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第14話 一体何を言えばいい?

数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!


 


 アレクと別れて二日が経った。


 あれから降り出した雨は今もなお降り続いている。

 聞けば季節の変わり目にはよく雨が降るらしい。


 前世の砂漠では雨などほとんど降らないはずなので、こういうところでも異世界なのだなと感じてしまう。


 恵みの雨と言われるが、オレにとってはあまり歓迎できない気候だ。


 ずっと雨が降れば野宿も上手くいかないことが多いし、何より濡れたままになれば風邪をひいてしまうリスクが大きくなる。



 風呂が普及していないこの世界では濡れれば体の芯から温まることなどできないからだ。



 うん。やっぱり早く静かな場所に移住して風呂とトイレを完備しなくては。


 平民用に大衆浴場でも開けば一儲け……ごほん。衛生面でももっと良くなるに違いない。

 いや。別に一儲けしようとか考えていませんけど?



「さて、ギルドにでも行こうかな」


 オレは朝食の目玉焼きとパンを食べ終わると身支度をして宿を出た。



 アレクと別れてからは地道に依頼をこなして金を溜めていたが、目標金額にはまだまだ足りない。


 一戸建ての家と風呂とトイレをそろえなくてはいけないからだ。

 少なくても三千万セレナは必要だろう。


 家は自分で建ててもいいし良い物件があれば中古でもいいのだが、やはり元手は必要である。

 旅をしながら良さそうな場所を探すのも忘れないようにしなければ。


 他にもやることはたくさんある。

 だからあと数日したらこの街――オリヴィエともおさらばしようと思う。



 あまり長居して勇者なんかとエンカウントしたら嫌だし。


 そんなことを考えつつギルドのドアを開く。


「いらっしゃいませ!」


 いつもと変わらぬ温かい声が出迎える。


 ギルドの中には人がまばらにいた。

 いつもより冒険者の数が少ないのは、やはり雨が降っていては仕事にならないからなのだろう。


 オレは冒険者受付へと向かい、新しく出ている依頼がないかを確認する。


「あ、ヴォンさん」


 いつもオレの担当をしてくれるおっちゃんギルド員がオレの顔を見るなり話しかけてきた。


「こんにちは」

「こんにちは。あれ? アレクさんとはご一緒じゃないんですね」

「え? アレク?」


 おっちゃんからは予想だにしていなかった名前が飛び出してきた。


 アレクがこの街を去ったというのはおっちゃんも知っているはずだが、彼の名を口にするということはアレクが戻ってきているということだろうか?


「アレクが戻ってきているんですか?」

「ええ、さっき表通りをずぶ濡れになりながら歩いているのを見かけまして。……ああでも、声を掛けても無反応だったからもしかしたら人違いかもしれないですね」


「……ふうん」


 あの元気いっぱいなアレクが無反応。

 想像してみるが違和感しかない。


 おっちゃんのいう通り人違いの可能性の方が高い気がする。


 だが万が一アレクだったなら、そんな反応をする状態になっているということは、もしかしたら……。


 嫌な予感がした。


「まあそれは置いておいて、ヴォンさん今日はどの依頼を受けますか?」

「……。おっちゃんごめん! オレちょっと帰るわ!」


 オレはおっちゃんの返事を待たずに来た道を引き返す。

 前世でもそうだったが、オレの予感は結構当たるのだ。


 それが嫌な予感であればあるほど。



 オレは雨に打たれながら急いで宿へと走る。

 十分くらい走ると宿に着いた。



 宿の外には一人の子供の姿がある。

 雨に打たれているのに気にしたそぶりもなく、ただぼんやりとうつむき立ち尽くしているような子供の姿。



 ――アレクだ。


 間違いなく彼だ。



「アレクっ!!」


 オレは腰のポーチからハンカチを取り出し彼に駆け寄る。

 彼はオレの声に反応し、ゆっくりと顔を上げこちらを向く。


 オレは目をむいた。


 アレクの顔からは生気という生気が抜け落ちていたのだ。


 うつろな目は腫れ、ふらふらとおぼつかない足取りでオレに向き合う。


「アレク、だよな」

「……」


 あれだけ元気いっぱいなところしか見せなかったアレクの変わりようにオレは激しく動揺した。


 雨が激しくなり、地面を打ち付ける音だけがオレ達の間を流れる。


「――」


 アレクの口が僅かに動き、オレはハッと我に返る。

 あまりにもアレクの状態が変わりすぎていて呆然としてしまったのだ。


 このままここに居ては悪戯いたずらに体温を奪われてしまう。

 何があったのかは分からないが、とにかくアレクを部屋に連れて行こう。


 オレはアレクの頭にハンカチを乗せて彼の手を引く。


 冷たい。


 掌から伝わってくる温度は、死体と言われても納得してしまう程低かった。

 一体どれだけの時間を外で過ごしたらこうなるのか。




 宿に入ると女将さんも驚いた顔で毛布を持ってきてくれた。

 わしゃわしゃとアレクの体をふいてくれる。



 ついでに温かいスープでも持ってきてほしいという旨を伝え、オレたちは部屋へと向かう。


 オレたちが部屋に入ってすぐ、女将さんは朝食の残りの野菜くずのスープを二つ持ってきてくれた。

 テーブルに置くと静かに出ていく。


 オレは女将さんに感謝しつつアレクを椅子に座らせ、その頭を丁寧にぬぐってやる。



「……」


 アレクはじっとしたまま何もしゃべらない。

 本当に彼の身に何があったというのか。



 ……いや。本当は分かっている。

 あのアレクがこうなってしまった理由。


 それは彼の両親に関することなのだろう。


 恐らくは、治療が間に合わなかったか。


 オレは彼に掛けるべき言葉を探す。


 だが、一体何を言えばいい?



 自分の両親が亡くなった時を思い出す。

 胸が張り裂けそうだ。


 彼には同じ思いをしてほしくはなかった。


 オレはそっとアレクを抱きしめる。

 ぎゅうっと自分の体温を分け与える様に包みこんだ。



 座っているアレクはオレの胸にすっぽりと収まった。

 アレクはこんなに小さかっただろうか。



 まだ成人してもいない子供が両親を一度に失ったのだ。

 その傷は計り知れない。


 その時アレクが小さくつぶやいた。


「……ヴォン。駄目……だった。手伝ってもらったのに、ごめん」


 アレクはうつむいたまま肩を震わせていた。

 オレは抱きしめる力を強める。


「いいよ、そんなこと。よく来てくれたね」


 そっと彼の湿った髪をなでる。


「……っ!!」



 アレクは小刻みに震えるだけだ。

 涙を流してはいない。

 耐えているのだ。



 やはりアレクは強いな。

 オレは両親が死んだときただ泣くしかできなかったというのに。



 オレ達はそのまましばらくの間抱き合っていた。




ここまでお読みいただきありがとうございました!


「面白そう・面白かった」

「今後が気になる」

「キャラが好き」


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