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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第六十五話 カイル歴3年 北の脅威

開拓部隊の出発から半年、カイル歴3年の秋になると、カイラールから北西、北東、北北東、北北西に延びる長城のうち、最も距離が長くアルスとヘスティアが担当している北北東、北北西のものが完成し、既に里となる場所の造成工事が始まっているとの知らせが届いた。


これには理由がある。

まず真北に伸びる方向には、大きく迂回すべき山脈もなく、山間を縫ってもほぼ一直線に進めたことと、もう一つ、途中までは一本の長城で足りたため、共同で効率よく構築することができたからだ。



「それにしても早いな。両方とも、軽く70キル以上はあるだろうに」



私は思わず感嘆の呟きを漏らしたほどだった。



「まぁ、色々な事情はあるにせよ、アルス殿はこれまでにも幾つもの中継所を切り拓いた経験もあり、我らの中では最も開拓に秀でた存在です。それも大きいでしょうな」



ゴウラス男爵の指摘はもっともなことだ。

指揮官経験の豊富なアルス、火魔法士を率いて危険な魔境をを進、露払いの経験豊富なヘスティア、この組み合わせは、この事業では最強だろう。



「それでアルス殿の使者は何と?」



「北東に建設中の里で、氷と音の氏族に接触したそうだ。

後日、我らが切り開いた長城を通り、正式に両氏族からの使者が到着するとある」



「ほう、アルス殿は各地に住まう魔の民との接触も、手慣れたものですな」



「まぁ……、これまでの経緯で、地、聖、火の氏族も、最初の接触者はアルスだったな。

因みに音と氷の氏族は、我らの知らぬ世界、魔境を抜けた北側にある人界の民とも接点があるようだ。

彼らとの間には、魔境という人界の民が踏破できない緩衝地帯が広がっているものの、潜在的に脅威を感じているらしい。そこで、ローランド王国の軍勢を退けた、我らに興味を持っているとのことだ」



「確かに……、氷魔法は幾つかの攻撃手段はあるものの、どちらかというと守りに分のある魔法、まして音魔法は攻撃にはいささか……」



「どちらかと言うと、私はアルスが余計な事を言っていないか、それが心配なのだがな」



「ははは、カイル王自らが、各氏族には同等の機会を、そう仰った以上触れねばならないでしょう」



「……」



どうやらこの件については、私に味方はいないようだった。

11人もの妻を持つなんて、私にとっては悪夢でしかないのだが……



こんな議論をしていた2か月後、冬の足音が聞こえだしたころ、アルスはカイラールに戻って来ていた。

氷の氏族長一行、音の氏族長一行に対する、案内人として。



「カイル王陛下に申し上げます。この度、氷の氏族長ユミル様、音の氏族長セイレン様を伴い帰参しました」



アルスは殊更畏まって大仰に挨拶した。

新たな氏族の手前、それは分かる。それは分かるが……

私自身は、そうやって仰々しく接されることに慣れていない。いや寧ろ苦手だ。



「ユミル殿、セイレン殿、初めてお目に掛かります。カイルと申します。

遠路の長旅、そして氏族長自らのご訪問、感謝します」



「いやいや、我らもアルス殿に色々と話を聞き、娘を連れて参った。

助力を仰ぎたい、そう思っていたこともあるのでな」



『アルスめ! 余計なことを……』

そう思ってアルスを睨みつけたが、彼は素知らぬ顔だった。



「ユミル殿の仰る通り、特に我らは、氏族としての危機を感じておるゆえ、今回の話は是非とも承諾いただきたい」



二人の話をよくよく聞いてみると、二つの氏族では我々の知らない危機が進行しているようだった。



先ずは一点目、彼らの立地上の問題だった。


彼らは元々、魔境を越えた先にある北の隣国と、細々とした交易を行っていたそうだ。

本来は緩衝地帯となる魔境の存在と、境界となる場所を西から東に流れる川の存在が、暗黙の了解として棲み分けを成立させていたらしい。



「ですが近年、不作に喘ぐ北の王国は、多くの兵と人足を伴い、川を越えてまいりました。

そして、魔境側に大規模な開拓地を拓きつつあります」



「セイレン殿、人界の民が魔境に?」



「はい、あの辺りは魔境と言っても、比較的開けた場所。まして、さほど手強い魔物はおりません。

それゆえに、固有の攻撃手段も持たない我らでも、里を持つに至っておりました。

ですが、それが今は悩みの種でして……」



最も北に里を持つ音の氏族は、その立地をいかし交易を行っていたが、彼らが魔境を侵食してくることに危機感を感じているということだった。



二点目はそれに付随する問題だった。


音の氏族を筆頭に、両氏族とも人界の民には寛容で、商人や北の王国の圧政を逃れてきた者たち、そういった人々を受け入れてきたものの、これによる問題に頭を抱えていた。



「セイレン殿を筆頭に、我らは彼らに寛容でした。遠く北に暮らす我らは、人界の民とも交わり、豊かさを得ていた側面も否めませんからな。ですが……、近年はそれが無視できないものになっております」



「アルス殿から聞き及んだのですが、カイル王は混血により氏族の力、魔法を失った者たちに、再び光をもたらされたと聞き及んでいます。それを我らにも是非!」



この件について、二人はもの凄い勢いで、迫ってきたため、私は思わず後ずさりしてしまった。



「因みに……、氏族固有の力を失った方は、どれぐらいいらっしゃるのですか?

あと、我々でも、人界の民との混血の場合、程度にもよりますが良くて半数、そんな程度ですよ」



「それでも!」

「是非っ!」



二人は鬼気迫る勢いだった。

よくよく聞いてみると……


<氷の氏族>

氏族の者 700名(うち音の氏族や人界の混血約100名:うち固有能力喪失60名)

人界の民 50名


<音の氏族>

氏族の者 300名(うち氷の氏族や人界の混血約200名:うち固有能力喪失160名)

人界の民 150名


特に音の氏族は、既にがその半数以上が固有能力を失っているぐらいの惨状だった。



「なるほど、お二方の苦衷はよく分かりました。お力になれるかどうかは、今は分かり兼ねますが、できることはご助力させていただきます。ただ……」



「ただ?」



「音と氷、それぞれの魔石について、我々も十分な予備がありません」



「そちらも伺っております。謝礼分を含めて、我らも用意がございます」



アルスめ。そこまできっちり話をつけている訳か? こういうところ、我々もグレイブ殿に影響されて?

ちゃっかりしてきたのかもしれない。

そう考えると少し複雑な気持ちだが……



「皆様のお悩みはそれだけですか?」



「いえ、近年、北の国は我らに対し、大きく方針を変えてきたようで、我らが匿った者たち、圧政を逃れて逃散した者たちの捕縛、返還を要求しております」



三点目の悩みが、正にそれだった。


彼らはこれまで寛容に外部の者たちを受け入れてきた。その結果、外部の者と結ばれた者たちも出てきた。これは至極当然の結果が。

だが、返還するとなると、妻や夫、家族と引き離される者たちも出てくる。



「北の王国には二万近い兵がおります。彼らは返還なき場合、それを以て攻め寄せることも厭わないと。

そう言って来ているのです」



「なっ! 二万ですと? それでは勝負になりませんよ」



ここで初めて、一緒に臨席しておいたグレイブ殿が狼狽した声を挙げた。



「はい、多勢に無勢、なのでこの際、セイレン殿とも語らい、南に引こうかと検討しておりました。

ですが我らは、南に棲息する強力な魔物たちには抗しようもありません。

調査部隊を南に出していた際に、アルス殿たちと出会うことができまして」



「因みに、アルス、最前線となる北の河までは、距離にしてどれぐらいだ? 概算でも構わない」



「そうですね……、彼らが徒歩で移動してきた時間で計算すると、我らが今建設している最北端の里からでも200キル近くあるかも知れません。北の河より音の氏族の里まで日中馬を駆けて2日、徒歩では4日(推定100キル)、次の氷の氏族の里まで馬で一日(推定50キル)、そこから先は森が深くなります。

彼らは森林を4日掛けて走破し、我らが建設している最北の里に辿り着きましたから」



「では、そこまで引けば、当面の脅威は避けれると?

時間稼ぎには過ぎないが、二万が相手では我々でも分が悪すぎるな……」



「そう思います。常識的に言って、総兵力二万といえど、初期に投入してくるのはせいぜい数千。

それが撃退され、万が一総力戦となっても、外征であれば全軍の半分程度しか振り向けて来れないでしょう」



ここで軍事に詳しいゴウラス男爵が発言した。



「今の我々でも、地の利さえいかせば、魔法士の活躍で五千程度は撃退できるでしょう。ですが一万の軍勢を相手にするには、定軍山のような要害でもない限り、厳しいでしょうな」



ファルケもそれを受けて答える。



「そうだな……、できればあと50年、いやせめて30年は猶予が欲しいな。それまでに我々が力を蓄え、要害を以て万が一の際は、迎撃できる準備を行う。

因みにお二方は、我らが里を提供する代わり、対価を以て移住されるご意思はありますか?」



「もちろんです。ユミル殿と同じく、今回、我が娘を連れて参りました。何卒!」



あの……、そっちじゃないんですが……

私はもう閉口するしかなかった。



「では我ら、光や重力、地の方々と同様に、里の対価として人手を供出いただける、そう受け止めてよろしいのですな?」



いや……、グレイブ殿、いつの間にか仕切ってますが……

まぁ、言っていることはズレていないので、よしとするか。



「勿論です!」



二人の声が重なった。



こうして、北に建設中の二つの里は、彼らの里として、改めて整備されることが決定した。

カイルの元には、12ある氏族のうち、11の氏族が結集した。11人の妻も……

同時にカイルたちは、潜在的なあらたな脅威、北の王国との対峙を余儀なくされることに繋がっていく。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、今のところ10日後、3月2日9時に投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

※前回の予告から、タイトルが変わりました。そのため、次回以降、余裕ができるまでタイトルのご案内は割愛させてください。

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