表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/68

第三十二話 朱に染まる道

クーベルたちが隘路にて逆襲を行っていたころ、ゴールト伯爵軍が拠点とし、出撃していった砦の周囲に潜む、怪しい集団がいた。


その数31名。


彼らは三角砦と名付けた拠点に、救助した人外の民と、ケンプファー男爵とその旗下にある兵士たち、補給などを担当する仲間を残し、出撃していた。



「この中継所を占拠している兵は、ざっと100人か……

アース、地魔法で四方から一気に防壁を崩すことは可能だろうか?」



「そうですね……、今ここにいる地魔法士は私を含め2名だけです。なので一気にとはいきませんが……

一面づつなら崩していけます。何方に追い立てますか?」



「うん、ゴールト伯爵の本隊に合流されても厄介だ。

南側の壁だけを残し、北、西、東の順で崩落させ、奴らには南東方向、関門側に逃げてもらおう。

合図と共に頼む」



私はアースに作戦の実行を依頼し、残余の者を率いて一旦後退し待機した。

暫らく待っていると、見張りの者から報告が入った。



「隘路出口付近で天灯が上がっています。アルス殿が作戦を開始されるようですっ」



「了解した。では、我々も始めるとしよう。

ソンナ、我々の声をできる限り大きく。数百人の軍勢の鬨の声に見せ掛けて欲しい」



頷くソンナを見て、私たちは一斉に鬨の声を上げ、作戦開始の告げた。



砦内で留守を申し渡された者達は、突然南西方向が明るくなり、鬨の声があがったことに驚愕した。

数百はいるであろう鬨の声に交じり、恐らく味方であろう悲鳴も聞こえて来た。



「敵襲っ! 撤退だぁっ!」


「関門まで逃げろっ!」


「全滅するぞっ!」



これらの声が聞こえたと思ったとき、突然、轟音を立てて南側の防壁が崩落した。

鬨を置いて、崩落は西側、東側と続いた。

その間も敵の歓声はどんどん大きくなり、多数の敵が迫りつつあることが分かった。


この砦も、防壁を失えば魔物から身を守る、安全地帯ではない。

しかも、数に勝る敵軍の攻撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。


なんとか崩落に巻き込まれずに済んだ80余りの兵たちは、無我夢中で南東へと走った。

自分たちの半分以下の敵兵に怯えて。



ゴールト伯爵らは、撤退時の大切な拠点が失われたことをまだ知らない。


カイルたちは、留守部隊が遺棄していった食料などの物資を接収し、柵につながれたままの馬を引き連れ、いずこかへと姿を消した。



隘路出口付近に展開するアルスたちは、潰走する敵軍が眼下を通過するのを待ち受けていた。


別に展開するカイルへは、攻撃開始を告げる天灯を、先ほど空に放っていた。

各時空魔法士から分配された物は、それぞれが既に隘路に投げ込んでいる。


アルスはじっと時を待った。

そして、潰走した敵軍の先頭が眼下を通り過ぎたころ、先頭開始を告げた。



「火計班、火玉を下に落とせっ! 火魔法士は着火と火球攻撃を!」



彼らは手元に用意していた1メートル大の、藁と芝で球状にしたものに、火を付け眼下に転がした。

炎の塊となったそれは一斉に、火の粉をまき散らしながら、潰走する兵士たちの頭上に落ちていった。


炎の塊は、隘路に落ちると衝撃で激しく炎をまき散らし、そして地面が突然燃え上がった。

事前に、アルスたちがまいた油に引火して。



伯爵旗下の兵士たちは、突然落ちて来る炎の塊と、地面から沸き起こった炎の壁に巻き込まれた。


ある者は制動がきかず、そのまま炎の中へと消え、

またある者は炎から逃れるため崖下へ転落し、

それ以外にも多くの兵が火傷を負いながら、必死で炎から逃れようと逃げ惑った。



「第二段階、雷魔法士の攻撃開始! 他の者は弓を!」



炎の壁を避け、立ち止まった者達は密集していた。

不思議なことに、その場所には至る所に水たまりができ、彼らは足元を濡らしていた。


往路は暗闇で彼らは気付かなかったが、地面には塩がまかれ、そこに水魔法士が放った水で水溜まりが広がっていた。


そして突如、雷を浴びたような衝撃が彼らを襲った。



「うぁばばばばっ」


「ぐがががががっ」



彼らは絶叫しながら身体を痙攣させ、のたうちまわった。更にそこに、上から矢の雨が降って来る。


そして彼らはここに至ってやっと気が付いた。

この隘路自体が、自分たちを死へと誘う、悪辣な罠となっていることを。


多大な犠牲を出しながら、半分以下に減ったゴールト伯爵率いる侵攻軍は、満身創痍で隘路を抜けて東にある砦へと走った。

既に残骸となり、守る兵士も、防御壁もない砦へ……



やっとの思いで戦場を離脱し、潰走していた兵士たちも、なんとか出撃した砦に辿り着くことができた。

だがそこで、彼らは衝撃的な事実を知った。



「これはっ……、どういうことだ?

守備兵たちはどこに行った!」



ゴールト伯爵の、絶望の声に反応する者は誰もいなかった。


そこはただ、以前に何かの建造物があったであろう、そう思える程度の廃墟となっており、南側の壁だけが、かろうじてその姿を保っていた。



「悪辣な……、関門まで一旦撤退する!

おのれ奴らめ、覚えておれっ! 次は皆殺しだ」



ゴールト伯爵たちは、まだなお暗い、夜の魔境を抜けて移動を開始した。

だが、その一行は負傷者も多く、潰走している過程で武器を失ってしまった者も多い。


彼らを取り巻くように、魔物達が後を追っていることを、必死で逃げる伯爵たちは気付かなかった。

そう、今度は彼らが餌になる番であった。



もうどれだけ移動したか伯爵自身覚えていない。


伯爵自身、騎馬で少しでも早く駆け抜けたかったが、多くの者は徒歩で移動している。

彼らと行動を共にするというよりは、孤立して魔物に襲われるのが嫌で、伯爵は彼らと共に撤退していた。


途中で幾度となく魔物の襲撃を受け、都度、少なくない数の兵士たちがその犠牲となった。

闇夜の撤退で道に迷い、離散した兵達も多い。


大地を紅く染める朝日が昇るころ、100名に満たない数まで減った一行は、必死に走り続けた。

彼らの後方には、魔物に襲われた同胞たちの血で、道は赤く染まっていた……


魔物たちはその跡を辿り、集結しながら間断なく襲ってくる。



「だめですっ! 完全に取り囲まれていますっ」



兵たちの絶叫を聞き、ゴールト伯爵は叫んだ。



「儂は……、儂は栄えあるローランド王国の伯爵だぞっ!

魔物などに襲われる道理など、あるかっ!

あっ、ひぃぃぃっ、いやじゃぁっ!」



この言葉が、隆盛を誇ったローランド王国伯爵、ゴールトの最後の言葉となった。

彼は、横合いから突進した魔狼の牙にかかり……、大地に引きずり降ろされ、絶命した。



北の魔境に侵攻した、ゴールト伯爵率いる遠征軍1,300名、開拓団300名は全滅した。


威容を誇って出陣した関門には、結果として僅か十数名の兵士が命からがら辿り着けただけだった。

この兵士たちは、カイルたちの攻撃によって砦から逃亡した者達であり、もちろん隘路での戦いの経緯は知らない。



ローランド王国では、ゴールト伯爵を始め、複数の貴族当主、そして1,300名もの兵士を失った事態を重く見て、その後は北の魔境への遠征を固く禁じた。


魔境を隔てる関門の大扉は、その後百年以上の単位で、再び開け放たれることはなかった。



戦場で日が昇り、朝がやって来たころ、カイルたちは慌ただしく働ていた。


一隊は、地魔法士を中心に、隘路の出口を取り囲む防御壁を構築していた。

一隊は、三角砦から保護された者達を率い、定軍山へと移動し、

最後の一隊は、隘路上、及びその近辺での敵負傷者の救助と、遺体の回収に走りまわっていた。


ケンプファー男爵と旗下の兵も、救助と遺体回収の任に付き、保護された人外の民たちもこれに加わった。

里の近くで、負傷者や遺体を放置する事は、新たな魔物を誘う呼び水となる。


彼らは必死になって、その作業に当たった。


こうして、彼らは遠征軍による侵攻の危機と、その後にくる魔物襲来の危機を免れた。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は三日後、8/4の9時に『新たなる旅の始まり』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ