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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十三話 カイル歴1年 氏族たちの合流

カイル歴、これは私たちがエストから全ての仲間を引き連れ、カイラールへと移住した日を元年として定められた、我々の新しい暦だった。

なし崩し的に、私を国王と定めて王国の成立を宣言した流れで、この暦の採用も決まっていた。

そして、冬を越し、新しい年を迎えた日をカイル歴一年とし、我々は新天地での生活基盤を整えることに邁進した。


そして秋の収穫時期までは農作業を中心に動き、今年、新天地にて初めての収穫を得ることができた。

それを受け、農閑期は主に工事を優先して作業にあたっている。



「カイルさま、グレイブ大使が何人か人を連れてお見えになっており、面会を希望されています」



外壁拡張工事の現場にいた私は、馬で知らせに来たソラから報告を受け、建設現場に築かれた足場から飛び降りると、ソラの前まで進み、汗を拭った。



「要件は聞いているかい? 新しい里の件のお礼かな?」



そう、冬の始めにカイラールに到着して以降、私たちは5つのことを同時進行で進めていた。


ひとつ、現在の外壁工事を進め、魔物や侵略者の侵入を完璧に防ぐ防壁とすること

ひとつ、壁内の農地開墾と作付けを推進し、自給自足の体制を整えること

ひとつ、壁内に住宅地、共用施設、商業施設を建設し、町としての体裁を整えること

ひとつ、外壁の外側にもうひとつ壁を作り、将来的に安全地帯を広げていくこと

ひとつ、聖の士族の里、新たに外壁に囲まれた安全な生活拠点をつくり、その建設を進めること


一番目と二番目は、既に予定していた作業が進んでおり、農地については今の人口を十分に賄える広さまで確保できていいる。


三番目は用地と建物だけは作っているが、特に商業施設については、まだ中身が伴っていない


四番目は、私が今従事している作業のひとつだ。例え今は必要でなくても、この地は魔境の最深部であり、壁の外は非常に危険な場所に変わりない。なので、安全圏を増やしていくことは、継続的に必要なことだし、馬や家畜を増やすため、広大な牧草地も確保したい。


五番目は、聖の氏族との約定に従った内容だった。カイラール少し離れた地に、新たな彼らの里を築くため、エストに劣らぬ規模の里を建設し、つい先日それらの完成に伴い、500名程度の者たちが新たなる里に向けて、カイラールから移住していった。


その際、約100名ほどはカイラールに残り、氏族としての固有のまとまりを捨て、我々の仲間となることを選択している。移住した聖の士族も、この先10年間、毎年100名を人手として派遣し、我々の開拓作業に協力することを、新しい里の対価とすることに合意していた。



「詳細は直接お話を、そうグレイブ大使は仰っています。どうやら見慣れぬ方々を何人か伴われているようで……」



「そうか、それではここで会うのもなんだし、行政府で会うことにしようか。わざわざグレイブ殿が先触れを出しての訪問だ。何かあるかもしれないしな。

アース、作業の指揮は任せる。ソラは私と一緒に」



そう言って私は、馬に跨るとソラを伴い、まだ器だけ完成し、実質は殆ど機能していない商業区画の行政府へと移動した。



「グレイブ大使、待たせてすまなかった」



「カイル王陛下、この度はお時間をいただき、誠にありがとうございます。

陛下におかれてはご機嫌も麗しゅう……」



私は、恭しく跪くグレイブ殿に、少し違和感を感じた。

確かに、公式の場では国王の体裁を採ってはいるが、この頃になると皆、個人的に私と話す時は陛下と呼ばず、長であった昔と同じ体裁にくだけている。

これは私自身が、この一年、根気強く皆を説得してそう呼ぶようにした結果だ。

もちろん、あくまでも非公式の場、一対一の場での前提だが。


グレイブ殿とも、聖の氏族との取り決めで、互いに胸襟を開いて話し合い、ある程度慣れ親しんだ形で応対するのが常であった。



「この度は、我らの里を賜りましたお礼言上に伺ったのと、是非陛下に紹介したい者たちがおりまして」



そう言うと、左右に控えていた者たちに目配せした。

顔を上げた彼らのうちひとりは、私がこれまでに見たことのない、魔の民のなかでは異様な風貌だった。


ひとりは漆黒の髪、そして赤い目をしていた。

もうひとりは、以前に見たことのある、白髪に近い金髪と、白に近い薄い灰色の瞳をしていた。



「我ら聖の士族は、固有の秘儀があるために、各氏族とも密接な関わりを持っております。

そのために、彼らの窮状や他言を憚る内容のお話もございまして……。

今回はカイル王陛下に、彼らの庇護をお願いしたく、士族の代表者を伴ってお願いに参上いたしました」



「それは……、グレイブ大使が聖の氏族を代表して、そして彼らが各氏族を代表してとのことかな?」



この時点で私は、この話に関わる危険性を感じた。

以前の私が知らなかった、魔の民の中での軋轢や序列についても、今の私はグレイブ殿を通じて、それなりの知識を得ていたからだ。


魔の民は各氏族で独立して、各士族が独立しているとはいえ、序列がないわけではない。

我々とは全く交流のない士族、氷、音、重力、闇の氏族で、闇の氏族がその序列の最上位にあることや、闇に抗する力を持つ、光と重力の士族は、闇の士族の圧力により、氏族間でも孤立していることを知っていたからだ。



「これは……、あくまでも私の独断です。本来、聖の氏族は何故か闇に惹かれ、彼らの意のままに動くことが多いのが常でして」



他の士族に対し、高圧的に接する聖の氏族が、唯一気を使い、唯々諾々と従うのが闇の氏族だと、私はグレイブ殿から聞いていた。

そのため、私たちのなかで、この謎かけのような会話も、きちんと成立している。


光の氏族がそうであったように、彼らは闇の氏族を恐れ、自身に有利な魔境の中に逼塞し、外に出ることはほとんどないのが常であった。



「陛下が新しくい興された国は、我々士族の因習や序列、それらを超えた新しいものでございます。

魔の民、人外の民、人界の民が共存し、ひとつの集団として国家となっている姿を見て、彼らも決心したようです。どうか、彼らにも新しき居場所を与えてくだされ。我らと同様に、彼らの大使館をカイラールに置くことの許可を、お願い申し上げます」



「それについては願ってもないことだが……、お二方の存念もお伺いしたいな。

大使館を建設し、一定の数の者をカイラールに止め置かれるだけかな? それとも……」



「初めて御意を得ます。私は、重力の氏族を代表して遣わされた、グラビスと申します。

我らはご賢察の通り、闇の氏族からは忌み嫌われ、魔境の奥深くに逼塞して生活しております。

ですが、この国であれば、事情は異なりましょう。

それぞれの民が、因習に捕らわれず生活している、この国の在り様に感銘を受けました。

将来的に、我らの里をいただけるのであれば、いや、独自の里がなくとも、我らにこの先も安住できる地があるのであれば、氏族としての固有性など、些細な問題に過ぎません」



「カイル王には改めて感謝を。私はネオと申します。

私たち、彼らと同じ。光の迷宮、実りも限られてこの先、我らの未来はない。どうか、お願いします。

迷宮を出た豊かな暮らし、我ら一族の悲願です」



「士族としての固有性を失っても?」



「はい、我らはグレイブ殿より、血が薄れ魔法を失った者たちにも、陛下の御業で氏族の誇りを取り戻したこと、彼らがこの地で、新しい生活を始めていると聞き及びました。なので何卒……」



「我らも同じです。どうか、お願いします」



なるほど、グレイブ殿から聞いた話では、光も重力も氏族の中では非常に少数であり、それぞれが200人から300人程度。

それが大使館で常駐する人手を出せば、それなりの人数が里から出てしまう。

ならばいっそ全員が、そんな話か。



「ではお二方、いえ、両氏族にご提案です。

先ずはそれぞれの氏族の窓口となる、大使館をカイラールに開くというのはどうでしょう?

少し余裕を持った規模にすれば、200名から300名が生活するには足りる広さだと思います。

里については、内々には確約するものの、大使館を通じた後日の交渉として、表面上は棚上げするのです。我々の仕事をお手伝いいただけるのであれば、食料や生活必需品は配給します」



「おおっ! それでは、是非!」

「お願いします」

「ほっほっほっ、一安心ですな」



三者の声が同時に被っていた。



「ではグレイブ殿、お約束の対価はこれにて……」

「ありがとうごあいます。こちらはお礼の……」



2人はそう言うと、懐から魔石の詰まった袋を取り出し、グレイブ殿に中身を見せて確認を促していた。



「いやっ! 待ってくれ。ここでは……」



「……」



いや、この人も変わらず聖の一族なわけだ。

無償で他氏族の窮状を救済するために動くこと自体、考えてみればおかしな話だ。

やっぱり、彼もぶれていない、そう言うことか。



私は思わず吹き出してしまった。

そして、ふとあることを思いついた。



「お二方、当面の食糧、必需品については、それらの魔石でご用意することができますよ。

グレイブ殿もそう考えていらっしゃったのでしょう。それを対価に、我々と交渉される予定でしたね?」



「あ……、いや、そんな……、も、勿論です。陛下のご慧眼には敵いませんね、

移住には食料や資材など、何かと物入りでしょうから。

私が仲介の労を、と思っていましたが、陛下が直接ご対応いただけるのであれば……」



グレイブ殿は、そう言いつつも涙目になっている。

まぁ、相当の覚悟を以て彼らの救済に動いたのは事実だし、少しだけ可哀そうに感じてきた。



「お二方、今回の仲介の対価として、その半分はグレイブ殿に、そして半分必需品の原資としましょう。

あと、他にも魔石があれば、相応の食糧と交換しますよ。グレイブ殿も含めて」



「なんと! 重力や聖の魔石でも構いませんか?」

「光と闇の魔石、とても沢山持っている」

「そうですか……、は、はい?」



「我々には、重力と聖、光と闇、それらの魔石は非常に少なく貴重品です。可能な限りお譲りください。

グレイブ殿も魔石の余剰があれば、一部は後払いになりますが食料や人界の貴重品と交換しますよ。

私に考えがありますので、この話乗りますか?」



「も、もちゅろんですゅ! ま、魔石は沢山ありますので、是非、乗らせてください!」



へこんでいた彼は、一気に生気を取り戻し、むしろ前のめりに食いついてきた。


私自身、聖の氏族は何かを行う対価に、食料を求めていると思っていたが、魔石でも動くことを知った。

その上で、カマをかけてみたのだ。


もし私の予想が正しければ、聖の氏族はこれまでに、相当な量の魔石を貯めこんでいるはずだ。

だったら、それを活用した儲け口に加わってもらっても良いだろう。



こうして、重力と光の氏族たちはカイラールへと移り住むことになった。

彼らにとっては、処分のしようがない大量の魔石と共に。

もちろん、グレイブ殿は新たに築かれた聖の里とカイラールを忙しなく往復し始め、後日、見たこともない数の大量魔石と共に、私の前に現れた。



短期間で飛躍的に人口が増えた我々には、必要とされる物資も加速度的に増えていた。

食料となる農作物だけは十分に賄える収穫があったが、もう少し作物の種類も増やしたい。

逆に、資材や建材、各種原材料などは、供給が消費に追いつかなくなっていた。

そして、商業施設を本格的に動かすためには、決定的に欠けているものもあった。


この大量の魔石が、それらを解決する一助になるはずだ。

私はそう考えていた。



◆カイル歴1年 カイラール人口:1650人


人外の民   700人

人界の民   250人

時空の氏族   40人

風の氏族    60人

聖の氏族   100人

重力の氏族  200人

光の氏族   300人

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、11月27日9時に【通商派遣】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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