第四十三話 氏族との関わり
エストに仮の拠点を定めてから、もうすぐ3度目の収穫を迎えることになった。
大地は黄金色に実った穂が広がり、収穫の喜びでエストの民たちは沸いていた。
「アルス、そろそろだと思うが、進捗を確認したい。
この先の氏族との交渉状況も含め、中継所の進み具合も教えて欲しい」
「はい、ファラム殿の紹介で、地の氏族とうまく繋ぎを付けれたことが大きいです。
彼らは、鉱石を求め広大な魔境を探索しております。
そなため、当面必要な情報を彼らから得ることができました」
「では、目的地となる場所も見つかったと?」
「ファルケ、その通りだ。
この先、地の氏族、光の氏族、聖の氏族の領域を抜けた更に奥地、この広大な魔境の中心と言われる部分に目的地はある。その一帯は、どの氏族も里を設けていないし、氏族間の交易を通じ、火、水、雷の氏族からはそこに我々の里を拓くこと、了承は得ている」
「アルス、他の氷、音、重力、闇の氏族どうなっているの?」
「ヘスティアの指摘通り、氷と音は我々とは反対側の、北の果てにあるため、繋ぎが付けれていない。
地の氏族によると、氷と音の氏族は北の果て、魔境の先にある国と交易しているようだ。
こちらの時空、風の氏族と同じようにな」
「問題は、闇と重力か……」
「はい、カイルさんの指摘通り、闇と重力は所在自体が不明です。
裏で氏族を束ねているという、闇の氏族には、早めに話を通しておきたいのですが……」
「今所在が分からぬ2氏族、遠く離れた2氏族は、おいおいで構わないだろう。
取り急ぎ、光の氏族までの中継所だが……、そこはどうなっている?」
「地の氏族の領域抜け、光の氏族の領域に入ったところまで、一時滞在も可能な4か所の中継所と、移動中宿営可能な避難所5か所、この全てが完成しています。
その先の聖の氏族ですが……、ちょっと変わっておりまして、これからです」
「それって、あの話ですか?」
「ああ、ファルの想像の通りだよ。
地の氏族から言われていた通り、中継所の建設や通過を許可する代わりに、対価を要求してきた」
「噂通り、守銭奴ってことか?」
「ファルケ、笑い事じゃない。
奴らはその対価として、食料としての穀物、400人分を賄う1年分を要求してきた!
他の氏族は、我々が通過後、作った拠点を譲ることで喜んで承認してくれたと言うのに……」
アルスの憤慨はもっともなことだと思った。
400人の一年分の糊口をしのぐ量といえば、余りにも膨大であり、我々の備蓄を大きく損なう。
ただ、彼らも必死なのだろう。
ただでさえ聖の氏族の魔法は攻撃に向かない。
そのため、狩りも人界の民と同様、魔法の助力なしで行わなければならない。
魔境の中で生きるには、非常に苦しい立場だ。
各地に聖魔法士を派遣して、その対価を得ているとはいえ、暮らし向きは厳しいだろう。
そこに、絶好の商談機会が転がり込んできたのだから。
「仕方がないか……
払うことで決着をつけよう。但し、対価の半分は建設前に、残りの半分は我々が全て通過後だ。
そして、我々の移住は先遣隊と、一年遅れで補給部隊、これで対処しよう。みんな、どうだ?
男爵率いる100名は、補給部隊を守り後衛として残留して欲しい」
「我々もお供に、そういう思いもありますが……
新たな地を切り拓くには、魔法士の方々の力は欠かせないでしょう。
承知しました。我らでエストは守り抜き、備蓄を増やすことに専念いたしましょう」
ここ2年でゴウラス男爵旗下の100名も、魔境に生きる者として修練を積み、練度は上がっている。
それぞれが、ファルケ率いる護衛部隊に引けを取らない所まで来ている。
だからこそ、安心して後衛を任せることができる。
その意図を即座に理解してくれたことは、私にとってもありがたかった。
「男爵、ありがとうございます。
アルス! 男爵軍以外の戦闘部隊、建設部隊を中心に、250名を先遣隊として編成して欲しい。
平行して、収穫が終わるまでに狩りを進め、先遣隊と後発隊の食糧、肉類を大量に確保する。
先遣隊の出発は収穫が終わったあと、翌年の春までになんとか中心部まで辿り着きたい。
みんな、それで良いかな?」
「応っ!」
「はい!」
「承知っ!」
方針が決まり、全員の顔が明るかった。
※
方針が定まり、中継所エストでは一斉にその準備が行われた。
ここ3年の努力の結果、人口は増えたものの耕作地も飛躍的に大きくなっていた。
中継所の外壁に守られた場所は、全てが耕作地や放牧場として活用されており、それ以外にも新たに建設した外壁に守られた耕作地が2つある。
税として作物を収める必要がないため、収穫物の備蓄も順調に進んでいる。
また、交易も順調に進んでいる。
エストに来て2年目からは、地の氏族の紹介もあって、他の氏族との交易も始めていた。
地の氏族は、その名の通り、大地を友として生きている。
大地のように大らかで、その気性は穏やかな者が多い。
彼らは、魔境の各地で鉱物を収集し、それを主に火の氏族に売り、物々交換で対価を得ていた。
また、地の氏族の領域では、黒石と彼らが呼ぶ石炭も産出していた。
これらは、鍛冶の用途で火の氏族に重宝され、暖を取る目的でも各氏族に利用されている。
彼らが各地から収集する鉱物の中には、鉄、銅、金、銀などもあった。
持ちつ持たれつの関係で、特に火の氏族とは非常に仲が良いそうだ。
火の氏族は、こちらも名前の通り、火を友として生きている。
氏族として全体的に感情の起伏は激しいが、気に入られると非常に親身に対応してくれる。
彼らは、魔境の中で鍛冶場を作り、剣や農機具、道具類を作っている。
彼らの存在を知り、わざわざゴートで製品を買わずとも、魔境内で入手できたことに驚いた。
鍛冶の他、ガラス細工や陶芸も行っており、生活用品を彼らから贖うことができた。
最初の挨拶で訪問した際、ゴートで入手した製品を持っていくと、非常に喜ばれたので、時折、彼らの作っていない製品や珍しい物を持参し、いつも交易隊は歓迎されている。
光の氏族は、他の士族に比べ人数も少なく、奥地にひっそりとくらしているらしい。
彼らの住まう領域は、宝飾品の原石となる鉱物や、ガラス製品の素材となるものを産出し、両隣の地の氏族や火の氏族との関係は深いらしい。採掘には地の氏族の力を借り、製造には火の氏族の力を借りる。
持ちつ持たれつの関係ができているとのことだった。
私たちはこの2年間、進路上の2氏族と、その両方に境界を接する火の氏族と交流を深めてきた。
後は、聖の氏族だが、彼らの望むものを提供すれば、きっとうまくいくだろう。
各氏族と交流を重ねた結果、属性を持つ魔石の入手も飛躍的に向上した。
その結果、魔法士の数もこの2年間で大幅に増えている。
クーベル氏族長、ファラム氏族長から話を聞きつけたのか、時折、氏族間の混血の結果魔法が使えない者たちを引き連れ、エストを訪問する氏族もいた。
水や雷の氏族と交流を持てたのは、これが切っ掛けだった。
彼らは、同胞が魔法士として復活したことを大いに喜び、謝礼として大量の魔石を残していった。
その結果、幼い子供や付与対象から外れている老人たちを除けば、何種類かの魔石は、候補者以上の備蓄ができるまでになっていた。
それらのお陰で、我々は想定以上の戦力を持つに至った。
こうして、先遣隊出発の準備は整えられた。
<魔法士総数 261名>
魔石数 現状 今回 合計 残数
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風魔法士 12個 30名+10名 40名 2個
火魔法士 33個 18名+31名 49名 2個
地魔法士 23個 16名+21名 37名 2個
聖魔法士 8個 14名+ 8名 22名 0個
水魔法士 26個 13名+24名 37名 2個
時空魔法士16個 11名+ 7名 18名 9個
雷魔法士 26個 8名+25名 33名 1個
音魔法士 2個 4名+ 2名 6名 0個
氷魔法士 4個 3名+ 4名 7名 0個
光魔法士 13個 3名+ 4名 7名 9個
重力魔法士 2個 2名+ 1名 3名 1個
闇魔法士 3個 1名+ 1名 2名 2個
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123名+138名 計261名
最後までご覧いただきありがとうございます。
次回は一週間後、9/10の9時に『地の里』を投稿します。
どうぞよろしくお願いします。
【お詫び】
今回の投稿以降、外伝の投稿は週一回のペースとなりますこと、お詫び申し上げます。
(8/24付 活動報告)
大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。




