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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第七話 魔の民アベル

私の突然の言葉に驚くアベルに対して、事情を説明するため、密談に適した場所へと案内してもらった。



「ここなら誰も、他人のことなんか気にしちゃいないよ、目の前の酒と、自分たちの話しか興味ない奴らばかりだからね」



アベルが案内してくれたのは、街の中心街から一歩奥に入った、宿場町の脇にある酒場だった。

確かに中は、客たちの話し声が溢れ、わざわざ小声で話さなくても、周りに私たちの会話が聞こえる状態ではない。



「アベルさん、驚かして申し訳ありません。

こうお伝えした方が、私たちのことも伝わりやすいと思ったので……

実は私達は全員、ここからずっと西に残る、魔境の畔に住む人外の民の魔法士です」



「まさか……、他の場所でも魔の民が生き残っていた、そういう事ですか?

ローランド王国では、魔法士はもとより、純粋な魔の民はとっくの昔に、全て滅びたと聞いています。

今は僅かに、魔法の使えなくなった人外の民と呼ばれる人々が、辺境域で生活していると」



「私もそう聞いてます」



私はまるで他人毎のようにアベルに返答した。

それが可笑しかったのか、アルスは飲んでいたエールを吹き出しそうになっていた。



「なら、あなた方は一体?」



「私の魔法のようなもの?

その影響だと思うのですが、それにより、魔法を失った人外の民でも、触媒を使えば、魔法を行使できる力を取り戻すことができるようです。


その結果、我らの里は徐々に、かつての魔の民の里のように、生き抜く力を取り戻しつつあります。

その一環として、里を豊かにするため、今回交易に来たのですが、何分我々は要領も分からず……」



「良いのですか? 見知らぬ私にそんな話をしてしまって」



「信じていただけるには、それが一番と思いました」



私はアベルを真っすぐ見つめた。

アベルも真っすぐ私を見つめ、何かを決心したようにため息を付き、話し始めた。



「では、今度は私がカイルさんに、今できる範囲のことを、お話しさせていただきます」



そうして、アベルからは驚くべき話を聞いた。

ゴートの街から少し先、山脈に挟まれた間の国境を抜けると、そこには広大な魔境が広がっている。

そこは未開の危険地帯とされ、今や立ち入る者などいない。



だが、アベルの話は違った。


その魔境には、今も魔の民と呼ばれる者たちが、氏族という集団に分かれ住んでいること。

彼らは今も固有の魔法を行使し、かつてと変わらない生活をしていること。


アベルが属する時空魔法士の氏族は、時折人界の民が住まう街に人を遣り、密かに魔物素材を販売し対価を得るとともに、人界の動向を探っている。

ざっとこんな事が語られた。



かつては同族だった、アルス含め、人外の民も知らない事実が、その場で話された。



そしてアベルは、時空魔法士の氏族より選抜され、アルスと同じ空間収納を使い、時折人界の民が住まう地に出てきては、交易を行う役割を担っているそうだ。



「今のお話を聞いていると、私たちはアベルさんの商売仇になりませんか?」



「はははっ、大丈夫だと思いますよ。我々の魔境は広大で魔物の種類も豊富です。

また同じ魔境でも場所が違えば、そこに生息する魔物の種類も違うかも知れません。

ヒクイドリは我らでも、大変珍しい魔物ですからね」



「そうですか、良かった!

実は10体分の素材を持って来ていまして。他に幾つか持ってきているのは……」



「10体分ですかっ!

それをあの店で言わなくて、本当に良かったですね。

あいつら、それを知ったら恐らく、大変なことになってましたよ。

きっと……、あらぬ疑いで兵士に通報されて、持っていた羽根は全て盗品として没収され、皆さんは捕縛されていたでしょうね。恐らく、没収品は奴らと兵士が山分けする段取りで……」



「!!!」



私たちは全員が驚きのあまり、言葉に詰まってしまった。


私たちはあまりに素人、いや非常識過ぎたことが今、改めて理解することができた。

捕縛され、人外の民と分かれば、でっちあげの容疑すら、確定したものとして断じられるだろう。


そうなれば、もう二度と里に戻ることはできなくなってしまうだろう。

私たちは、アベルと出会えたことに改めて感謝した。



「アベルさん、今回我々が持ってきた素材について、売るべきか……、売る場合の売り先など、情報を教えていただけませんか?」



アベルはその素材を全て確認すると、私たちに的確な情報を与えてくれた。



彼曰く、


「素材に合わせて売り先を変えるのも大切なんです。


この素材は、あの武器屋に、これは隣の防具屋にといった形でね。

何に使われる素材かを知れば、自ずと売り先も決まってきますね。肌触りの良い素材は、服飾品の素材として服屋にとか、丈夫な素材は防具屋にとかね。


あと、価値が高い素材は一気に出さず、販売は少しづつ売り、価値の低い物は、価値の高い素材と抱き合わせで売るのも大事ですね。

それでも店に売れない、黒狼の毛皮や牙とかでも、露店を開いて自身で売れば、それなりに売れる」



彼はひとつひとつ丁寧に、売り先候補を教えてくれた。更に店舗の良し悪しについても。



「あと、あそこの道具屋と、あそこの武器屋は買い叩くから、売るのは止めた方がいいですね。

素材の販売はまとまった数が前提だけど、手がないわけじゃないんです。


少数を売りたいとき

逆に大量に捌きたいとき

あちこち回る時間がないとき


こんな時は、少し利益は減るけど、信頼できる仲買人に預けるのが一番だと思いますよ。

取引が増えれば融通もきくし、今回紹介するので、一部の仲買人とは繋ぎを付けておくといいです。

ポイントは、彼らに託すとき、彼らにもうまみのある素材を混ぜてあげることかなぁ。

今回でいえば、赤黒斑のヒクイドリの羽とかね」



彼の説明は、私たちにとって、非常にありがたい情報が満載だった。



一部の店舗では、アベルが仲介して間に入ってくれたこともあり、持ってきた全ての商品が売れた。

商品の総販売額は、驚くべきことに金貨80枚相当にも上った。銀貨で言えば、8,000枚だ!


我々は感謝の印として、一割をアベルに渡そうとしたが、彼は固辞して受け取らなかった。



「所でアベルさん、こちらで魔石、属性を持つ魔物の魔石が買える場所はありますか?

私達は今、それを探していて……」



「うーん……

僕の手持ちならお譲りできますが、店から買うとなると……、結構高くつくかも知れませんよ?」



これはこちらにも都合が良い。

アベルから直接購入できれば、まさに願ったり叶ったりである。



「アベルさんも手持ちの魔石を是非お願いします。卸値ではなく、卸先の売値でお譲りください。

それぐらいのお返しはさせて欲しいです。

あと、属性を持った魔石は全て我々が買い取りますので、今後も売っていただけると助かります」



こうして、アベルのお陰で交易も無事終了した。



今回得た物は、


・属性を持つ魔石×4

・農作業に使用する道具類×50式

・各種植物の種子×大量

・馬×8頭

・荷馬車×4両

・弓矢×20式

・刀剣類×20本

・防具×20式

・食料類

・雛、家畜類の子供

・その他生活用品



今回アベルは手持ちの魔石を、彼の望む条件をのむことにより、ほぼタダ同然で譲ってくれた。



「私も是非、君たちの集落に同行させてくれないか?

魔境に戻って氏族の仲間に伝えたいんだ。人外の民の中に、希望が生まれたと。

魔の民の証である、魔法を蘇らせた者達がいることを。そして彼らに対し、支援を! と」



こうして我々は、アベルを伴って帰路についた。


彼自身、馬車も持たず騎馬に乗っているだけだったが、どうやら馬車はゴートの街外れに置いているらしい。直前までは身軽な状態で、そして、街に入る手前で預けてある馬車に乗り換える。

見せ掛けの商品を積み込んで。


上手いやりかただと思った。

私達も今後取り入れていきたい作戦と思った。



馬も増えたので、帰路は途中で荷物と馬車も収納してもらい、雛や子豚などを載せた荷駄と、それを護衛する形で、他の全員は馬に乗って移動した。

こちらの世界では、旅は決して安全なものではなく、野盗などの出現や、魔物と出くわす可能性のある。

命の危険を伴うものだから、大量の荷物を抱え目立つよりは、身軽で戦闘態勢が取りやすいほうが良い。



そうして3日後、我々は往路より早く、集落へと帰り着いた。

送り出した者たちが期待していたものを遥かに超える成果を持って。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『仕組まれた災厄』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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