第15話 痛々しいだけの笑顔
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ぬるくなったスープをズズっと啜る。
体の中にじんわりと広がる温かさ。
雨に濡れた体にはちょうど良い温度だった。
オレは傍らにいるアレクに目をやる。
弱弱しく両手でスープカップを包み、縁をなぞっている。
その顔には覇気がなく、魂が抜けてしまっているようだった。
アレクは虚ろな目のまま何があったのかを話し始める。
「ヴォンと別れた後、僕は一日掛けて村に戻ったんだ」
何度もつっかえながらぽつりぽつりと言葉をつむぐアレクに、オレは何と声を掛けていいか分からずただじっと耳を傾けていた。
「でも、僕を待っていたのは……焦った様子の村の人たちだった。僕を見るなり血相を変えて駆け寄ってきたよ」
そして聞かされたのが両親の訃報。
走って家に戻ると、両親は既に息をしていなかったそうだ。
「せっかくヴォンに手伝ってもらえたのに、僕は間に合わなかった」
今日の夜、アレクの両親は村の共同墓地に埋葬される予定だ、とアレクは言った。
彼はそれを受け止めきれずに村を飛び出してきたのだそうだ。
村にいた時間は一日と経っていない。
着いてすぐに引き返してしまったのだから。
「ごめんね。お金、無駄になっちゃった」
アレクはそう言うと無理に笑みを零す。
正直に言って、痛々しいだけの笑顔だった。
胸が痛んだ。
十三、十四歳の子供が両親を亡くす。
とても受け入れられることではないだろう。
「アレク、無理しなくていい。笑わなくていいんだ」
「…………」
そう告げることしかオレにできることはない。
アレクはあいまいに微笑んだままスープに目を落とす。
「……せめてお別れぐらい言いたかったなぁ」
アレクがぽつりとつぶやく。
そうか。間に合わなかったのならば、最期の言葉を交わすこともできていないのか。
オレは昔のオレとアレクが重なって見えた。
両親を亡くしたことを受け入れきれず、どこか魂の抜けた状態には覚えがあった。
「アレク……」
オレには前世の記憶と召鬼道士の力があったから立ち直れたが、アレクはそうではない。
永遠にお別れなのだ。
そこまで考えてふとある考えが浮かんだ。
そうだ。オレには死者を蘇らせる力がある。
それを使えば、アレクにも両親としゃべる時間くらい用意することができるかもしれない。
だが問題はアレクの両親に意識が残っているのかどうか。
そして、村の人たちの目を避けることができるかどうかだ。
オレはちらりとアレクを見る。
彼はやはりうつむいたままで悲しみに耐えてるように震えている。
チクリと胸が痛む。
知り合ってまだ一週間と少ししか経っていないとはいえ、ともに死線を潜り抜けてきた仲間だ。
そんな仲間の憔悴しきった姿は出来れば見たくない。
――人目に付かないように少しの時間……お別れのあいさつをする程度の時間なら
何よりオレはアレクに何かしてあげたいと思っていた。
オレは覚悟を決めた。
すくっと椅子から立ち上がる。
「アレク、オレを村に案内してくれないか」
「え?」
アレクは突然のオレの提案に目を瞬かせる。
当然だ。
アレクの中では何もつながっていないのだろうから。
「お別れを言う時間くらいなら、作ってやれる」
その一言でアレクの眼に生気が戻った。
どうやらオレの言いたいことが伝わったようだ。
彼は何度も首を振って立ち上がって見せた。
「付いてきて!」
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