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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十六話 カイル歴2年 再訪のゴート

春になって我々本隊は、先行していたアベル殿とファルケに追いつくべく、70名の仲間たちを連れ、ゴートの街へと向かっていた。

もちろん、一気に隊列を連ね町に入れば、それなりに目立ってしまう。

それを配慮し、3日間、しかも時間帯をずらして街に入るようにしていた。



「おおっ! あれが人界の街ですな? 宝の山と言われている」



「グレイブ殿! そう身を乗り出されては困ります。フードがめくれ、髪が見えてしまっています」



私は敢えてもう一度注意を促した。

我々が人界の地に入るにあたり、最も留意することは髪の色と目の色を隠すことだ。

これまでも一部の者は、傍から見れば奴隷の従者や、人足として雇われた人外の者ととして、敢えてそういったみすぼらしい衣装や、首輪、腕に鉄輪をまとったりしてごまかしている。


だが、グレイブ殿は我々との関係構築の立役者として、今や聖の氏族のなかで、氏族長に次ぐ地位にまで上り詰めている。

そんな彼に対して、そのような格好をさせるのは憚られたため、金色に輝く頭髪は後ろでまとめ、フードを深く被ることで目を隠してもらっている。


そんな彼が、夢中で馬車から身を乗り出せば、頭髪や瞳の色が露わになり、彼が人外の民、正確には魔の民だが、ということが、一目で露見してしまう。



「アルス、予定通りグレイブ殿を中心に、時空魔法士の一隊を率いて、ゴートの街での対応を任せる。

我々を待つ必要はない。必要資材が確保できれば、そのまま東の中継所に入ってくれ。

見守りの件、どうか頼む」



「ははは、カイル殿、承知いたしました。

ここから別行動を取らせていただきます。ケンプファー領の件、ご武運をお祈り申し上げます」



私が率いた20名の隊も、町の手前でアルスやグレイブ殿が所属する隊と分散し、粛々と城門をくぐった。

そして、宿場町では先に入っていたゴウラス男爵率いる一隊と合流し、彼らを宿に残し、予想に反して活況に沸く街の市場を、二人で見て回った。



「兄さんがた、他所から来なさったのかい?

一時はドーリー子爵の開拓地が、活況を極めていたが、今はなんと言ってもこのゴートだよ。

ローランド王国中の物資が集まり、ケンプファー男爵領とドーリー子爵領に流れる、集積地になっているからね」



ふと訪れた、露天商からの言葉に、私たちは驚きを隠せなかった。



「ふむ……、最後にゴートを訪れたときは、もっと寂れた街だったと思ったがな。

この変わりようには正直、驚いたよ」



「ああ、そうだな。正直言うと、この冬まではかなり寂れた街で……、俺も商売をたたむ積りだったよ。

だが、近隣二か所の開発景気のお陰だな。もともと大きな商いが動くのは遠くの王都か、このゴートぐらいだったからな」



「そうか、景気の良いのはなによりだな。で、何か良い出物でもあるかい?」



「そうこなくっちゃ! お兄さん方は運がいいぜ。今ここには、滅多に出回らない魔物素材がよりどりみどりよ。買うなら今しかねぇぜ」



そう言って奥から大事そうに取り出されたのは、私たちが先行するアベルに託していた、膨大な量の魔物素材のうちのひとつ、そうとしか思えない物だった。



「ははは……」



私とゴウラス殿は、顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

必死に食い下がる露天商を、なんとかうまく煙に巻いた私たちは、街の露店街から離れ、裏通りをある目的地に向けて歩いていた。



「この街での調達は順調に進んでいるようだね」



「ええ、私も宿で聞いた話ですが、この街には南部一帯の人と物資が集まり、それの一部が忽然と消えつつも、残りはケンプファー男爵領と、その動きに刺激されたドーリー子爵領へと動いているようです。

その時は半信半疑でしたが、中継地として活況を極めるゴートから、馬車を連ねたキャラバンの隊列が、北のケンプファー男爵領に向けて、日々出発しているようです」



「ははは、なら我々もその一群に紛れ込み、易々と移動できるということかな?」



「はい、ジークも中々うまくやっているようで」



「では予定通り、この街の対応はアルスに任せ、我らは明日ケンプファー男爵領へと入ることにしよう。

私もジーク殿にお目に掛るのは楽しみだな」



そう、私はこのローランド王国に残る人外の民たちの未来を託す、ジーク殿にも是非会っておきたかった。私たちが救えた同胞は、この国や近隣諸国に暮らす人外の民と呼ばれる者たちのごく一部だ。


自分たちだけが、新しい新天地で安穏と暮らすことには、心が痛んでいたからである。

彼がこの国で、今後も同胞を救う担い手となること、それを期待していた。



「明日朝一番でゴートを出れば、我らの足です。2日目の夕刻にはケンプファー領に入れるでしょう。

先導役はお任せください」



その後男爵と私は、裏通りを抜け、以前仲買人サームに紹介された奴隷商の店を訪問した。

そのあたりも、街の市場と同様に、多くの人が出入りし活況を呈していた。



「おい、誰か知らんが、ここは滅多な人間が来る場所じゃねぇぜ。それなりの金を持っている奴以外はな」



二人で商会の中を覗き込んでいると、人相の悪い男が声を掛けて来た。



「ははは、相変わらずの挨拶だな。なかなか繁盛しているようじゃないか。

以前ここで、仲買人サームの紹介で奴隷を買った者だが……、会頭はいるかい?」



「えっ? お得意さまでしたか……、そりゃ失礼しました。頭は奥で荷受け中でして。

ご案内させていただきやす」



中に招き入れられると、以前に会ったことのある男が、誰かと話していた。

話している相手は、どうみてもまともないで立ちではなく、野盗や山賊の類にも見えた。

そして彼の周りには、鎖に繋がれた年端もいかぬ子供たちが何人もいた。



「おい! こっちも苦労してかき集めて来たんだ。もう少し色を付けてもいいんじゃねぇか?」



「何を言ってやがる、こんな子供ばっかり集めて来やがって。以前なら二束三文の価値も無かったんだ。

今やケンプファー男爵が、そんな子供も引き取っているからこそ、やっと値が付いているんだ。

なんなら、直接売り込んでもいいんだぜ? もっとも彼方では、どこで仕入れた奴隷か、搔っ攫った子供たちではないかなど、こと細かく調べられるがな。

まぁ、そもそも正規の奴隷商以外、相手にすらしてくれんだろうよ」



「くっ……」



そう呻いて、男は幾ばくかの金貨を握らされると、立ち去っていった。

その後我々は、案内した男から奴隷商に引き継がれた。



「おおっ! これはこれは旦那さま、またのご来訪、誠にありがとうございます。

いやいや、見苦しい所をお見せしました」



「いや……、ひとつ気になったことがあるんだが、聞いていいか?」



「はい、私共でお答えできることなら、なんなりと」



「先ほどの男、まさか子供たちをここに売るため、誘拐してきたということか?」



「そうですね。昨今の事情を踏まえ、少し詳しくお話させていただきたいと思います」



そう言って奴隷商は話し始めた。


少し前まで、働き手とならない人外の民の子供たち、特に幼い子供たちは二束三文にもならず、常に売れ残っていたこと。

この冬から、ケンプファー領ではそのような値が付かない子供達でも、相応の対価を支払って引き取ってくれるようになったこと。

どこからかこの話を聞きつけた、ならず者たちを中心に、そういった子供たちを誘拐し、奴隷商に持ち込む者が出始めたこと。

その状況を憂慮した、ケンプファー家からの通達により、各奴隷商は努めてそういった子供たちの保護するため、買い取っていること。



「ふむ、それなら逆に……、そういった悪人共を助長しているのではないか?」



「ある側面ではそうとも言えます。ですが万が一我らが買い取らないと、それこそ使い手のない子供たちは、足手まといの無駄飯食いです。即座に殺されてしまい、元の親や里、以前の主人の元へに戻ることは先ずあり得ません。

なので我らはみな等しく、最低価格で買い取ります。どの奴隷商も同様です」



そう言って奴隷商は、薄気味悪く笑った。


なるほど、そういうことか。奴らに対しては決して、うまみのある取引にしないことで、今後の抑止力としているということか?



「だが、それで防ぎきれるという訳でもないだろう?」



ゴウラス男爵の言葉に、奴隷商は真面目な顔になって答えた。



「以前から、そういった事を行う輩はおりました。ですが今は事情が違います。

ケンプファー家では、売る当てのない子供達でも、相応の対価で引き取って貰えます。

それと同時に、我らにもうひとつ依頼をされています。それが子供たちの保護です。ケンプファー家では、子供たちがかどわかされた者と判明すると、無償で両親やその里に、子供たちを返しています。

そして今や、我らの最も大きなお得意様でもあります」



「そんな事を俺たちに話しても良いのか?」



「旦那様がたもまた、お得意様ですからね。以前、一度買われた奴隷たちに、清潔な服と食事、それを与えるよう指示されました。後日、ケンプファー家の方々が言われているのと同じように……」



そう言うと、ゴウラス男爵が腰に差す剣を見て、ニヤリと笑った。

なるほど……、迂闊だったが、彼の剣の鞘には、ケンプファー家の紋章が刻まれている。

恐らく奴隷商は、私たちをその関係者か、申し入れが徹底しているか、調査に来た者とでも勘違いしているのだろう。



「ははは、私も以前、二束三文の子供たちを、高値で買い取ったお得意様と言う分けか?」



「はい、あの時はよい取引をいただき、感謝しております」



「で、今はどうだ? 我々は今も、相応の対価を持って、ここに来ている訳だが?」



「今までのお話の通り、人外の民たちは全て、売り先が決まっておりますゆえ……、逆に以前の戦役で路頭に迷い売りに出された、人界の子供たちなら、良心的なお値段でお譲りできるかと……」



「そうだな、我らは明日朝、そのケンプファー領に向けて出発する。出発に間に合うよう、その売る当てのない子供たちを集めることはできるか? 可能な範囲で構わない……」



「そりゃあもう……、再びの良いご縁に感謝しております」



私たちは、相応の対価と引き換えに、35人の子供たち、15人の人外の民と20人の人界の民を引き取ることになった。15人はおそらく、ケンプファー家に送る予定だった者たちだろう。


翌朝、ソラによって迎えられた子供たちは馬車に乗せられ、我々と共に、ケンプファー領への旅路につくこととなった。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、12月18日9時に【もうひとつの大移動】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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