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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第五十一話 目には目を

聖の氏族、都合400名の同行者を伴い、我々はカイラールに向けて旅立った。

まず最初の難所は、水棲の魔物たちが溢れる河の渡河だったが、広い河川敷部分には、先行した地魔法氏たちが新たに土壁を築いていた。この土壁は以前に構築した石橋まで続いている。



「みんな、石橋の幅はそんなに広くない! 左右を火魔法士たちが守っているので、急ぎ駆け抜けてくれ! その先、森の中の長城まで走り続けてくれ」



私は全員を叱咤した。予め入念に準備していた我々は、全て騎馬に乗っているか、馬車や荷馬車を用意しており、徒歩の者はいない。唯一足が遅いのは、最後尾を移動する家畜ぐらいだ。


だが、聖の氏族はそのほとんどが徒歩であり、老人や子供たちもいる。

まして、荷を満載した荷車を引いている者さえいる始末だ。そのため彼らの歩みは非常に遅い。



「ちっ! 迷惑な奴らだな。こう隊列が長くなったら、護衛も人手が足らんわ。

仕方ない、足の遅い者は予備の荷馬車に、荷車は替え馬に曳かせろ。乗せてやるのは老人と女子供だけだぞ」



なんだかんだ言いながら、ファルケは彼らの面倒をちゃんと見てくれている。

口調は荒いが、基本的に優しい男だ。だからこそ、ファルケが率いる護衛隊の一部は、追加で合流した400名の護衛専属としている。



「ゴウラス男爵、申し訳ないが直属の100名に魔法士を何人か付けます。引き続き最後尾と家畜の護衛をお願いします。先頭のヘスティアとアースに負担が掛かっていると思いますので、私はそちらを支援に参ります」



「承知しました。我らもここ一年、魔境での暮らしで成長しました。最後尾はお任せください。

全員、ここが正念場だ! 魔物を橋や長城に取りつかせるなよ。左右で連携しつつ戦いながら移動する」



男爵とその兵たちが、以前と比べ見違えるような動きをしているのを見て、安心した私は、橋を騎馬で駆け抜け、隊列の先頭へと移動した。



「いいかい、長城へと繋がるスロープが私らの泣き所だ。一匹も魔物を通すんじゃないよ!」



そう指示しながら、ヘスティアは自らも火魔法で火炎の障壁を展開しつつ、陣頭で魔物と戦っていた。

アースは長城へと続く緩やかな傾斜部分に侵入した魔物を、掃討するため戦っている。



「すまない! これより先頭の露払いに私も参加する」



私は火の氏族より餞別に貰った、日本刀に似た長刀を右手に、愛馬から飛び降りるとスロープを駆け上った。この刀は、私が以前に火の氏族に依頼して作ってもらった、日本刀に似た形状の刀剣に、彼らの工夫を加えた逸品だった。


この辺りの森は、河も近いことから水棲の魔物と、陸棲の魔物、双方が入り乱れて襲ってくる。

アースたちを取り囲んでいた黒狼や魔狼たちを、次々と袈裟懸けに切り斃していった。



「火魔法士たちは、水棲の魔物を、硬い奴らを集中的に狙え! 刀が通じる相手は、引き受けた!

アース、先行して長城までの通路を確保してくれ! ソラは魔物の死骸を排除して、道を開けてくれ!」



先頭集団は、それぞれの特技に合わせ、懸命に襲い来る魔物たちの排除に努めた。

そしてその後、体感だとどれくらい時間がたったか分からないが、実際は二時間程度だったかも知れない。我々はなんとか、最後尾の家畜に至るまで、無事長城の城壁上、安全地帯に導くことができた。


安全地帯である、城壁上での行軍になってからは、私たちにもやっと軽口をたたく余裕もできてきた。

この先の相談をするため、私はファルケ、アーズ、ヘスティア、ファル、ゴウラス男爵を伴い、先頭を進んでいた。



「ふう、足手まといが400名もいると、予想以上に手こずったな。奴らはこんな体たらくで、よく魔境で生き延びてきたな」



「ファルケ、聖の氏族の中には、お前さんの護衛部隊と同じくらい腕の立つ奴らはいるらしいよ。

もっとも、そいつらは皆、さっさと氏族長と共にカイラールに移動しちまったらしいがね」



「ヘスティアのいう通りだとすると、それはそれで許せんな。足手まといは俺たちに押し付けて、ということか?」



二人の会話にファルも割って入り、ファルケの疑問に答えた。



「以前にアルス言っていたが、奴らは強欲で高飛車だ。どうやらこの地には、奴らしか治せない疫病があるらしい。だからどの氏族も奴らを頼るしかない。その結果がこれだ。きっと奴らは、俺たちのことも使い手のある、駒とでも思っているのだろうよ」



「度し難い奴らだな、少なくとも氏族の上層部は……」



最後のファルケの言葉に、全員が同調したのか、無言で頷いていた。



「なーに、俺たち以上にカイルさんは怒っている。いや、激怒していると言っても構わないだろう。

向こうに付いたら、きっちり奴らをとっちめてくれるさ。足手まといの彼らには罪はない」



問う言ってアースは笑いながら私を見た。

ん? 私が激怒している? 確かにそうだが……、傍から見てもそう見えるのか?



「そうですな、カイル殿は常に弱者の味方でいらっしゃいます。決して弱い者を見捨てません。

だからこそ、魔の民の血統を持たない我らも、貴方に付いて行こうと思ったのですから」



「男爵、私は顔に出ているのだろうか? 激怒しているように見えるのだろうか?

表向きは取り繕っているつもりなのだが……」



「ほらね、やっぱり怒ってる」



「俺たちも長い付き合いですぜ。旦那は怒ると無口になるからな」



ヘスティアとファルケがそう言うと、皆が一斉に笑っていた。



「と、取り合えず話を進めよう。次の、最後の中継所の件だ。仮設であっても余裕を持って作っているとはいえ、この人数だ。400人も増えたら手狭になるだろう。そして今の速度じゃあ、夜までに着かない。

なので、隊を二分する。

荷馬車と騎馬で進める者たちは先行して進み、中継所で食事と休息、睡眠をとってくれ。聖の氏族たちと家畜、その護衛については、申し訳ないが今の速度で進み、今夜は城壁上で仮眠を取る。

そして明日、日が昇るころに先に進んだ者たちと交代で中継所に入ってくれ。

私たちは先行してカイラールに入り、ごたごたを片付けておく」



「承知しました」



「承知した。俺も奴らには言ってやりたいことは多々あるが、そこはカイルの旦那に任せるよ」



男爵とファルケが了解してくれたのを見て、私は自身の考えを披露した。



「今回の一件、そして以前、クレイランド中継所を構築していた際の件もある。余所者である我々は、できれば各氏族と良好な関係を構築したいと考えていた。だが、今回の件で考えを改めた。

我々は彼らとは一線を引く。彼らの傲慢には釘を刺しておく必要がると考えている。

詳細は……」



そう、郷に入れば郷に従え、この言葉は故郷である日本でもよく言われた言葉だ。

新参者として分をわきまえることも大事だが、自身の権利が侵されたときには、高圧的に出ることも必要だろう。

目には目を、だ。



「なるほど、ならいっそのことこうしないか? 奴らに対して……」



ファルケが、ニヤニヤしながら提案を行った。



「あはは、ファルケ、あんたは人が悪いね。でも、面白いかもね」

「私は真面目に大賛成ですね。我らも今後は相手を選び、鏡のごとく対応を進めるべきでしょう」

「目には目を、ですか。私も大賛成です。傲慢な奴らをとっちめてやりましょう」

「ふむ……、そうですな。この先のことを考えると、今がちょうど良い機会かも知れませんな」



面白がるヘスティアと真面目に賛成する、ファル、アース、ゴウラス男爵がそれぞれの思いを吐露し、この議論はいつしか、私ひとりを置いてきぼりにして白熱していた。



『……、なんかお前たち、人を餌にして楽しんでいないか?』



思わず喉元まで出そうな心の声を、私は何とか飲み込んだ。

それぞれが聖の氏族のやりように、相当ストレスを溜めていることが、十分にわかっていたからだ。


この議論は、この先思わぬ結果をもたらすことを、ここに参加していた全員がまだ知る由はない。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は、11月13日9時に【聖との対決】投稿する予定です。

どうか何卒、よろしくお願いします。

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