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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十二話 聖との対決

私たちは、先行した750名の隊列を率いて、カイラールへと到着した。

そこには驚くべき光景が広がっていた。


アースたち100名の居残り部隊に、町の工事を依頼して、カイラールを立ったのは一年弱が過ぎていた。

その間、風景は一変していた。


カイラールを取り巻く防壁は、もはや城壁と呼んで差し支えない規模で堅固に張り巡らされており、立派な堀まで周囲には巡らされていた。

入り口には、ゴートの街さながらの、望楼のある石造りの城門があり、城壁で囲われた範囲も以前より心なしか広くなっている気がする。



「カイル殿っ! 遠路お疲れ様です。急ぎお知らせしたいことが……」



私は、隊列の到着を見て、慌てて駆け寄ってきたアルスたちを制して、話しかけた。



「うん、聖の氏族の件は、ある程度事情は承知している。

それにしても、短期間にここまで立派にしてくれるとは、まず、皆の苦労に感謝の言葉を伝えたい。

みんな、本当にありがとう」



「いえ、与えられた任務を全うしただけです。

外側だけでなく、畑も十分に準備しておりますので、城壁内でも当面は十分に収穫を見込めますよ。

あ、いや……、所で奴ら、勝手に一部の水場と農地を占拠し、勝手に聖の氏族の里として居座っています。既にその対価は払った、そう言い張って頑ともしません」



「うん、そんな所だろうね。じゃあ早速始めるとしようか?

アルス、悪いが彼らの代表者を呼び出してくれるかな? 大事な話があるといって」



そう言って私は、悪戯っぽい笑みをアルスに向けた。

彼は私に何か策があるのだろう、そう察したのか、踵を返し走っていった。



暫くして……

聖の氏族長、その他有力者と思える者たちが城門前に呼び出されてきた。

その中で、グレイブ殿だけがバツの悪そうな顔で、最後尾に隠れるように立っていた。



「我らを呼び立てるとは無礼な……」

「話があると呼んでおきながら、馬上で待ち受けるとは……」



口々に何か不満を漏らしていたが、私が一顧だにしなかった。

そして、ひときわ大きな声で話しかけた。



「聖の氏族の方々に申し上げる、この地を切り開き、新しくこの地を治める者として礼を申す。

聖の氏族の領域を通過すること、道を繋ぐこと、相応の対価を以て許可いただいたことに対し、約定通り二か所の中継所を明け渡し、自由にお使いくだされ。なお、約定に定めた通り、我らが通行する際は、中継所と街道の使用権をお認めいただきたい」




「ふぉっふぉっふぉっ、カイル殿でしたかの? 我らこそ礼を言わねばなるまいて。

新しき我らの里、確かに受領させていただく。この地の守りの固さ、安心して暮らせる豊穣の大地は、我らにとって相応しいものとなろうて」



「それはそれは、氏族長のご英断には頭が下がる思いです。

我らと同じく、新天地を切り拓かれるため、武勇に秀でた者たちを選りすぐり、これより先の未開の魔境を旅されると聞きました。

我らも等しく、相応の対価を以て、通行と街道、拠点を新たに構築されることをお認めしましょう」



「な、何を言う! 対価は既に払っておるわ!」



別の一人が、声を荒げて割り込んできた。



「控えよ! 我らが国王陛下と、其方らの氏族長との会話に割り込むとは言語道断! 

無礼にも程があるわ。まして、其方らが言う対価とは、置き去りにしていた足手まといをここまで連れてくるための物であろう! この先の対価とは全く別物であるわ」



ヘスティアが、怒りを露わに怒鳴った。

聖の氏族の面々は、突然の一喝に顔を青くしていた。



「ヘスティア、お前も控えよ。

聖の氏族の方々、先に彼女が申し上げたこともまた事実、我らも今回、先の先例に倣い、500名の食糧一年分、これで通行と、我らの領域内に拠点を構築する許可を出したいと思っている。

もちろん、諸君らが通過した後は、途上に新たに築かれた拠点も、我らの所属に帰することになるが」



「な、な、なにを言う! そんな法外な申し出、誰が受けると思う!」



「貴様! 先の私の言葉を忘れたか!」



ヘスティアは、再び割り込んで言葉を発した者に激怒し、威嚇のための炎の障壁を展開した。

同時に、護衛部隊は全員抜剣して、切っ先を彼らに向けた。



「ひぃいっ!」



割り込んだ男は腰を抜かし、大地にへたり込んだ。



「そもそも法外と申したな! それを貴様の口から聞くとは思ってもみなかったわ。

我らが交渉に訪れた折、その法外な対価を要求してきたのは貴様自身ではないか!

自身の記憶が、羽を生やして彼方にでも飛び去った、そう言いたいのか!

陛下は同じ条件で、そう仰っている。それが最大限の譲歩だと分らぬのか?」



全く打ち合わせはしていなかったが、当初から彼らの対応に当たっていたアルスも、私たちに調子を合わせて参加してきた。これまでの経緯もあり、よっぽど彼らには業を煮やして来たのだろう。



「わ、我らは、この地を新しい里と定めることに決めたのじゃ。よってこの地は……」



「陛下、どうも彼らは陛下の臣民になりたいと申しているようです」



アルスが長老の言葉が終わりきらぬうちに、独自の見解を上書きした。



「そうか……、新興の小なりとはいえ我が国も、新たに臣民となる者なら歓迎したいが、アース、この場合いかなる対応が相応しいかな?」



「はっ! 氏族としての集団を捨て、我らの一員となる場合なら、他のものと同様、適性に応じ各部署に配して働いてもらうことになります。ですが……、氏族としてのまとまりを欲するならば、土地を貸し与えて使用料を課し、その人数に応じて毎年税を課す、そんなところでしょう」



「人外の民風情が、正当な血統を持つ我らに対し、言葉を知らぬか!」

「我々から使用料だと? 流浪の民風情が何を言うかっ!」

「我々に氏族の誇りを捨てろと言うのか!」

「この地に王国だと? その増長ぶり、我慢がならんわ!」

「この土地は我らが接収する。早々にどこへでも出ていかれよ!」



彼らは顔を真っ赤にして激高し、愚痴口に私たちを口汚く罵り始めた。



「おい、貴様! そうだ、最後にこの地を接収すると申したお前だ。

貴様の言葉は氏族の長と同じか? 我らの切り拓いた王土を奪う、そう言ったのか?

そうであれば是非もなし! ローランド王国からの侵略者、1,600名を退けた我らが手腕、戦場で相まみえ諸君らにお見せすることになるが、よろしいな?」



私の言葉とともに、護衛部隊と魔法士たちは、即座に戦闘隊形を取り始めた。

戦いも是非もなし、そう宣言した私の言葉に、聖の氏族の代表者たちは再び真っ青になって、がたがたと震えだした。


いや、青から赤、そして青へと、せわしないことだ。

これで彼らは、我々が他の氏族とは違うこと、まして、ただ唯々諾々と彼らの要求に従う者ではないことを理解したはずだ。



「も、申し上げます! カイル王陛下に申し上げます」



そう言って後方から飛び出し、一番前に出て土下座しているのはグレイブ殿だった。

彼自身は、一度こっぴどくお仕置きお受けているので、恐らく今回の氏族の対応にも反対派だったのだろう。以前は氏族の代表として出てきていたのに、今回は最も後方に控えさせられていたのもそのためか?



「我らは大きく勘違いをしておりました。どうか、外の世界を知らぬ我らの非常識をお許しください。そしてお願いがございます。我らにも、安心して暮らせる大地を、そこで生きる喜びを分け与えくだされ。陛下の臣民となるにあたり、条件面は今後の交渉の余地をいただけるよう、伏して、伏してお願い申し上げます」



「グレイブ殿か、久しいな。どんな理由があるにせよ、氏族と刃を交えることは私の本意ではない。

もし氏族こぞって、我らの切り拓いた領域に移住される、その前提で考えてよろしいかな?

そして我らに、安全に住まうことができる氏族の里を、新たに求めていらっしゃると?」



そう確認すると、グレイブ殿は大きく頭を上下に振った。



「では、この国に参加されるにあたって、以下のことを受け入れるならば、私も矛を収めよう。

ひとつ、聖の氏族は新たに王国の臣民として、この国に参画するものとする。

ひとつ、氏族としての固有性、独自の組織を持つことは、王国としてその権利を認める。

ひとつ、近隣に聖の氏族が独自に暮らせる、安全な土地を我々が責任を持って提供する。

ひとつ、それができるまでの間、カイラール内での居住地と食料を得る手段を提供する。

ひとつ、聖の氏族は、これらの対価として毎年、定められた人数を労働力として供出すること。

ひとつ、カイラール内に、氏族の代表が駐留できる大使館を用意し、王国はここを通じて話をする。

なお、私からは交渉役、この大使としてグレイブ殿を強く推薦する。なお大使は、聖の氏族の中でも、氏族長に次ぐ立場、確固たる地位にあることが望ましい。以上だ」



事前に大使館の構想を練っていた時、このあたりのことは既に議論し決めていた内容だ。

大筋はこれとして、細かいところは交渉の余地として、あえて残している。



「寛大なるお言葉、感謝に堪えません。誠にありがとうございます」



そう言うとグレイブ殿は立ち上がって振り返り、後方でへたり込んでいる面々を睥睨した。

彼以外の全員は、項垂れたまま呆然としていた。



「氏族長、各々方、よろしいですな? 我らが未来に向かって生きる道はこれしかありませんぞ。

しかも、我らが望んだ以上の、望外なご配慮までいただいているのです。受け入れられぬ方々は、どうか里に戻り、狭い了見の中で滅ぶ日まで、独自に暮らしていけばよい。私は誰もお止めしません」



どうやらグレイブ殿に反対する気概を持つ者は、誰一人としていないようだった。

彼らは一様に、ただ項垂れて大地の一点を見ていた。



「カイル王陛下、どうやら一族の意見も決したようです。ですのでこの場は何卒……」



グレイブ殿は再び跪き、頭を下げた。

それを見て私は、無言で鷹揚に頷いて対応した。



「カイル王万歳!」

「カイル王国万歳!」

「我らの王と、我らの王国に幸あらんことを」

「王都カイラールに栄光を!」



アース、ファル、ヘスティア、アルスなどが一斉に王声で叫ぶと、何故か事前の打ち合わせ(わるだくみ)に参加していなかった者たちも、それに呼応して大きな声で叫びだした。

何故か……、遅れて先程王都に到着した、中継所から引率してきた、聖の氏族の面々も……、大きな快哉の声をあげていた。



こうして、聖の氏族との騒動は解決した。

ただ、この件がカイルたちには大きな変革をもたらすことになっていった。


実はこの場に向かう前、聖の氏族と相対する前々日、カイルたちはアベルを除く5人の仲間たちと、対応策を議論していた。

そのなかで、ファルケが冗談交じりに行った提案に、ゴウラス男爵やファル、アーズ、ヘスティアたちも同意し盛り上がっていた。

カイルひとりを除いて……


・彼らの主張を一切認めず、こちらの想定で話を進めること

交渉きょうはくにあたり、カイルをカイル国王として定めて対応すること

・彼らの前では、国王に相応しい礼を取り、体裁を整えるとともに、相手の無礼を厳しく咎めること

・小なりとしても、カイラールを王都、一帯を王国領として領有権を主張すること

・話し合いの流れによっては、彼らを侵略者として、毅然とした対応をとること


その場でこのような事が、なし崩し的に決まってしまった。

不承不承、その場凌ぎで王として相対することを了解したカイルだったが、その後も仲間たちは王として相対することを改めることはなかった。


このような、冗談交じりの悪戯心から始まったことが、その後500年に渡り隆盛を誇り、他国にも引けを取らない勢力を持つに至る国家、カイル王国が誕生する契機となった。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、11月20日9時に【氏族たちの合流】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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