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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第四十五話 光の迷宮

中継所ネルを出発し、地の氏族の領域、アースガルドを抜けると、周囲の景色が一変した。


明るい陽の光が差し込む林と草原が広がっていた。

そこの風景を見て、誰もがエストールの草原を思い起こした。



だが、見た目は似ていても魔物たちの密度は全く異なっていた。


牛ほどの体躯の巨大な猪であるカリュドーンや、硬い皮膚の装甲に包まれ、三本の巨大な角を持つ牛に似た魔物トーラス、4本の腕を持つ凶暴な熊の魔熊、以前は慣れ親しんだヒクイドリ、灰色狼や黒狼、魔狼など、魔物たちは次から次へと出現しては襲ってきた。



草原や林は見晴らしもよく、魔物の接近もすぐに察知できる。


事前にアクアによりハラッパーと名付けられた、草原の中にある中継所を拠点に私たちは、食用となる魔物(猪、牛、鳥など)の狩を全力で勤しんだ。


その結果、大量の食糧としての肉類の備蓄ができたため、久々に肉類で満たされた食事を摂り、我々は英気を養うことができた。



討伐も一段落したところで、我々はこの草原を越えた奥地にある、次の中継所を目指した。

その行程では、ここ数日の討伐で一気に数を減らしたのか、魔物が襲撃してくることはなかった。


その結果、光の氏族が住まう領域の南端に設置した中継所まで、順調に隊列を進めることができた。

因みに、次の目的地である、光の氏族の森の中継所は、アクアによりイルミと名付けられている。



草原の境界から、その奥に延々と広がる森、光の種族の領域に入った途端、再び景色が一変した。


鬱蒼と生い茂った木々が緑の天蓋を作り、陽の光が差すこともなく、昼でも薄暗い森は、入った途端、方向が全く分からなくなる。不用意に足を踏み入れると、方向感覚を失い、遭難してしまいそうに思えた。


この地をよく知る、地魔法士の案内がなければ、我々もきっと道に迷っていただろう。


光魔法士たちは、まるで何かから隠れるように、この自然が織りなす迷宮の奥深くに、ひっそりと暮らしているらしい。



まず我々は、この森の入り口に作られた中継所を拠点に、近辺の調査と狩を行った。


この辺りには、これまで我々が対峙したことのない、未知の魔物も多いため、安全な拠点を後方に確保し、討伐の経験を積むことも大事な過程だった。


機会は少ないが、この近辺では希少な光属性の魔石を持つ魔物とも出会える可能性があるらしい。



10日ほどは、狩をしつつ道を奥に広げる作業を繰り返しただろうか?

我々は初めて、光の氏族と邂逅かいこうすることとなった。


彼らは警戒心が非常に強いらしく、基本的に他の氏族と交流を持たないらしい。

例外として、地と火の氏族だけに門戸を開いている。



「カイルさん、数人の足音と思われるもの、左手よりゆっくり近づいています。恐らく……、人です」



「全員! 左を警戒っ!」



ソンナ合図に咄嗟に声を発した私たちは、左を見据えて身構えた。



「ひっ!」



思わずソンナが短い悲鳴を発した。

約50mほど先で木の幹に身体を隠し、顔だけ半分覗かせてこちらを窺っている者たちを発見したからだ。


正直言って……、その様子は不気味だった。

同様に怪しげに顔を半分だけ覗かせている者たちが5名いた。その様子は見てて気持ち悪かった。



「カイル殿、大丈夫です。

彼らは常に警戒心が強く、いつもあんな感じです。事前に分るよう知らせてはいたんですが……

口の悪い奴は、光の氏族は変人揃い、そう言う者もいるくらいですから」



地のネール氏族長から派遣されていた案内人が、苦笑しながら説明してくれた。


そう言えば彼は、この森に入ってからというもの、奇妙な三角形の旗を手にしていた。

これが地の氏族の者であるという証らしい。



「彼らの仲間がいることを教えてみよう。

ネオ! 光魔法を加減して放ってみてくれ」



ネオの発した光が、優しく暗い森を照らした。

そうすると驚くべき返事が返ってきた。


まるで探照灯サーチライトの様な、真っすぐに伸びる光が、明滅めいめつしこちらを照らす。



「ほう? 発光信号か……、こういう使い方もできるのか!」



私は感嘆せずにはいられなかった。

海軍では無線封止の中、僚艦との連絡で発行信号を使うことがある。


この暗い森の中で、指向性のある光で発行信号を使えば、遠距離でも交信が可能だ。

彼らは、こういった通信手段を確立し、その身を守っているのだと理解した。



我々が為す術もなくただ立ちすくんでいるのを見て、やっと彼らはこちらに向かって歩いてきた。

初めて見る光の氏族は、一様に銀髪で薄い茶色の目をしていた。



彼らはネオのすぐ前まで進むと、不思議そうにネオを無言でじっと見つめている。

5人の異様な風体の男たちに囲まれ、彼女は困惑していた。



「カ、カイルさん……」



うん、不気味で気持ち悪いんだろうな。

私がネオだったら鳥肌が立っているだろう。



「彼らとネオさんの容姿が余りにも違うので、彼ら自身も同じ光魔法の使い手として、困惑しているのでしょうね。少しだけ我慢してくださいね」



ネオに取って、拷問のような数分間が流れた。

彼らはネオの周囲をぐるぐる回って観察していた。



「違う……な、あ、あまりにも違う。

だが、彼女の光、我らと同じ。濁りない、闇を祓うもの。

認める、同族だ、彼女は」



やっとのことで、そのうちの一人が言葉を発した。

ネオは実際、青みがかった髪に、薄い緑の目をしており、外見上の類似性は全くないと。



「ネオを認めていただき、ありがとうございます。

彼らを長として率いているカイルと申します。

実は我々には他にも7名の光魔法士がいますが、全員、皆様とはかなり違った容姿をしています」



「信じられない。

だが、彼女は本物。納得する。

君たち、敵ではない。我々を害すること、ない。確認した。

約束通は守る。領域の通過、許可するが、できれば食料、私たち分けて欲しい。

我らの里、恵みはとても少ない」



彼らの多くはとても口数が少なかった。

しかも口調は独特で短い単語で会話するような特徴があった。


常日頃から、発行信号にて会話できるよう訓練するため、極力言葉は使わないそうだ。

彼らの口調に抑揚がなく、しかも独特でぶきらっぽうなのは、それが原因だと分かった。



我々は、彼らに食料を与え、代わりに魔石と彼らの領域を抜けるまで、護衛を引き受けてもらった。


この森の難点は、擬態して待ち伏せする魔物が多いことだと分かった。

いわば森自体が、大きな罠として機能しているようだった。



それらの魔物たちは、光魔法で強い光を当てられると、擬態をやめ逃走したり、目を回したりして回避できたが、一部の魔物は逆に襲い掛かってきた。


魔物たちは基本的に強い光を当てない限り、擬態したまま延々待ち伏せを行っているようで、一旦森を切り拓いた街道を通してしまえば、街道を外れない限り、襲われる心配はないようだった。


我々は、光の氏族を先頭に道を切り拓き、森の中に左右10メートルほどの街道を通し、街道の中央部分だけを通るようにした。


そうすると、先頭以外は全く魔物に襲われることなく、このうす暗い森を無事抜けることができた。



我々身体に当たる陽の光を感じた時、誰もが歓声を上げずにはいられなかった。

残るは、この先にある聖の氏族の領域を抜ければ、さらに奥地にはどの氏族も住まうことのない、広大な未開の大地が広がっている。


我々は希望に胸を膨らませた。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は一週間後、9/24の9時に『強欲なる者たち』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。


【お詫び】

9月3日の投稿以降、外伝の投稿は週一回のペースとなりますこと、お詫び申し上げます。

(8/24付 活動報告)

大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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