第六話 奇跡の出会い
私たちは親切な露店の男の助言に従い、街の中央に走る道路に面した、一軒の大きな商店を訪れた。
「それにしても、こんな高級店、俺たちの相手してくれるんですかね?」
アルスは棚に並んだ、いかにも高級そうな商品を見ながらため息をついた。
確かに私たちは余りにも場違いだ。
「お客さん、何かご用かい?
うちはローランド王国のなかでも、品質と品揃えじゃあ一番と言われている店だからね。
まぁ、それなりにご予算も覚悟していただくことになるが」
余りにも胡散臭げな6人の客に、店員の態度も横柄だった。ジロジロと私たちの身なりを見て、ずっと腕を組んでいる。
「あ、申し訳ないです。実は今日は買い物ではなく、素材の買取をしてくれる店を探してて……」
「ちっ、買取かよ。
なら店内じゃなく、店の裏から来な。大した物じゃなきゃ、買取なんてどだい無理な話だぜ」
それまでも滲み出ていた横柄さが、客でないと分かると明らかに露骨になった。
「まぁいいや、今日は暇だしな。お前さんたち、何を持って来ているんだ?」
暇つぶしにとでも思ったのであろう。店員は商品を見せろと言ってきた。
そこで、私はヒクイドリの羽根を20枚ほど出した。
「こっ! こりゃ……、上物のヒクイドリの羽根じゃねぇか!
兄さんたち、これを何本持ってきてるんだい?」
「じゅっと……」
「10倍です! この10倍ぐらいで、200枚です!」
素直に10頭分、そう答えようとしたアルスを制して、私は慌てて過小に答えた。
店員に見せた大きさの、長くて立派な羽根なら、魔物一体につき400本から600本は取れる。なので実際には同程度の羽根なら4,000本以上持っている。
だが、交渉で全ての手の内を見せることを、私は避けたかったし、そもそもこの店員の態度が気に入らなかった。
「200枚か! ちょっと待ってな。今、店長を呼んでくるから」
そう言って、店員は慌てて奥に消えた。
暫らくして、高価そうな服を着た、恰幅の良い男が店の奥から出て来た。
店員から何か耳打ちされると、明らかに作り笑顔で話しかけてきた。
「話は聞きましたよ。ヒクイドリの羽根とは珍しい。是非拝見させていただきましょう」
そう言うと、取り敢えず出した200枚の羽根をじっくり眺め出した。特に、赤黒い斑の羽根は念入りに。
「鮮やかな黒で羽先の揃った、艶の良いものほど高値で売れますからねぇ……
うーむ、中には粗悪品の赤黒い斑の羽根も交じっているなぁ……
まぁ……、良いでしょう。質の良いものは羽根一枚でも銀貨数枚の価値があると言われていますが、粗悪品も全て含めて、200本全てを引き受けましょう。
本来は銀貨160枚ってところだが、今後のお付き合いもお願いするとして……
全部で銀貨200枚。これでいかがですかな?」
私たち全員が、思わぬ高額査定に大いに喜んだ。
この街での宿代が1日1人銀貨3枚、それに比べて、予想以上の高額買取だった。
因みに集落に来る交易商人なら、同じ商品を買取ってもらっても、精々銀貨20枚から30枚にしかならなかったと思う。
「喜んでおねが……」
「待ちな!」
私達の返事と、近くにいた若者の声が被った。
私と同じぐらいの年だろうか?
私と同じ黒髪で、この世界、人界の民では当たり前の、茶色い目をしていた。
「!!!」
それよりも私は、彼を見て固まってしまった。
驚きのあまり、言葉が出ない。
「ローランド王国でも名前の知れた高級店が、素人相手に阿漕なことするんじゃねぇよ。
確かに黒い羽根の評価は、その数のばら売りじゃあ、まぁそんなモンだろうよ。
でも、お前らが粗悪品と呼び価値なしとした、赤黒の斑の羽根は、違うよな?」
「な、何を……」
彼の指摘に対し、短く答えた店主の顔は、明らかに動揺し目が泳いでいる。
片や店員の方は、バツの悪そうな顔をして目を背けていた。
「兄さん方、この街は初めてかい?
こいつら、どうせ相場を知らない素人相手だからと、一杯食わせようとしてるみたいだぜ。
こいつらが粗悪品と言った赤黒斑の羽根は、ヒクイドリでは最高級品だよ。
かなり力の強い個体の証だから、この街でも滅多にお目に掛かれるような代物じゃねぇ。
だよな?」
「……」
店長と店員は何も答えない。
私は、この男性を信じることにした。
「お騒がせして失礼しました。
今回のお話しは無かったことにさせてください」
店長と店員にはそう告げ、今度が助けの手を差し伸べてくれた若者に向き直った。
「ご忠言ありがとうございました。
思わぬ大損をせずに済みましたし、良かったら、私達から食事か酒でも奢らせてくださいな」
「おいおい! ちょっと待ちな!
その男が都合の良いことを言ってる可能性もあるぜ。
王都でも有数の店舗を任されている私達より、どこの者とも分からぬその男を信じるのか?」
店長は開き直ったように捨て台詞を吐く。
「店長のいう通り、そんな数の素材持ち込みなど、相手にしてくれる店など……」
「あるよな?
素人の兄さん方は知らないで当然だが、珍しい魔物素材、質の高い素材であれば、優秀な仲買人なら喜んで買い取りしてくれるよな?
そもそもこんな高級品、ここ以外に持って行っても飛びつく店は多いだろうな」
店員の言葉に、彼は笑って言葉を重ねた。
笑う彼に対し、店長も店員も怒りに顔を赤くして震えていた。
「私は彼を信じますよ。彼を信じるに足る理由もあるので」
私達を助けてくれたことだけでも十分だったが、私は彼を一目見て、信じるに足る人物だと分かっていた。
私達は連れ立って店を出ると、私は改めて彼に礼を言った。
「改めて初めまして、私の名前はカイルと申します。
今回は、助けていただきありがとうございます。
お察しの通り私たちは辺境から出て来た田舎者で、商品があっても売り方を知りません。
お礼はさせていただきますので、是非お力添えください」
そう言って改めて彼に話しかけた。
「いや、実は俺もたまたまこの街に入る時、あんたらが衛兵に、ヒクイドリの羽を渡しているのを見ちまってな。
俺はすぐ後ろに並んでいたんだが、勿体無いことをすると不思議に思っていたんだ。
さっきもたまたま、あんたらがこの店入るのを見掛けて、まぁ、気になって後を追ってみたんだ。
それで、遣り取り聞いていてつい、な」
彼は少し照れた様子で答えた。
私は彼ともう少し胸襟を開いて話がしてみたくなった。
そのため、ちょっとした賭けに出ることにした。
「はい、私もまさか同胞、いや同じ魔の民の血を引くお方に遭えるとは思ってもいませんでした。
私の連れの中にも、同じ時空魔法士の者がおります。
アベルさん、私たちは是非あなたに、色々と教えを請いたいと思っているのですが……」
「なっ!」
彼は一瞬で大きく動揺した。
それは当然だろう。
魔の民と見破られただけでなく、時空魔法士であること、更に名前まで見知らぬ他人に言い当てられたのだから。
「今、同胞って言ったか?
それよりも何故わかった? 何故知っている?」
彼はやっと言葉を吐いた。
実は私は最初から知っていた。
彼が店長との会話に割って入った時、私にはそれが見えていたからだ。
アベル【鑑定結果 特性:時空魔法士 状態:魔法士】