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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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六十六話 カイル歴六年 氏族会議

アルスが氷と音の氏族長たちを伴って、カイラールを訪れてから、2年が経過していた。

既に両氏族は、僅かな偵察部隊を残し、その殆どを南の新たな里に移住させていた。



そして、秋の収穫を終えたある日、以前の問題を蒸し返す報告がなされた。


カイラールでは通常、各氏族が大使を置き、氏族長はそれぞれの里にて生活している。

だが、年に2度、収穫の後と春の初めに『氏族会議』と呼ばれる会議で、カイラールに集まっている。



「では、先ずは音の氏族、ソラヌート侯爵からの発議のあった件で、皆と協議したいが、再度状況を共有ねがえるかな?」



この時点で既に、氏族長と言う呼び名よりも、氏族長=侯爵という呼び名が定着しつつあった。

なので私も、そのように彼らを呼んでいる。



「ありがとうございます。

皆さまもご存知の通り、かつて我らの郷は最も北にあり、魔境の境を流れる大河を境として、人界の民とも多少の交わりを持ってまいりました。

そこで新たな脅威が発生しました」



「だがその郷も最早引き払い、今はずっと南の安全な地に、里を移らせたのではないか?」



「トールハスト侯爵の仰る通りです。ですが、完全に引いた訳ではありません。

我らは南の時空魔法の氏族と同様、主に交易によって生活の糧を得ておりました。

そのため、元あった郷には交易を行う連絡部隊を残していたのですが、北の隣国は次々と魔境を焼き払い、着々と我らの郷があった地域まで進出してきております」



「ちっ。河を越えるだけでは飽き足らず、南へと触手を伸ばしてきたのか」



「ファルケ、考えようによっては、至極当然のことだろう。

元々魔境の大地があった場所は、畑に変えても豊穣の実りが約束された、とても豊かな大地だ。

かくいう俺たち自身がその恩恵を受けているのだからな」



「当然と言うがアルス、魔物の脅威はどうするのだ?」



「音の郷があった領域までなら、たいした魔物は出てこないから、奴らでも進んで来れるだろう。

それなりの数の兵さえ伴っていればな」



「お二方の仰る通りです。このままでは、奴らは南へ南へと勢力を広げてくるでしょう。

そうなれば看過できない事態となります。

今や我らも、交易を捨てて全員を南へと引かせる準備を進めております」



私は敢えて沈黙して彼らの話を聞いていたが、ここで自身の考えを諮ることにした。



「セイレン侯爵、奴らが元あった郷にまで勢力を伸ばしてくるのは、いつ頃と予想されていますか?」



「はい、斥候部隊だけなら半年を待たずしてやってくるでしょう。

少なくとも5年以内に、奴らは軍を進出させて来ると思われます」



「男爵、ファルケ! 一年以内に二千の軍勢を派遣できるよう、準備を整えてほしい。

すぐに戦い何始まる訳ではないが、このまま手をこまねいている訳にもいかんだろう。

各氏族長の皆さまにもどうかご協力を願いたい。

何卒……」



「「応っ!」」



この件は予め予期できたことで、我々にとっては準備を進めてきた話である。


なので誰もが、大きく動揺している訳でもなかった。

私たちは、今後ある程度予想できる対応を議論したあと、氏族会議を散会した。



氏族会議が終わった後、その議場にはカイルを始め、アルス、ゴウラス男爵、ファルケ、ファル、ヘスティア、アースなど、以前から苦楽を共にしていた者たちが残っていた。



「それで……、王よ、我々だけ残ってする話とは一体何かな?」



「ファルケ、男爵、軍を預かる二人には正直な話として聞きたい。今の我らで、果たして勝てるか?」



「そうですな……、奇襲を受けることなく遭遇戦なら三千から五千、此方が有利な防衛陣地に籠っていたなら一万程度、それぐらいなら勝てるでしょう」



「男爵、その根拠は?」



「そうですね……。

第一に、彼らは魔の民と戦った経験がないでしょう。であれば攻撃魔法になす術もなく蹂躙されます。

第二に、射程が違います。奴らの弓が届く前に、我らの魔法攻撃の洗礼を浴びます。

犠牲を覚悟で数の力押しさえなければ、奴らは為す術もなく敗走することでしょうね」



「ふむ……、初見殺しか……」



「そうです。肝心なのは初見で二度と侵攻を考えない程度に損害を与えることです。

惨い話ではありますが……」



「男爵、ありがとう。

ファルケはどうだ?」



「そうですな……、私なら奴らをもっと南、魔境の奥地まで引き込みます。そうなれば我らは大地の援軍を得ることができます」



「ふっ魔物か……、だがなファルケ、そうなるとそれなりに奴らに領土を侵食され、北の大地は奴らのものとなってしまうぞ?」



アルスの指摘に対し、ファルケは凄みのある笑顔で笑った。



「一度は預けても構わないでしょう。どうせすぐに返してもらうことになるのだから。

奴らは魔境の本当の恐ろしさを知らん。そして北の辺境に棲息する魔物は、言ってみれば雑魚ばかり」



「確かにな。それで奴らを南に吊り上げるということか?」



「そうだ、慢心した奴らが南に進めば進むほど、先には地獄が待っている。

そして奴らは魔境の禁忌も知らん。これの意味することは……、アルス、お前にも分かるだろう?」



「ああ……、奴らは逃げる傍ら凶悪な魔物を引き連れ、苦労して開拓した村々へも魔物共を引き込むという訳か?」



これは、魔境の禁忌、魔物に追われた者は、決して人里に向かってはならない。

それを犯すことになる。

彼らは血と屍で、魔物を人里に誘うことになる。



「そうだ、そこで奴らは初めて魔境の真の恐ろしさを知り、その領域を犯したことを後悔するだろう。

もう二度と、南に向かいたくないと思うほどにな。

俺たちにとっては、北側に魔物という防壁ができあがる」



ひとたび人の味を覚えた魔物は、人里までの道を知るとそこに現れ、好んで人を襲い始める。

そうなると更に魔物は集まり、手のつけられない状態になるのは目に見えていた。



「だが……、開拓地ともなると兵だけでなく、一般の農民たちも巻き込まれるぞ。中には女子供もいよう」



アルスの指摘はカイルにとっても同じ思いだった。


しかし現状は……、自分たちは圧倒的に数に劣り、敵側はおそらく此方を殲滅するまで攻撃の手を緩めることはないだろう。

人界の民が人外の民を忌避し非道な対応を取ってきたのは、今に始まったことではない。



「皆、聞いてくれ。そんな人道的な配慮をしている場合でないのも事実だ。

だがそれでも、俺たちは彼らと共に歩む道を捨てたくはない」



「だが王よ、北の国は話の分かる相手では……」



「アルスの言いたいことは勿論分かっている。私は北国とは歩まない。

私が共に歩むのは圧政を受けて苦しむ民たち、ていよく開拓地に押しやられた者たちだ」



「理想はいいが王よ、どうやって彼らを救う?」



「先ずは二段構えだ。

早急に予想進路に防衛拠点を築いて兵を配し、奴らを完膚なきまでに叩く! それで数年は稼げるだろう?」



「どこで叩くかが問題だけどな。

そして次は、奴らはきっと相当な大軍で来るぜ」



「ファルケの言う通りだと思う。なので二回目は先に言っていたとおり戦わずに奥地まで引く。南に引きつけている間に、後ろの開拓地には警告を発して避難してもらう」



「だがそれには、手引きする者が必要だろうな。下手をすると敗走中の兵まで呼び込んじまうぜ。

この場合、敗走する兵たちが人でなしで、真っ先に逃げ出す卑怯者だと良いのだが……」



「あたりを付けてもらうのは音の氏族に匿われている人界の民に頼もうと思っている。

そして大事なことだが、敗走兵たちより先に川を越えて逃げてもらいたい」



「それは……、難題ですな。敗残兵が流れ込んで来なければ、開拓民は負けたとは思わないのでは?

そんな中、開拓地を捨てて逃げるとは思えませんが」



分かっている。男爵の指摘は正しい。

そして無理難題であるということも。



「それを考えるため、皆の知恵を借りたいと思ってね。

まだ少しは時間があるだろう? 私たちは同じ人として、ギリギリまで救う方法を考え続けたい」



「ふっ、王になっても旦那は相変わらず旦那のままだな。

だからこそ、俺たち人外の民や男爵たち人界の民、そして魔の民も皆、旦那に付いてきた。

なら、一丁やるしかないな」



「ファルケにそれを言われるのはちょっと悔しいけど、その通りね。

私たちはギリギリまで努力しましょう」



「確かにあの大河を超えた先に逃げれば、魔物たちは基本的に川を越えない。水棲のもの以外は、な。

そこまで誘導できれば……」



ここに来て、ファルケ、ヘスティア、アースも同意し、他の者たちも大きく頷いていた。

彼らの努力は、この先の戦いを通じ思いもよらぬ結果を生むことになっていく。

かなり間を空けての投稿、大変失礼いたしました。

こちらは本編のエンディングに合わせ、不定期にはなりますが必ず更新いたしますので、少し気長にお待ちいただけると幸いです。


そうぞよろしくお願いいたします。

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