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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十九話 カイル歴2年 禍を告げる使者

カイルたちにとって、新たなる希望の町、カイラールと呼ばれた町では、誰もが喜びに沸いていた。

ローランド王国に旅立った交易隊が、大量の物資を伴い、そして新たに400名を超える仲間を伴って、無事帰還してきたからであった。


祝いの宴は3日間続き、各位が喜びを嚙み締めたのち、それぞれがこれまでの課題、商業地区の稼働、各種工房や専門店の稼働、それに伴う人員の配置や、順次貨幣制度の導入に動き始め、カイラールが益々活況を呈してきたある日のことであった。



「カイルさま、グレイブ大使が何やら慌てて面会と会談を求めてお越しです。

大使は尋常ならないご様子で『国王陛下に大至急の謁見を賜りたい』と、見知らぬお方を伴ってお見えです」



最近、カイル付きの従者として働き始めた、風魔法士のテスラが、執務室でゴウラス男爵と今後の王政について、草案を協議していたカイルに報告した。



「グレイブ殿が尋常ならぬご様子……、すぐ会おう! 男爵も同席願えますか? 念のため、アルスと他の幹部、今集まれる者を招集しておいてくれ」



大至急の謁見か……、何かあったな。

これは、各大使と予め定めていた符牒である。重大事、良くない知らせを告げるとき、特にこの言い回しを使うよう、予め定めてあったのだから。



少しして、目ぼしい者たちが参集した後、私たちは謁見の間とは名ばかりの、行政府に設けた少し広めの広間で、彼らと面会するに至った。


席に着くと、膝を付いて着席を待っていたグレイブ大使の傍らに、傲然と立ち、不敵な顔でこちらを見定める、全身が漆黒の衣に包まれた男がいた。



「国王陛下、この度は大至急の謁見を賜り、誠にありがとうござい……」

「グレイブ、良い。先ずは我らの席を用意してもらおうか。話はそれからだ」



グレイブ殿の言葉を途中で遮ると、その男は傲然と要求の第一声を放った。



「なっ!」

「無礼なっ!」



私の周囲で、仲間たちが怒りの声を上げたが、私は努めて冷静に対応した。

我々を激発させるのも、彼らの作戦のひとつと思ったからだ。



「皆、構わぬ。直ちに席を用意しろ。対等な立場に立たぬと、お話いただけないのであれば、敢えてお受けしよう」



「ふふふ、勘違いされないよう。我らは12ある氏族のなか、11氏族を束ねるもの。

そもそも、対等である訳がなかろう。まぁ、人界から流れて来た民ゆえ、知らぬのも道理だろうが」



「で、席も整ったことだし、闇の氏族のご用件を伺おうかな?」



そう言って私は、真っすぐその男を見据えた。

私と同じ漆黒の髪、そして漆黒の目。そして、見下すかのように真っすぐ見つめてくるその目に対して。



「ほう、よくよく見ても、我らと外見上はそっくりだな。だが、中身は全く違うようだが。

まぁ良いわ。我らが氏族長の言葉を伝える」



そう言って男は、不敵に笑った。



「我ら12氏族の独自の領域、勝手に魔境を焼き払い切り拓くこと、目に余る行為である。

また、聖の氏族を懐柔し、重力、光の両氏族を庇護下に置くこと、言語道断の行為と認める。

風、時空、火の氏族と誼を結び、魔の民12氏族の中に、新たな不和を招くなど、我らを差し置き、盟主にでもなった気でいるのか?

そのように我らの長は、酷くお怒りでな」



「ほう、なかなか面白いご見解をお持ちだ。

使者殿に申し上げる。我らは何の野心も持たず、誰もが関心を持たず手を出されない地に、新たな安住の地を設けたに過ぎぬ。この地は、どの氏族も関わりを持たぬ地であると聞いたが?

そもそも、氏族に王がいるとは聞いたこともないし、我らがその野心を持ってもいないが?

それに加え、我らは各氏族の皆様にに等しく、出先機関として、今後の利害調整として大使館を設け、その地を解放したに過ぎない。闇の氏族の方々も、ご要望があれば土地と便宜をお図りするゆえ、どうかそのように、よろしくお伝えくだされ」



「ふん、どこの誰から聞いたかは知らぬが、少しは我らの事情にも通じておるようだな。

ならば、我らに対し、逆らうのはやめよ。我らの意に沿い、この先の魔境での暮らしを縋るが良い。

それが唯一、そなた等の身の安全を保障するだろう。今回は警告だ。いずれ我らに背いた禍は、そなたらの身に降りかかるであろう。今回はただ、それのみを伝えに来た」



そう言うと、その男の姿は暗闇に包まれるように忽然と消えた。

そして、全身を汗に濡らし、蒼い顔で震えながら平伏するグレイブ殿だけが、残っていた。



「グレイブ殿、これが以前仰った、闇の氏族のやり方ですね?

先ずは今回、釘を刺しに来た、というところですか?」



「は、はい、恐らく……。我らもここ何十年か、彼らとの接触はありませんでした。

各氏族に強い影響力を持つとはいえ、長年に渡り所在も分からなかった彼らが、今になって世に出てくるととは、思ってもおらず……

我ら聖の氏族は、いや、光と重力の氏族以外は、何故か結局、意思に反して彼らの言葉に逆らえないのです。彼らに異を唱えていた者でも、ある日突然、彼らの信奉者に変わることもあるらしく……」



「なるほど……、ひとまず彼は、今回は警告と言っていたな。我らも対策を協議しなければならないな。誰か、至急グラビス大使、ネオ大使の元に使いに走ってくれないか?」



この後、3人の大使を交えた会談では、魔の民で受け継がれてきた因習、いや因縁ともいうべき話や、相克と呼ばれる、闇の氏族が嫌う、二つの氏族の持つ力について、初めて知らされる内容が語られた。


そして、闇の氏族だけが持つ力についても。

彼らの中には、自らが持つ魔法の闇に堕ち、人の邪な心に付け入る力を持つ者がいることを。

そういった者の支配下に置かれた者は、自身が持つ心に潜む闇を増加させ、意のままに操られることを。


彼らの闇に対し、唯一逆らえるのは、相克という力を持つ氏族のみ。

光の氏族は、光の魔法により闇を祓い、洗脳を解くことや、彼らを倒す力を放つことができる。

重力の氏族は、闇深き者の心を更に奥底へと堕とし、自らの闇の重みで二度と浮かび上がれなくすること、いわば廃人同様にすることができるそうだ。


彼らの持つ秘密、それは闇の氏族に抗らうことができる力であり、それを闇の氏族は恐れているらしい。



「そうか、だから闇は、いや、闇に捕らわれた者は、二つの氏族を恐れるのか。

そのために、自信を滅ぼせる2つの氏族を、排斥し滅ぼそうとしているということか……」



改めてとう呟いた私に、グラビス殿とネオ殿は大きく頷いた。



「ならば選択肢は一つしかない。我々は、手の及ぶ限り、二つの氏族を保護する。それがあって初めて、各氏族は不当な支配を受けず、独自の道を進むことができると思う。皆の意見は?」



そう言って私は、仲間たちを見回した。

そして先ず、アルスが口火を切った。



「我々は、迫害のない地を目指し、ここまでやって来たのです。これからも進む道は同じです」



次にゴウラス男爵が。



「我々は、虐げられている者たちに手を差し伸べる。これは変わりません」



ファルケが続く。



「我々は、戦う力を、守るための力を持つに至りました。我らを害するとなれば、戦うまでです」



そしてアースが。



「我々には、苦難を乗り越えてきた強い心、皆が幸せになるために、戦う意思と力があります」



ヘスティアが笑った。



「心に闇がなければ、彼らに付け入る隙はないのですよね? であれば我々は、決して負けません」



最後にファルが胸を張った。



「我々は言い掛かりには屈しません。そうやって今まで頑張ってきました。そして今後も同じですよ」



「皆、ありがとう。私も皆と同意見だ。

グラビス大使、ネオ大使、そしてグレイブ大使、我々は、皆さんを守ります。力の及ぶ限り。どうか皆様もこれからも戦い抜く勇気を、そして共にあり続けることを、誓い合いましょう」



「皆さま、本当にありがとうございます。彼らは人の心に潜む、悲しみ、妬み、恨み、そして怒りなど、心の闇に付けこみます。どうか、常にお心を強くお持ちいただき、彼らに乗じられないようお気を付けください」



「皆さまの心が、光に満ち、希望の光を話し続けますよう、祈っております」



そう言って、グラビス殿とネオ殿は、深く頭を下げた。



だが、この時我々が、闇の氏族が警告していた内容を、我ら全員が見誤っていた。

季節が冬へと移り変わったとき、我々は魔境の真の恐ろしさを、初めて思い知らされることになる。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、1月8日9時に【王政の始まり】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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