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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第六十話 カイル歴2年 王政の始まり

交易から戻り、大量の物資や貨幣を手にした私たちは、カイラールに腰を落ち着けて生活基盤を整えることと、懸案の課題の解決に取り掛かることにした。


まず考えていたのは、役割と役職の体系化、そして、小なりとはいえ国としての体制を整えることだ。

特に後者は、今後闇の氏族と対峙することも踏まえ、欠かせない内容と思われた。



「先ずは肩苦しいものでなくていい、国としての体制を整えたいと思うのだが、皆の意見も聞きたい。

先ずは男爵、あなたが一番体制というか、制度に精通していると思う。どうだろうか?」



「そうですね、今でも最低限の役割と組織化はできていますが、もう少し明確にして権限を分散しておいたほうが良いでしょう。でないと、今後も何でもカイル殿に相談……、そんな事になってしまいますから」



「ははは、そうですね。実は今でももう、いっぱいいっぱいなんですよ。予め方針を定め、詳細は各担当にお任せ、そうなってくれると嬉しいです」



「とはいえ、俺たちの多くは里の中で、いわば小さな世界のしきたりでしか動いていない者たちばかりだ。

肩苦しいのはちょっとなぁ」



「ファルケの言う事も一理あるな。向き不向きもある。男たちは狩りに、女は農作業に、そんな生活をしてきた者も多いからな。かく言う俺もそうだが……」



「まぁ里の者たちはアルスの言う通りでしょうけど、後から合流してきた人や、氏族の人たちは事情が違うでしょう。小さな混乱は今でもたくさん起こっているし、今後はもっと大きくなるわ」



「そこでだ、男爵、以前から話していた腹案を皆に説明してくれるかな」



ゴウラス殿は、彼の提案をもとに、我々で事前に協議していた組織図を広げた。


国王 :カイル

内務卿:アルス

軍務卿:ファルケ

中務卿:長老

開発卿:アース

農務卿:ヘスティア

商務卿:ファル

外務卿:アベル

法務卿:ゴウラス

財務卿:空席

工部卿:空席

民部卿:空席

式部卿:空席

警務卿:空席



「今はまだ空席が幾つもありますが、その辺りは後々の人材のために敢えて残しています。

一応、適材適所に配したつもりですが……」



「あ、いや、ゴウラス男爵、俺はそもそも先頭切って戦う方だし、軍略なんて一切……」



「ファルケ殿、戦時編成は別途考えています。軍務卿の主な職務は、魔境に順応する訓練や、周辺の魔物制圧、それに伴う狩りなどの食料調達です。

あと、空席は当面の間、内務卿、中務卿が統括してもらう形です」



「この……、式部卿って何かしら?」



「ヘスティア、我々や魔の民、合流した人界の民でさえ、まともな教育を受けた者は少ない。なので、子供たちに文字や魔法の修練を行う、教育する場を作ろうと考えていたんだ。これを実現し、運営するための部署だよ」



そう、これは以前から私が考えていたことだ。

この世界には学校がない。ローランド王国にさえ、教育機関はほぼなく、貴族の子弟や裕福な者、商人たちの子弟のみ、限られた教育機関に通ったり、独自に教師を手配し知識を得ている。


だが、私がこの先必要なことと考えている内容には、我々独自の教育機関は必要だ。



「因みにに戦時編成はどうなっているんですか?」



アルスがその点について確認してきたので、男爵は新しい紙を広げた。



左翼部隊:ファルケ   指揮下200名

右翼部隊:ゴウラス   指揮下200名

魔法部隊:ヘスティア  指揮下100名

後方支援:ファル    指揮下 50名

工兵部隊:アース    指揮下 50名

中央部隊:アルス    

 戦闘部門:空席    指揮下150名

 支援部門:ソラ    指揮下 40名

 偵察部門:空席    指揮下 5名

 諜報部門:ソンナ   指揮下 5名



「こちらが戦時編成です。平時から皆さんには、それぞれの部隊をお預けし、訓練と指揮をお願いします。

有事の際には、当面600名の部隊を動かせるよう、お願いいたします」



「恐らく当面は、人界の民との戦はないだろう。だが、大量発生した魔物への対応は必ずどこかである

と考えている。そしてもうひとつ……」



敢えて私が言葉にはしなかったが、この場にいる誰もが承知していた。

闇の氏族に対する懸念を。



「これまでも男爵と色々相談してきたのだが、今後は国として、導入しなきゃいけない優先事項は6つ。

既に教育機関(学校)については話したので、残りの5つを説明させてほしい」



そう、私が長年不便に思ってきたことに対する、解決方法がこの中に含まれている。



「一つ目は、度量衡の統一だ。ここにそれぞれ原器を用意した」



「度量衡?」

「原器?」



全員が口々に聞いたことのない言葉に対し、不安な表情を浮かべていた。



「これまで距離を伝えるのに、凄く曖昧な伝え方しかできなかっただろう? 100歩の距離とか、小石程度の重さとか。歩幅は人によって違うし、大人と子供なら全く違う。重さも感覚だ。

これらの基準は、国や地域、鍛冶屋や大工など、所属する仕事によっても独自の基準があった。

これを統一して、誰もが皆、同じ基準でその長さや重さを伝えることができるようにする」



当初私は、度量衡を統一するにしろ、何を基準にするのか、原器をどうするのかなど、頭を悩ましていた。

そしてある日、ふと思いついた。


『そうだ! なら日本の度量衡、いや軍で使っていたメートル法を導入すればいいのではないか?

私は軍で身体測定をしており、おそらく今も、身長と体重はほぼ変わっていないはずだ。

そこから逆算すればメートル原器、キログラム原器も作れるのではないか?』


そこから私は、自分の身長と同じ長さの紐を作り、それを苦心して何度も折り曲げ、17等分した。

そして10サンチ(㎝)の紐を作り、それに合わせて1メートル、10サンチ、1サンチの原器を作った。


問題は重さだった。重量は簡単に等分で割り出すことができない。

悩んでいたある日、この世界では珍しい、だが私の要望で作られた桶の風呂に入ったとき、溢れる水を何気なく見て思いついた!


『そうだ! 一杯にした桶の水から、溢れた水を同じ柄杓で掬って6等分し、更にそれをまた10等分すれば、1キロの水が割り出せる』


このような努力の結果、私はこの世界に4つの単位を導入した。



「この原器は長さの単位、それぞれメートルとサンチを示している。そしてこの錘の様な原器は重さの単位である、キロを示しているんだ」



男爵以外の参加者は、それをポカーンと見ていたが、これが、カイル王国から始まり、後年になって近隣国でも採用された単位、サンチ、メル、キル、そして重さを示すキロの始まりだった。



「二点目は、皆も既に承知のとおり、貨幣の導入だ。商店を始め、商業を発展させるには貨幣は不可欠だからね。今回は大量に貨幣を手に入れたから、当面はそれを使用したいと思っている」



「あの……、貨幣はどうやって手に入れるのですか? 皆に配るのですか?」



「ファルの指摘はもっともな話だね。でも配っては意味がないので、要はやりかた次第さ。

これまでは収穫した作物や、狩りで得た獲物は備蓄分を除いて、全て分配していた。それを変える。

当面は、備蓄分を税として扱い、分配量は変えない。そこに少しづつ貨幣を渡していく」



そう、一気に貨幣経済に移すつもりはない。配給を継続しつつ、最初は一定量、そして徐々に貨幣の割合を

高めていく。そうすれば、大きな混乱も怒らないだろう。



「三点目は、税制の導入だね。これを無理ない範囲で、進めていきたいと思っている」



「あの……、これまでなかった物を徴収されると、反発は起こりませんか?」



ヘスティアは恐る恐る手を挙げて言った。そして男爵以外の者が一様に、不安な顔をしている。



「はははっ、税は以前からずっとあったよ。領主に搾取される税は無かったけど、将来の備蓄や物資、武器の購入に、皆で狩った魔物素材や収穫を使っていたじゃないか。それも立派な税だよ。

取り合えず、今までと変わらない形で、名称を税にするだけさ。

まぁ、商店とか、収穫や獲物を提供してもらってない人たち、そんな人たちには、税という形で徴収し、逆にこちらの仕事を手伝ってくれたときは、対価として賃金を支払う。こんな形にするよ。

聖の氏族も、今は人手を税の代わりに提供してもらっているが、今後はどちらでも選択できるようにする」



この説明を受け、皆は少し納得したようだった。

だが次が少し課題だ。



「四点目は、実はすごく悩んだ。緩やかに貴族制も導入していきたいと思っている」



「き、貴族ですか?」



男爵以外の全員が引いていた。

もちろん、それは予測された当然の反応だった。



「私たちが知る、搾取するだけの貴族、オホン、男爵のような方は別として、そんなものを作りたくはない。だが、各氏族にとって氏族長、それには特別な意味があると思う。今はそれぞれの氏族が、氏族長を頂点に王政に近い形でまとまっているよね? それは血統によって継承されているとも聞いている」



そう、今の我々には、光と重力の氏族が我々の共同体のなかに合流している。だが、それでは氏族の固有性や独自性が無くなってしまう。



「氏族長を貴族として定め、この先も氏族としての固有性や、血統、大事なものを失わないでほしい、そんな思いから、この制度を考えるに至った。

当然みんなもこの先、役割と功績に応じて、貴族を名乗ってもらうことがあるからね。

これは、国王なんて堅苦しい者を成り行きで押し付けられた、そのお礼(仕返し)かな」



そう言って私は悪戯っぽく微笑んだ。



「はははっ! ファルケが貴族様なんて呼ばれるようになれば、それはそれで愉快な笑い話じゃねぇか。

今からどうからかうか、楽しみでなわんわ」



アルスの言葉に、ファルケが蒼ざめた。


「確かにな! 着飾った山賊貴族、いい見世物じゃねぇか」



「アース、てめぇっ! 勘弁してくれよ……」



「あら? そんな言葉遣い、貴族にあるまじきことでしてよ。ホホホ」



ヘスティアが口に手を当て、これ見よがしに言葉遣いを変えて、上品に笑う。

返答に窮するファルケを見て、全員が大笑いした。



「最後は制度というより政策かな?

カイラール近郊で、紙の制作を進め、何としても産業化したいと思っている」



そう、この世界に来て思ったことは、紙がない、いや、紙が異常に高いことだ。

ゴートでも仕入れてきてはいるが、消耗品は直ぐに底を付くだろう。


私が知る記憶、曖昧なものだが和紙作りと、この世界の紙の製法、それらをミックスして、より安価な紙を大量に作れるようにしたかった。


そして場所は異なるが、長年魔境の畔に住み、植生を良く知る里の者や、魔の民たちも仲間にいる。

交易の際、ジーク殿、仲買人からも紙の製法について、情報は収集してきた。



後年、カイル王国では安価な紙が流通し、決して安価ではないものの、本が大量に出回っていた事情は、ここに端を発している。

カイルの指示で、取り組みが始まった紙作りは、500年の時を経て進化、最適化し、近隣国のなかでも飛びぬけた生産量を誇るまでになっていた。


そしてこのことが、『ソリス家の神童』を誕生させる一つの経緯ともなっていた。

もちろん、この歴史の事実を、神童と呼ばれた当人すら知る由もない話ではあるが……



◆カイル歴2年 カイラール人口:2,070人


※新規加入

人外の民   350人

人界の民    50人

奴隷商より   20人


※既存人口

人外の民   700人

人界の民   250人

時空の氏族   40人

風の氏族    60人

聖の氏族   100人

重力の氏族  200人

光の氏族   300人

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、1月15日9時に【禍の到来】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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