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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十八話 カイル歴2年 永久(とこしえ)の別れ

新たに仲間となる400名を加え、総勢500名弱となった我々の一行は、ケンプファー男爵領を出発した。

一行は人数もさながら、同行する荷馬車の数も、通常の開拓団に比べ桁違いのものであった。


それ故に否応なしにその動向は目立ち、彼らに遠巻きに随伴する者たちも目に付いた。



「カイルの旦那、気付かれましたか? ざっと30騎ってとこでしょうね?」


先頭を走る私に、最後尾から追いつき、馬を寄せてきたファルケが話しかけてきた。



「ああ、ケンプファー領を出るときに、領境で待ち構えていたからな。男爵がゴールト伯爵に嗅がせた鼻薬がよほど効いたと見えるな」



「それにしては、伯爵領に入る関所は、すんなり通れたと思うのですが」



「ははは、我らはゴールト伯爵に搾り取られるための、大金や物資を抱えた大事なお客さんだ。

入口はすんない通すだろうね。万が一、他の経路を選択してしまえば、大魚を逃すことになるし。

鬼が出るのは出口、ドーリー子爵領との境だろうね」



「世の中……、守銭奴だらけですな。にしても、またあの場所とは……、つくづく縁がありますな。

この人数と荷駄です、無事、振り切れると良いのですが……」



そう言って毒づくファルケも、深刻な顔をしていた。

私もその点は不安なのだが、自身の立てた作戦を、今は信じるしかなく、努めて明るく振舞っていた。

本当は私自身、不安で一杯なのだが……



「あ、そう言えば、グレイブ殿はどうしているだろうね? アルスが手を焼いていないといいが……」



「何も知らせがないということは、此方が送ったアースなど地魔法士から作戦を聞き、幾つかの中継所を整備してくれていることでしょう」



そして、ゴールト領に入ってからというもの、伯爵のやり口は、段々とあからさまになってきた。

まず最初の一手は、我々が街道の途中で100騎あまりの兵士が、我々の行く手を塞いでいた。



「開拓団の者たちに申し渡す。我々はゴールト伯爵の命を受け、街道の警護に当たっている者だ。

過去にも、開拓団が大規模な盗賊の襲撃に遭い、全滅した不幸な出来事もあった。身の安全のため、我らが其方らの警護として遣わされておる」



そう言うと、彼らは我々の荷馬車や荷駄を、じろじろと見ては舌なめずりするかのようだった。

私は前に進み出て、隊長らしき男の前で商人らしく、彼らの流儀で礼をとった。



「それはそれは、皆様お役目ご苦労様です。そしてありがたくお申し出を受けたく思っております。

その……、お礼につきましては?」



「ははは、よく分かっておるではないか。我らは自らの命を賭して、其方らの命を守る役割を担う。

依って、護衛料は一騎あたり金貨10枚、其方らの命の対価と思えば、決して高いものでもなかろう?」



「ふん、どっちが盗賊か分らんな。俺たちから全て毟り取る気か?

護衛一人に金貨10枚って、その額だけでもゴートの最上級の宿で何日滞在できると思っているんだ!」



ファルケは、ニタニタと笑う彼らに対し、聞こえないように毒づいた。

ここで断れば、人里離れた場所に至った時、彼らが野盗に豹変するだけだ。



「ありがとうございます。しかし合計で1000枚の金貨は大変な金額ですな。

できれば前金として金貨200枚、それとは別に皆様の道中の用足しとして、金貨100枚、それで何とか都合を付けてはいただけませんか? 残りは金貨300枚としていただけるのであれば、途中で物資の一部を売り払い、何とか都合をつけさせていただきます。伯爵さまのご領地を出る際にお支払いということで……」



要は金貨100枚を賄賂とする代わり、護衛料を半額にしてほしい、そんな申し出だった。



「ふん、まぁ無理もなかろう。殊勝な申し出に対し、特別に許可しよう。

なお、領境では通行税を徴収しておるが、我らのへの残金を考え、滞りなく支払えるよう準備を怠らぬようにな。なお、対価が払えぬのであれば、物納することも許可されておる」



「ありがたく……、アベルよ、金庫から品を」



私が合図するとアベル殿は、金庫と呼ばれた、木造りで一際堅牢に作られた荷馬車から、金貨100枚が詰まった丈夫な袋を3つ取り出した。実際には、その馬車の中で、空間収納から取り出しただけなのだが……

彼らは獲物を見るような鋭い目つきで、アベルの対応を見ていた。


その後我々は、100騎馬の護衛とうぞくたちに囲まれて、先を急いだ。



しばらく進むと、我々に二手目、三手目の策謀が襲ってきた。

隊列に先行し、宿営地を当たっていたゴウラス男爵が、大慌てで駆け戻って来た。



「カイル殿、この先の村や町、その全てが法外な入城料を徴収すべく待ち構えております。

宿もみな、法外な値段で往路の三倍はしますぞ!」



「ふん、『行きはよいよい帰りは怖い』か、我らがケンプファー領に引き返すとしても、同じだろうな。

仕方ない、ここから先は全て野営で進むものとする!」



彼らの唯一の誤算は、我々が通常の旅人ではなかったことだ。

開拓団という名目上、食料や野営の準備はふんだんにある。



さて、彼らの毟り取り方は尋常ではないことに、改めて私は頭を悩ました。

正直言って、各種素材の売却益などを考えれば、金貨の量はまだ十分にある。が、貨幣の調達に支障をきたすし、そもそも我々がそのような大金を持っているこで、余計な猜疑を受けることになりかねない。


ゴールト伯爵は、ドーリー子爵の勢力増大を妬み、それを今後支えると思われる規模開拓団は、ことごとく潰す気でいるのだろう。


この先、悪意ある四手目も予想されたので、私は脱出案を何点か修正した。


ひとつ、開拓団の荷馬車のうち、食料や物資を積んだものの半数は、ゴートの仲買人に預けること

ひとつ、仲買人はそれらを購入した形で、後でアベル殿が受け取れるよう手配してもらうこと

ひとつ、別動隊の作業が完了した者は、時空魔法士を中心にゴートに移動し、アベル殿に合流すること

ひとつ、アベル殿が指揮する輸送隊は、空間収納で物資を輸送し、関門を超え南門中継所に集積すること

ひとつ、密かに往復するアベル殿に、同行者50人を預け、少人数に別れ難問中継所に脱出してもらうこと

ひとつ、輸送で空いた馬を騎馬とし、同行者のうち乗馬のできる者50名を馬車から騎馬移動に変えること

ひとつ、アルス指揮下の隊は、最東端の避難所だけでなく、そこより西側の二か所を再整備すること


これらが、今回追加修正を加えた新しい対応だ。

途中の野営や進軍を遅らせることで、我々は時間を稼ぎ、これらの算段が整うのを待った。



そして私たちは、遂にその日を迎えた。


ゴートで大量の物資を売り払い、出発時より人員も減って大きく規模を落とした……、そう見えるように偽装した我々は、領境の関所でも嘲笑を受けながらも、なんとか交渉のうえ、手持ちの金貨を全て放出したように見せかけて、何とか通過した。



「奴ら、最後に金貨を全て支払っていったぞ、どういうことだ?」


「人数が減っているだろう? 途中のゴートにて人外の奴らを、奴隷として売り払ったみたいだぜ」


「ははは、難儀なことだな。しかし……、金を払ったが、通してしまえば主命に背くことにならんか?」


「まぁ仕方あるまい。我らは領内で奴らを守ってやったが、領外に出れば守る者もいない。野盗の餌食になるとは、同情を禁じ得ないな……」


「この時間にここを抜ければ、暗くなるまでに最初の村には辿り付けない。となると、危険な野営だな」


「そうだな、あの家畜どもがこちらに入れば、我らの食事もマシになるだろうしな。女どもは……惜しいがやむを得んか? 目撃者は全て……」



関所を越えて進むカイル達を見て、兵士たちは口々に呟いていた。

彼らは知る由もない、聴力に特化したソンナが、カイルの傍らでその会話を全て確認していたことを。



彼らの筋書きはこうであった。


開拓団を無事領境まで護衛した後、街道脇で野営する彼らは、大規模な野盗の襲撃にあった。

数年前の悪夢が再現されたかのごとく……


危急を聞き駆け付けた兵士たちの前には、無残に惨殺された開拓団の亡骸と、襲撃の後を思わせる破損した荷馬車や、横倒しになった馬車、そして各所で立ち上る炎が広がっていた。


ゴールト伯爵は、全滅した開拓団に対しケンプファー男爵に哀悼の意を伝えるとともに、ドーリー子爵の領内警備の不備を非難する。



この筋書きに従い、盗賊と化した兵士たち100騎が、少し時間を置いたのち、開拓団を追い夕暮れの街道を疾走していた。密かに彼らの後を付け、野営に入った時点で寝込みを襲うために。


だが、彼らには不可思議なことが起こった。



「何故だ? 何故追いつけない! 奴らが全力で逃げているとしても、馬車や荷馬車が我らと同じ速度で走れる訳もなかろう? 空でも飛んでいるのか?」



全速力で追う彼らも、夕闇の中遥か遠くに、うっすらと見える砂塵に、追いつくことができなかった。

そして、不思議なことは続く。



「あっ!」

「なっ!」

「がっ!」



彼らを乗せ全力で駆けていた騎馬たちが、一斉に何かの重みに耐えかねたように転倒し、兵士たちは勢いよく振り落とされた。彼らの短い悲鳴とともに……


打ち所が悪く絶命する者、重傷を負う者も相次ぎ、彼らは負傷者や同胞の亡骸を抱え、一旦関所に戻るしかなかった。

そして深夜、再び体制を整え開拓団を追った彼らは、燃える火の明かりに誘導され、探していた者たちに追いつくことができた。


だが……、彼らの前には、信じられない光景が広がっていた。



「な、何だこれは? 奴らは何処に消えた?」


「奴ら、まさか本当に野盗に……」



盗賊に追われ、魔境近くまで逃げたのであろうか。


街道から少し外れた森の手前では、横倒しになって無残な姿を晒していた荷馬車や馬車の数々、至る所に突き立った矢と、燻り続ける残り火、引きちぎられた衣服と血痕、空になった木箱が散乱し、開拓団の者たちが金庫と呼んだ馬車は、壮大な炎に包まれていた。


彼らが事前に描いた、筋書き通りの展開となっていた。

唯一の例外、襲うはずの者が野盗に代わるという展開で……



「いかん! 魔物にも襲われた可能性があるぞ! 血は奴らを呼び集める。

円陣を組みつつ、街道まで撤退! 左右の連携を忘れるな!」



隊長格ともなれば、魔境と魔物の恐ろしさは重々承知している。

関所を守っていた300名の兵たちは、直ちにその場を後にした。



これらはカイルが『忍法霞隠れの術』と呼んだ作戦の結果であった。



関所を出たのち……


重力魔法士たちにより、人や家畜を乗せた馬車や荷馬車は、その重量を極端に減らした。

時空魔法士たちにより、積載物は全て彼らの空間収納に収まった。

風魔法士と地魔法士により、砂塵は偽装され、脇の草原に逸れた彼らをよそに、延々に先へと進んだ。

正に、霞の中に消えたかの如く。

そして、重力魔法士により、疾走中に体重が一気に数倍にされた騎馬は、次々に転倒した。



300名の兵たちが到着した頃には、偽装を終えたカイルたちも、最寄りの避難所に到着していた。

そして、朝が来ると東端の避難所へ全部隊が移動し、翌日の早朝、驟雨に紛れて国境を越え、夕刻には南門中継所へと入った。


そして彼らはその後、再び関門を越え、ローランド王国を訪れることはなかった。

この国境を抜ける道は、禍をもたらす使者の到来により、閉ざされてしまう。


この時を境に、魔の民とローランド王国とは、数百年に渡ってその繋がりを絶たれることになる。

そう、彼らの存命中には、南に広がる人界の世界、そこに住まう人々との交わりは絶たれ、かつて友誼を結んだ者たちとは、永久とこしえの別れとなるのである。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、1月1日9時に【禍を告げる使者】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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