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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第三十九話 襲撃者の影

アルスが率いる、ゴウラス男爵らの公称魔境開拓移民団は、出発して1日経ち、ゴールト伯爵領に入っていた。ケンプファー男爵領を出て以来、ここまでの移動は極めて順調だった。


馬車を連ね街道を走る一行は、先頭にアルス、最後尾はファルケが陣取り、護衛と指揮を執っていた。

そしてある時、最後尾にいたはずのファルケが先頭に追い付くと、アルスに側に馬を寄せた。



「アルス、お前のことだから気付いているんだろう?」



「ああ、ファルケ。奴らは何騎だ?」



「恐らく10騎から15騎って所だろうな。

今のところは、だが……

男爵領を出た頃から、付かず離れずって感じで、ずっと俺たちに付いて来てやがるぜ」



「そうだな……、ファル、悪いが大至急男爵を先頭まで呼んできてくれないか?」



アルスの指示により先頭集団にいたファルが馬首を巡らせ、暫らくすると、左右を護衛する部隊にいたゴウラス男爵を伴い、再び先頭までやって来た。



「アルス殿、何か異常でもあったか?」



呼びにやったファルの様子から、男爵も何らかの危機を感じているようだった。

アルスは今少し会話しやすいよう、全体の進む速度を若干落とした。



「男爵、我々はここまで予想以上に順調過ぎました。

ケンプファー家の心遣いにより、魔境開拓移民団として、白昼堂々と移動できるようになりましたが、今回ちょっとそれが災いしたようです」



「というと?」



「開拓団ってのは通常、最初の収穫が得られるまでの食糧や、資材類をたんまり持っていますからね。

そして我々は規模も大きい。

しかも大きい割に、護衛する男の数に対して女の割合が非常に多い。これでお分かりだと思うが」



「くそっ! 野盗共か……」



「男爵、どうやらケンプファー領を出る時から、奴らは目を付けていたようですぜ。

今は少人数で後を付けているが、恐らくは襲うに適切な場所と、その時期を見計らってるんでしょうな」



ファルケも会話に加わった。

男爵は彼らの真剣な表情から、事態の深刻さを悟った。



「アルス殿、ファルケ殿、ファル殿、この先奴らは何処で動くとお考えだろうか?」



「そうですな……、奴らは我々が開拓団を称している以上、目的地はドーリー子爵領と考えているでしょうね。ならばそこに向かう街道上に先回りして、兵を配置すれば、簡単に待ち伏せが可能でしょう」



「アルスの言う通り、恐らく……

近くに町もない最も手薄になる所、ゴールト伯爵領とドーリー子爵領の領境、あの辺りでしょうな」



「ファル殿! そこはっ……」



「ええ、我らの待ち合わせ予定場所です。

しかも進軍が予定より順調な我らは、10日目まで時間を調整しなければならない。

そうすると、奴らもその分、より多くの仲間を集めるでしょうね……」



「ドーリー伯爵領周辺は、前回の戦い以降一気に治安も低下している。ゴロツキ共は至る所に溢れている」



「で、ではファルケ殿、その数は?」



「我々の兵力は60名、そして兵力の倍以上の非戦闘員を連れている。

それを見越して奴らは、取りこぼしの無いよう仲間を集めるだろう。

そうすれば……、少なくとも100、恐らく200か?」



ファルケの読みにアルスは暫く考えこんだ。

野盗100名程度が相手なら、自分たちの精鋭10名に加え、男爵兵50名もいれば恐らく十分対処はできる。

守るべき者さえいなければ……


ただ、非戦闘員を抱えている今、100名相手でも同行者に被害が出るだろうし、敵がそれ以上なら、守りつつ戦うのは無理だ。



隊長を任されているアルスは決断した。



「ファルケ! すまんが足の速い2騎を先行させてくれ。奴らに追い付かれないぐらいの速さでだ。

昼夜兼行で避難所まで走れば、我々より少なくとも1日は早く着く。向こうに状況を知らせてくれ。

男爵、我々は予定を変更し、ゴートの手前にある町で夜を明かします。あそこなら対魔物用の城壁もある」



「承知した。急ぎ走らせる。

兵たちの警戒態勢は……、まだ何も知らせず、妙な動きをしない方が賢明か?」



「ファルケの言う通りだな。

男爵、今のところ兵たちには伏せて置いてください。

兵が警戒を始めれば、きっと奴らも気付くでしょう。そうすれば、奴らは対策を考え、油断しなくなる。

我らは彼らに奇襲され、慌てふためいて逃げる必要があると思う。後はカイル殿次第だが……」



「承知した。兵たちに周知するのはこちらが体制を整えたとき、ということで良ろしいかな?」



「はい、まぁ……

襲撃の危険が愈々(いよいよ)高まった時は、周知していただくことになるので、いつでも話せる心づもりをお願いします」



このようなやり取りの後、彼らは早めに途中の町に入り、そこで一夜を過ごすことになった。



カイルたちは、合流の期日となる2日前の朝、受け入れ準備の整った魔境東端の避難所にて、アルスが放った急使の報告を受けた。



・脱出を率いる本隊は順調に作戦をすすめていること

・1日前倒しで待ち合わせ場所に到着する予定のこと

・想定以上の人数を率いた部隊になっていること


これらは、ケンプファー家の庇護を受け、公式にはドーリー子爵領での魔境開拓団と称し、大手を振って動けた結果だということが共有された。



そしてアルスたちの懸念も伝えられた。


・野盗の偵察部隊思しき一行に追尾されていること

・この先で大規模な待ち伏せの可能性があること

・待ち合わせ場所近辺で襲撃される可能性が高いこと



「なるほどな、予想以上に順調だったが、

好事魔多し……、そういうことか?」



報告を受けた私は考え込んだ。



「100や200の敵であれば、この避難所で迎撃態勢を整え、撃退することも可能ですが……」



それも可能だろうし、最も安全かつ妥当な戦略だが……


一人でも逃せば、この避難所の存在が露見する。

それは、この先の脱出を危うくしてしまうため、今は採るべきではない悪手だ。


暫く考え込んだのち、私は決断した。



「奴らを撃退する!

だが、ここではなく魔境の外、ずっと西の方角でだ。

アース、街道から最短距離でここに進む、魔境内の道の整備とその偽装は終わっているな?」



「はい、馬に繋いだ荷馬車でもここに駆け込めます。

光苔を要所要所に植えておりますので、先導する者さえいれば暗闇でも行けますよ」



「であれば、魔境の入り口部分で本隊の非戦闘員を回収し、野盗共はここより西側へと釣り上げる。

そこに罠を張り、一気に撃滅しよう」



「カイル殿、その手とは?」



「先ず準備として、地魔法士が魔境入口部分に隠れ蓑となる丘を築く。

そのあとは我々が魔境に沿って誘導し、避難所1つぶんの距離を西に進み、そこで奴らを叩き潰す。

作戦の要旨を伝えるので、お前たちは休息後もう一度街道を戻り、このことアルスらに伝えて欲しい。

準備もあるため、決行は予定通り合流日の夜とする」



カイルたちは一部の留守を残して、魔境の外を目指して慌ただしく避難所を出て行った。

その後暫くして、2名の伝令も再びアルスの元へと馬を走らせるため、避難所を後にした。



その後カイル達は、仲間のうち5名だけを避難所に残し、アベルたちを含め30名を伴い、魔境の避難所に繋がる道路の端まで来ていた。


そしてアースたちに依頼し、地魔法により小さな丘を急ぎ作った。


この丘は、魔境側の入り口を覆うような三日月形で、高さ5m、幅50m程度でなだらかな稜線を持ち、街道側から魔境への入り口部分の視界を遮断していた。


その作業が完了すると、魔境の畔に沿って西へと10キロほど進むと停止し、次の作業に掛かった。



「アース、申し訳ないが先ずは地魔法士10名を率いて罠を頼む。簡単で構わないので時間を優先で。

アベル殿たちは彼らの支援をお願いする。


残りの地魔法士たちは、ここから魔境内への引き込み通路と、その先に簡単な防壁のある陣地を作る。

引き込み通路は300歩ほど(≒100m)で構わない。

陣地も300歩四方で構わない。

それ以外の者は、木々の上に仕掛けや射撃台を! 各自作業は必ず複数で行い、一名は周辺の魔物な警戒を忘れずに頼む」



「応っ!」



全員が作業に散ると、私は傍らに残ったソンナに声を掛けた。



「毎回で申し訳ないが、ソンナには周辺警戒を頼む。この辺りもそれなりに魔物はいるだろうしね。

間違っても構わないので、怪しいと思ったらすぐ警報を出して欲しい」



「はい、了解です。では、警戒に入ります」



全員が一斉に作業に取り掛かかり、それは夜を徹して行われた。



カイルらが必死になって作業を行っている場所から、そう遠くない地点、ゴールト伯爵領とドーリー子爵領、その領境に広がる荒涼とした大地の一角には、200名を超える野盗の集団が集結しており、このあと訪れる久々の大きい獲物を待ち受けていた。

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