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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第四話 不吉な暗示 隠れ里建設

私が集落に訪れてから、彼らの暦で半年が経った。


この頃になると、魔法士の数も更に増え、総勢39名となり、魔境での狩りや集落での暮らしも大きく変わりつつあった。

もちろん、良い方向に。



狩りの安全性は飛躍的に向上し、入手できる魔物素材の数や量は、以前の数倍になるなったが、それと同時に、集落に近い魔境ではめぼしい魔物が狩りつくされてしまい、我々の狩場は、より奥地にある魔物たちの棲息圏へと移っていった。

その結果、集落の近隣の森は安全地帯として、これまで以上に開墾が進められていった。


そうなると、集落の暮らしは以前と比べ格段に豊かになり、誰もが飢えで苦しむことはなくなった。

ただその反面、近隣の魔境では、新たに属性を持つ魔石を得ることもなくなり、その点について、里の誰もが限界を感じつつあった。



そんなある日私は不吉な夢を見た。



-----------------------------------------------------------------------


商人に導かれた役人が、収穫の時期の集落に突然訪問してきた。



「うむ……、確かにここは安全圏となったようだな。

ここに新たな開拓地を建設し、王国に貢献する地として、新たに役割を持つこととなる。

其方たちは早々にここを立ち去れ!」



役人は安全となったこの地に、新たに人界の民の開拓地を作るため、里の人々には退去するよう命を下す。



「そんなご無体なっ!

我らにどこに行けと仰せですか?

里を失えば、我らの暮らしは立ち行きません」



この突然の無情な申し出に対し、縋り付き情けを乞う長を、役人は蹴り飛ばし暴行を加えた。



「無礼なっ! 触るでないわっ!

そんなにここに住みたければ、税を以前の倍ほど収めるがいい。農地とすべき土地は十分にあるだろう?」



役人はそう言い放つと、冷酷に笑った。


その傍らで、役人を導いた行商人も笑いながら長を蹴り始めた。

あの男は以前、魔物に襲われた際、里に向かって逃げたことで、里に魔物を導いた男だ。



「貴様ら、何てことしやがるっ!」



この状況に我慢ならなくなったひとりの若者が、役人に対して火魔法を使い脅かした。

驚愕した役人と行商人は、腰を抜かして逃げ去った。



その出来事のニ日後、突然王国の兵士たちがこの集落を襲撃してきた。

魔法士となった里の者たちも必死に戦ったが、不意を衝かれ数に勝る兵士たちに次々と討ち取られていく。


逃げ惑う、集落の子供たち、彼らの無慈悲な刃が振り下ろされていった。

集落の中で、私の目を覆うばかりの惨状が、至る所で繰りひろげられていく……

私は絶叫しながら、剣を手に彼らに突進していく。


-----------------------------------------------------------------------



私はそこで目が覚めた。

まるでそれは、先程まで自身がその中にいたような、現実感のある夢だった。



「確かに、今後その可能性は十分にあるな……

そして、実りの時期まで、まだ十分に時間がある」



そう呟くと私は決断し、直ちに行動を始めた。

この村は格段に豊かになりつつある。

今後、それに目を付けられる可能性は高い。


集落の長を訪れると、ある提案を行った。



「長、そろそろ視点を変えませんか?

魔法士を復活させることは継続するものの、今後は重きを置く点を変えるべきだと思います。


まず一点目として、集落以外に安全な場所、隠れ里の確保を進めませんか?」



彼らには魔の民、人外の民として忌み嫌われ、迫害されてきた歴史があった。

万が一、魔法士が復活したことが人界の民に知られれば、また何をされるか分からない。


私は常々、魔境の中に隠れ里、安全な魔石収集と狩りの拠点、万が一の際、逃げ込める場所を作ることを考えていたので、今回見た夢が、その思いを一層強くさせていた。


もちろん、夢で見た内容は伏せていたが、潜在的に集落が抱える危険性と、万が一、魔法士の存在が露見した時の危険性を力説した。



「二点目として、今の我々には、空間収納が使える魔法士が2人います。

そして怪しまれないように備蓄した、まだ行商人には出していない魔物素材もかなり貯まっています。

これらを使い、我ら独自で交易を行いませんか?」



私は、以前から交易で時折訪れる行商人にも警戒していた。

彼らには競争相手もなく、集落の者たちは彼らの言い値で取引するよりなかった。


彼らが、わざわざ危険を冒してまで辺境に出てくるには、買い取った素材が我々に提示する買取金額より遥かに高値で売れる、そんなうまみがあるに違いない。


そう私は考えていた。


彼らの態度が、常に横柄で尊大だったことも、私には納得がいっていなかった。


彼らは、人外の民を見下しているのではないか?

そう思えるふしも何度もあった。



「我らはもう少し力をつけるべきです。

そして将来は、人界の民の中で細々と暮らし、滅びに瀕した同胞も救っていくべきでしょう」



「カイル殿、最初の案は儂も異存はない。いや、むしろそうしたいと思っていた。


じゃが二番目の案は、少し難点があっての。

我らは魔の民の地を引いている証として、髪の色や目の色に特徴の有る者が多い。

一度ひとたび人外の者と分かると、彼らはまともに取引してくれんのじゃ」



「そうですね……

対策として、交易に出る者はできる限りその兆候の少ない者をあてます。

いざとなれば髪は短く切り揃え、頭には装飾を施した布を巻きましょう。


商隊は輸送に当たる空間収納を持つ者を配し、護衛にあたる魔法士たちは、下僕や従者に見せましょう。

こういった形で体裁を整えるのはいかがですか?


差し当たり交易で、食料、種や衣服、道具類買い揃え、隠れ里を構築する資材を集めましょう。

そのために、先ずは外の世界と繋ぎを付けましょう」



私の提案は長から同意を得ることができた。


私達は、同胞を救うことを今後の大きな目標として設定し、そのための手段として、隠れ里の建設と独自の交易を開始すること、これらを並行して進めることにした。



そこから私たちは、驚くべきほどに迅速に、目標に向かい動き出した。



まず隠れ里は、森を抜け魔境を半日と少し進んだ場所、そこに設置することが決まった。


そこは比較的平坦な地形が広がり、豊富な湧水がある場所だった。

川は便利だが、川に棲む魔物もいるため、迂闊に川の流れに近づくことはできない。

だが、湧水なら、その湧き出し口を押えることができれば安全だ。


場所が決まると、かなり余裕をもった広さで防壁を建設し始めた。


6人の地魔法士たちが、堀を削り出し、その掘り出した土を防壁として盛り上げる。


数週間後には、私の故郷の単位なら、約1キロメートル四方の、堀と防壁に囲まれた安全地帯が魔境に誕生した。



次に、時空魔法士たちが、建築に使えそうな目ぼしい大木と、岩々を次から次へと収納する。

そうすると、安全地帯の内側は、低木と草地が広がる場所となった。



この作業が完了した場所から、火魔法士たちが火の壁を作り、風魔法士たちがその火を風で煽った。


草木を焼く火の壁は、徐々に防壁側へと移送し、その囲みの中に居た魔物は全て、こんがりと火に焼かれ一掃され、燃えた木々、草木は灰となり大地を養分で満たした。


そうなった大地を、地魔法士たちが整地していく。



水魔法士たちは、湧水から湧き出す水の流れを変え、地魔法士が縦横に張り巡らした水路につなぎ、防壁内の元あった水の流れは枯渇した。

そして、壁の中の水辺にいた、水性の魔物たちは全て討伐もすることができた。



こうして、安全圏内に人が生活でき、同時に農耕も行える場所が生まれていった。


湧水は水路を巡り、最終的に防壁の外側を取り巻く堀へと接続された。

この堀は、ある程度の水量を蓄えると、その後は、本来湧水が流れ込んでいた川に接続する予定だ。


そして、この安全地帯には、東西南北の4か所に強固な門を作り、この部分だけは土壁の上に石を積み、強固なものにしていく予定だ。


これらの作業も、時空魔法士がいることで、通常の工事では考えられない人数で対処ができる。



半年もしないうちに、魔境の中にありながら、人が安心して住まうことのできる場所、隠れ里が完成した。

もちろん、住居や畑などはまだ全てが完成している訳ではないが、先ずは移住するに十分な器は整った。



「さて、何とか収穫の時期の前に間に合ったな。

後は、不吉な夢が現実にならないことを祈るばかりだが……」



隠れ里に設けられた門の一角、その上に設けられた見張小屋に立ち、私はひとり呟いた。



<魔法士総数 39名>


火魔法士  9名

地魔法士  8名 

水魔法士  6名 

風魔法士  5名 

聖魔法士  5名 

雷魔法士  3名 

時空魔法士 2名 

光魔法士  1名

氷魔法士  0名 

音魔法士  0名

闇魔法士  0名

重力魔法士 0名

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は明日9時に『交易の開始』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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