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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第三十四話 中継所ファラン

春も盛りの穏やかな朝、私たち総勢750名はテイグーンを後にした。

まず目指す目的地はこの先、北に設けた中継所を経由し、川を越えた先にある二番目の中継所だ。



「ではみんな! これより安住の地に向けた旅となる。

我々は仲間も増えた。旅のための食糧も十分に蓄える必要があるため、先ずは第二中継所を目指し、そこで畑を作り更なる旅の準備を行う。

第二中継所まではここから3日の行程だ。

さぁみんな、出発だ!」



総勢750名のうち、600名が移動を開始した。


先遣隊として50名は騎馬で早朝に出発している。

彼らは第一中継所を通過し、一気に第二中継所を目指し、そちらの工事を完了させつつ本隊の到着を待つことになっている。


また100名は足の遅い家畜たちに同行し、先遣隊と時を同じくして出発している。

彼らは日が落ちるまでに第一中継所を目指し進んでいる。本隊も途中で家畜たちには追い付くだろう。



我々は細く曲がりくねった岩ばかりの隘路を抜けると、緑豊かな草原と林が広がる大地に出た。

春の暖かな日差しにが草原を照らし、あちらこちらで花が咲き、彩を加えていた。



「ここからが、風の氏族の大地、エストールか。

ファラム殿の言われた通り、魔境の中とは思えないほど、穏やかな場所だな……」



私は草原を抜ける清々しい風を浴び、深呼吸しながら思わず呟いた。


一般的に魔境は鬱蒼うっそうとした木々が生い茂り、深い森の形を成している。

だが眼前に広がる景色は、それとは全く異なる風景が延々と広がっていた。


風の氏族の住む領域は、魔物の出没も少なく、危険な魔物も滅多に出くわすことがない。

そして、定軍山に比べ大地は豊かな実りをもたらしてくれる。



できるなら、この先私たちが住まう里も、こういった穏やかな大地に恵まれたいものだ。

私は草原を眺めながら、未来に思いを馳せていた。



午後になって、私たちは先行した家畜部隊と合流し、小休止後に本隊が先行、家畜部隊は後に続いた。



「どうだ? 魔物が出たと聞いたが……」



慌てて最後尾に駆け付けた私は、奇妙な光景に思わず吹き出してしまった。


猪に似た魔物、カリュドーンが土壁に頭から突っ込み、頭から半身は土の中にめり込んでいた。

そしてそこから抜けることもできず、宙に浮いた後ろ足をパタつかせていたからだ。



「あ、カイルさん!

風の氏族に教えてもらったとおりですよ。奴ら、真っすぐに突進することしかしないから、地魔法士が正面に土壁を作ったら、そのままめり込みました」



ファルケも笑いを押し殺していた。

牛ほどの大きさの巨大な猪で、その重量をいかした突進と、巨大な牙には注意が必要だが、こうなっては形なしだった。



「ファルケ、道中でカリュドーンが出れば積極的に狩ろう。これの肉は食用になるし、この大きさだ。

少しでも食料として補充できると嬉しい。


サラム! 剥ぎ取り後の不要部位とともに、血は焼き払って欲しい。比較的安全とはいえ魔境の中だ。

ソラ! 剝ぎ取った肉と牙は水魔法士が血を洗い流したあと、収納をお願いしたい。


血が流れる、手の空いている者は散開して、索敵行動に移り、対処は魔法士の遠隔攻撃で」



「応っ!」



こうして移動の初日は、家畜の護衛と狩り、それらを並行して行うこととなった。

このような両面作戦が取れるのも、ゴウラス殿率いる100名の兵士たちの合流があったからだ。


新たに合流した同胞の300名は、当面戦力として考えていない。

彼らには肝心のこと、魔境での戦闘経験がない。

そのため専ら、男たちには家畜の誘導や馬の手綱を引いてもらい、女子供は護衛部隊の盾の内側で移動している。



そに日の夕暮れになってやっと、私たちは家畜隊を含め全てが第一中継所に辿り着いた。

結局その日の狩りの成果は目を見張るものがあった。


カリュドーンの群れが近くにいたようで、血の匂いに釣られて集まった6頭を一気に倒した。

その後、黒狼が集まりだしたので、囮となる不要な部位を残し、先に進んだ家畜部隊に合流した。


カリュドーン一頭あたり、約200kg~300kgの食用部位が取れる。

6頭で合計1.2t、一人当たり200gとしても、6,000食分だ。

750人で割ると、全員が8回の食事にありつける。


第一中継所では、皆が大はしゃぎであった。

これまで、家畜の数の維持もあって、肉食は極力抑えていたが、この日ばかりは皆で満喫した。



この第一中継所は、一辺が300mの四角形の構造で、防壁は10mの高さで囲い、門となる大きな木戸と、通用口として階段を上った先に小さな木戸を設けている。


内部は特に何の構造物も無いが、井戸とその脇には粘土で固めた水場を設けている。

一夜の休息場所としては、十分過ぎるものだった。



「ねぇねぇ、カイル、明日はどれぐらい歩くの?」



皆も食事が終わり、一息ついたころに、アクアが走り寄ってきた。

初めて会った時は彼女はまだ10歳だったが、既に13歳、時が過ぎるは早いことを改めて実感した。



「そうだね、次の目的地までは今日より遠いかな。

馬なら半日ちょっとで行けるけど、家畜を連れて歩くとなると1日じゃ辿り着けない。

そのため、途中に小さな避難所を作っているので、そこで一夜を明かすことになるよ」



「そっかぁ。まだまだ遠いんだ?

なんか第一とか第二とか、カイルはわかりにくくないの? これまでも中継所っていっぱいあったし」



「こらっ! アクア、何度も言ってるでしょ。

呼び捨てにしちゃ駄目っ! カイル様はもう長なんだから、私たちの遊び相手じゃないのよ。

お母さんに聞かれたら、また怒られるよ」



アクアの姉である、テスラも横から参加した。

テスラは既に15歳。初めて会った時から少し大人びていた。



「……」



「そうね、アクアがカイル様の名前も付けたことだし、避難所も名前を付けてあげるのはどう?」



少ししょげるアクアに、テスラは話題を変えた。

するとアクアはまたすぐに元気になった。



「うーん……

両方とも、風の氏族の土地なんだよね?」



「そうだね、このあたりから、第二中継所のある川の上流まで、ずっとそうだよ。

ファラム氏族長率いる、風の氏族の住む地、エストールだ」



私が答えると、アクアは少しだけ考え込んで……



「そっかぁ……、なら、ここはファランってどう?

その次はエスト! これなら族長様の名前も覚えやすいし、里の名前も覚えれるよ」



「はははっ! アクアは名前を付けるのがうまいね。

一応、ファルム氏族長にお名前借りてもいいか確認が必要だけど……、そうしようか。

エストの先の中継所も、皆に相談するから着いたときに名前を付けてくれるかな?」



「任せてっ!」



そう言ってアクアは駆け出して行った。



「これからも中継所はどんどん増える。

テスラも一緒に名前を考えること、お願いするね」



テスラは黙って一礼すると、アクアを追って駆け出した。


その後ろ姿を見て、私は改めて思った。

彼女たち、子供たちが安心して暮らせる村を、安心して遊べる安全な大地を、用意してあげるのが我々大人たちの責務だ。



まだ当分時間はかかりそうだけど、必ず実現したい。

そのための、新しい旅は始まったばかりだ。



アクアが名付けた2つの中継所、これらは五百年の時を経て、エスト、フランと呼ばれ、それぞれ人口二千名規模の街へと発展することになる。


だが今は、まだその片鱗もなく、カイルたちも想像すらできなかったり。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は三日後、8/10の9時に『中継所エスト』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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