
「そうでしょうとも……え?」
今度はオレがぽかんとする番だった。
まじまじとリューナさんの顔を見てしまう。
怒って……ない?
完全なセクハラをかましてしまったのに?
「そもそも私はヴォン様に忠誠を誓ったのですよ? 何をされても大丈夫ですわ」
「ごふっ」
オレは舌を噛んで吐血した。
そしてむせる。
「きゃああ!? ヴォン様!?」
「ごほっ、ごほっ!!」
ちょっとこの娘大丈夫か?
今とんでもない爆弾発言があったと思うのだが、この世界では割とポピュラーな言い回しだったりするのだろうか。
いや、そんなことない気がする。
とりあえず、オレはむせながら注意することにした。
「あ、あのね? そういうことは好きな人にしか言わない方がいいんだよ?」
小首をかしげてリューナさんを見上げる。
何故か頬を紅潮させ、目を潤ませている。
やめてくれ、オレには刺激が強い。
前世でも年齢=彼女いない歴なんだから。
賢者も裸足で逃げ出すのだから。
こんなに美人で色っぽいお姉さんにそんな顔で見つめられたら恥ずかしくておしゃべりできないんだ。
リューナさんはさらに息を荒くしてギラギラとした目つきになる。
「大丈夫ですわ! もちろんこういうことはヴォン様にしか言わないですから!」
ふえええ。怖いよおお。
オレの中のばぶちゃんが泣き出した。
じりじりとにじり寄ってくるリューナさんに後ずさるオレ。
そういえば体の疲れが取れているし、何なら体自体もきれいになっていた。
気絶する前についていた砂埃などどこにも見当たらない。
オレが自分の体を見ているのに気が付いたリューナさんはにじり寄るのをやめ手鏡を差し出してきた。
鏡にオレのきれいになった姿が映った。
「ヴォン様がお眠りになっている間にお体をきれいにしておきました」
「な、何してくれてるの!??」
ニコリと微笑むリューナさんに思わず叫ぶ。
ほとんど悲鳴だった。
つまりあれか? 意識のないオレの体を好き勝手に拭いたってことか?
何それなんてうらやましい!
ぜひオレが起きているときにやってほしかった。
もうこの際だからいうが、おねショタしたいです!!
そんな勇気もないですけど!!
オレは心の中で号泣したのだった。
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