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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第四十話 狩る者、狩られる者

【お知らせ】8/24付けで活動報告(書籍化進行状況及び投稿について)を更新しました。

アルスたち一行は、放った伝令を待つためと、待ち合わせの時間を調整するため、途中の町で2泊の休養を取っていた。


そしてその後、再び街道を北に進んでゴートの街へと向かう途上で、先に放った伝令と合流することができた。


小休止を取り、アルス、ファル、ファルケ、ゴウラス男爵で、使者からの伝言を確認した。



「なるほどな……

街道沿いで夜を待ち、夜間に避難所まで魔境を突き抜ける訳か」



「カイルの旦那らしい作戦だな。

囮を使って奴らを引きつけ、本隊はこっそり先に逃がすと言うことか」



アルスやファルケは、カイルとこれまでの逃避行も共に行動している。

そのため、カイルの意図を明確に汲み取ることができた。



「奴ら、そう簡単に騙されるでしょうか?」



逆にゴウラス男爵は少し不安げな様子だった。



「作戦の要は、俺たちの無様な慌てっぷりと、入れ替わりのタイミング次第だろうな。視界の良くない夜だからこそ効果のある話だと思うぜ」



ファルケは既に軽口を叩けるほど余裕があった。



「男爵、配下の兵士の方々にもここで情報を共有しましょう。この先の道で打ち合わせをする時間はない。

男爵の兵のうち、20名は本隊を守って先に避難所へ入ってもらいます。

暗闇の移動ですが、カイル殿なら何か手を打っているでしょう」



アルスの自信たっぷりに笑う姿を見て、ゴウラス男爵も覚悟を決めた。

彼らは護衛にあたる者全てに、これからの作戦を共有すると、今度はゆっくりと街道進み始めた。



日が沈みかけたころ、ゴールト伯爵領を抜け、ドーリー子爵領へと入った街道上では、先に進む開拓団の一行が街道脇で停止し、野営を行うため準備を進めている姿を、遠巻きに確認し口元を綻ばす者たちがいた。



「奴ら、今日はここで野営するようだな。

移動する距離を見誤ったのか?」



「そうだな、あの町にも2晩滞在していたし、今日もやたらゆっくり進んでいやがった。

病人でもいるんじゃねぇか?」



「もう少し進んでくれりゃぁ……

お頭たちの待ち受ける場所まで辿り着いたっていうのにな。だが……、これも好機かも知れねぇな」



「ああ、お頭たちに急ぎ使いを走らせろ!

ここなら夜襲にうってつけだ。寝込みを襲えば奴らはひとたまりもないだろうからな」



「ああ、女たちだけで100人はいるだろう。

食料もたんまりな。俺たちは当分はなに不自由なしに暮らせるってモンよ」



一団はこれから彼らが狩る獲物たちを見つめ、その後の戦果を想像して野卑やひた笑顔を浮かべていた。



日も暮れ、辺りが夕闇に包まれたころ、遠巻きにアルスたちを見張っていた一人が、慌てて声を上げた。



「おいっ! 奴らおかしいぞ!

ここからじゃよく見えんが、奴らは移動の準備をしてるんじゃないか?」



「ちっ! 気付かれたか?

奴ら……、ここからゴートまで引き返す気か?」



「いや、それならこっちに向かってくるはずだ。

街道を外れて向こうに進むように見えないか?

あの方角は……、魔境だぜ?」



「くそっ! 素人どもがっ!

安全なケンプファー領のバカ共は、夜の魔境の恐ろしさを知らねぇのか?

急ぎお頭たちに伝えろ!

間もなくこっちに着く筈だ。急がねぇと俺たちの女がみんな魔物の餌になっちまう」



野盗たちは慌てて彼らの追尾を開始した。



「お頭たちが来るまでは、距離を保て。

巻き添えを喰って魔物に襲われたらたまらんからな。奴らの篝火かがりびを目印にしてゆっくり追え。

それにしても、つくづく馬鹿な奴らだな。

逃げるにしろ、あんな目立つ目印を持っていちゃあ、俺たちをける筈もなかろう」



暫く追尾すると、開拓団たちの一行は魔境の限界点、鬱蒼うっそうと生い茂った森へと向かって進んでいった。

彼らの焚く篝火が、その手前の小高い丘に吸い込まれていく。



「ちっ! あいつらっ!」



それは野盗たちが舌打ちした瞬間だった。

追われる獲物だった開拓団の一行は、丘の向こう側で方向を転じ、今度は森の限界線に沿って西へと移動を開始した。



「はははっ! あいつら今頃になって向こうが魔境と気付いたようだぜ。

お頭たちが来る西に向かって逃げてやがる」



「にしても、急に速度が上がったな。荷を捨てやがったか?」



「そんなもん後で拾えばいい。どれだけ早く逃げたって、お頭たちと鉢合わせだ。

馬車をあんなに走らせたら、馬がもたねぇよ。

俺たちはじっくり、獲物を追い詰めりゃあいいんだ」



彼らは狂気に……、いや狂喜に満ちた顔で、暗闇に浮かび上がる、薄暗い線のように続く篝火を追った。

当初彼らが予想した以上に、長い距離を。



カイルたちの作戦第一弾は、『空蝉作戦』とカイルが名付けたものだった。


開拓団が丘の陰に入った際、そこに待機していたカイルたち30名は、すかさず篝火を受け取り、そのまま彼らに代わって西に進んでいった。

何も荷を積んでいない空の荷馬車を引き連れて。


開拓団の馬車や荷馬車は、三日月状の丘の内側に潜み、追ってたちをやり過ごしていた。



音魔法士のソンナは、開拓団の一行がに混じり、魔法で音を消し、彼らの存在を隠蔽していた。


そして野盗たちが十分に丘から離れたこと、周囲の安全を確認すると、ソンナの先導で荷馬車の車列は護衛する20名の兵士とともに、暗闇の魔境の中へと消えていった。


今、野盗の偵察隊が追っているのは、完全武装のカイル率いる30名と、アルス率いる10名、ゴウラス男爵率いる30名、合計70名の部隊に、空の荷馬車が10台だった。



彼らは暫く疾走すると、左手の街道方向、西へ向かう彼らの横合いから突進してくる者たちを視認した。

野党たちは派手に篝火を焚き、これから行われる狩りに気分を高潮させ、嬌声を上げて彼ら目掛け突き進んでくる。



「来たぞ! おあつらえ向きだ。

新手は私たちの頭を押さ、半包囲しようと、並行して追って来ている。

全員、速度をあげるぞ。もう少し西に!

奴らを釣り上げるんだ!」



カイルの指示で、速度を上げた一行は魔境に沿って西へと疾走した。



獲物たちを追跡していた野盗たちは、予想外に素早く逃げる彼らに困惑し始めた。

だが、追撃戦の苦労も、間もなく報われようとしていた。



「おいっ! 奴らの先頭が止まったぞ!

ここで一気に護衛どもを殺し、荷と女共を奪い取れ!」



平行追撃していた野盗たちの本隊は、お頭と呼ばれていた者の指示に狂喜した。

見たところ、50名程度の護衛が森の入り口に立ち塞がり、荷馬車の集団は森の中へと消えていった。


片手に松明を持ち騎馬に乗った野盗たちは、先ずは護衛たちを叩き潰すべく、全力で突進した。

4倍以上の戦力では、勝利は約束されたようなものだった。



奴らにあと少し、獲物が目前まで迫った瞬間だった。

突然、待ち受けた護衛たちが一斉に松明を消した。



「あっ!」

「なっ!」

「うわっ!」



そして、突進する野盗たちの足元の大地が、突然消えた。

正確には、消えたのではなく、そこには東西に広く伸びる、深い塹壕が掘ってあったのだ。


日中であれば事前にそれを察知し、回避するか停止することもできただろう。

だが、夜であり松明片手に持ち騎馬を走らせる彼らの視界は悪い。


先頭だけでなく、後に続く者たちも簡単に停止することはできなかった。

次々に馬もろとも塹壕に落ち、大地に激突した。


辺り一帯に人馬の上げる悲鳴と衝撃音が響き渡った。



運よく後列にいたため、転落を回避できた者たちは、目の前の惨状に言葉を失った。

左右に展開し、包み込むように襲い掛かったため、多くの者が一気に罠に掛かっていた。そのため、200名以上いた仲間たちの7割近くが、塹壕に落ち生死もわからない。



次の瞬間、彼らに矢が襲ってきた。

松明を持っている彼らは、暗闇にいる者たちにとって格好の標的だった。


その攻撃で更に大打撃を受けた彼らは、もうまともな戦力は残っていなかった。



つい先ほどまで、狩る者として獲物を追い詰めていた筈が、今や一方的に狩られる者へと、立場がを変わっていた。


幸い、野盗たちの戦力が失われらと確認した護衛たちは、攻撃を止め魔境の中へと姿を消していった。

僅かに生き残った野盗たちは、安堵のため息をつくと、傷付いた仲間たちを救おうと動き始めた。



想定外の事態の推移に、彼らは冷静さを失っていた。


そこは魔境の畔であることを、彼らが思いだしたのは、血の匂いに惹かれた、大規模な魔物の襲撃があった後であった。


野盗たちは、魔物に狩られる者として最後を迎えた。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は三日後、8/28の9時に『帰還』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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